春の色

やっぱり、優しいだけでは
大切なものは、守れなかったよ。

このように、とりわけ長所があるわけでもなく
平凡、と評するにもまだ、歪なかたちのぼくには
ただひたすらに、深く、深く、努力を続けていなければ
存在することさえままならない、
そんな気がしています。

つよくなること、おとなになること、
いつまでも終わりのない、心の中の話をしている。
朝の来ない夜を、泳ぎ続けるように。

薄氷に触れれば、じわりと溶けていく
その感覚は
冷たすぎてまだ
春、とは思えないな。
どんな色に溶けたとしても
きみのこころであれば、ぼくは
必ず見つけ出してあげるからね。


とりわけ長所があるわけでもなく
普通と言うには歪すぎる
ぼくらでも
誰より努力したり
いつも笑顔でいたり
しなくたって生きてていいだろ。

雪が溶けたあとには、春が来て
雪の色にそっくりの、
きみに似た、小さな花が咲くよ。

きみにそれを直接教えてあげられないのが
ぼくはとても寂しいです。

つめたい魂

温かい温度を教えてくれたひとだから
たとえあなたの全てが嘘でも
ぼくはあなたを愛していたい。

恥ずかしいから、あんまり見ちゃ嫌だよ。
いい?

初めからひとりぼっちの寂しさは、少しずつ慣れていけばいいので、
突然何かを失う悲しさよりはずっと、易しいことのように思います。
そんな不甲斐ない弱さのことを、きみにしかできない魔法だ、と諭してくれる、あなたの優しさが、ずっと続いてほしくて
今はまだ、このままの距離でいましょう。

何も言わなくても、大丈夫。
ぼくは、許すと決めているから。

意思を持たない自然の、空や、風や、水面などは、全て、心の押さえ込んだ部分を映し出していて、
見る者によって姿を変え、惑わすのだと言います。
いつでも、どこにいても、悲しいことや苦しいことは、追いかけてくるね。
それでも、慣れてしまえば、そんなに悪くないような気もします。
人生は、そういうものだと思えば。

あのひとを愛しているのは、ぼくだけではなくて、
たくさんの悲しみや寂しさも、きっとあのひとを愛しているのですね。
寂しさは、あのひとにとって、かけがえのないものなのかもしれませんが、
ずっと前から大好きなひとなので、ぼくはぜったい負けたくありません。


この先に何があっても、ぼくは全てを許せるよ。
きみはどうする?

スプーン一杯の狂気

失くしたものを数えた指先。
忘れることができない夕暮れ。
きみが歌う。

「大切なものを失くしたことがあるひとにだけ、この姿が見えるの。」
どこか、泣いているように見えるね。
「どうしてだと思う?」

忘れることのできない記憶を閉じ込めた、必要とされる部屋。
ティースプーンをくるくる回して、出口のない優しい香り。

ぼくの気持ちを分かってくれるのは、きみだけだよ。
「そんなことないよ。でも、北風はそう思わせたいんだろうね。きみひとりなら、簡単に連れ去ってしまえるもん。」

形のない指先。かつて足りないものを数えた、冷たい指先。鍵のかかった扉。

「北風にとっては、ひとりぼっちのときに見つけた答えのほうが、都合がいいもん。でもね、」
最後にコートを脱がせるのは、暖かな太陽なのだ、と。

大切なものを失くしたひとにだけ、きらきらひかる小さな木漏れ日。
泣いているように見えるのは、忘れられない記憶のせいだと思うな。
指と指の隙間からこぼれた、きらきらひかる光の粒。
ティースプーンでくるくる混ぜて、終わりのない、あの日の星空のような夜だ。


第51回テーマ スプーン一杯の狂気
#ヘキライ

魔法の呪文



暖かくて優しい、ひかりのようなあなたが、ぼくは好きで。

それだけで終われなかったのは、ぼくのせいだな。
大切にしたい気持ちなのに、触れようとすると棘になって、それでいてきらきらとするから。
嫌なことは、簡単に忘れられたらいいのに。
大好きなところだけ、永遠に記憶に出来たらいいのに。

生きてるの、大好きなところだけ、永遠に記憶に出来たらいいのに。
いつか来るさよならは、さみしい気持ちのまま時を止めてしまうんだろうな。
幸せねって言われて、返そうと詰まる言葉。
もらったのは全部愛だと思ってたんだ。
きらきらとしてれば、そんなの誰だって綺麗だって言うから、みんな何も悪くないよ。

暖かくて優しい、ひかりのようなあなたが教えてくれた、どこにでもあるおまじない。
暖かいのは、少し嘘をついているからだよ、って、ぼくもまた頷き、受け入れている。


#ヘキライ 魔法の呪文

我が主


行かないで、と言えなくなったのは、大人になったからだよ。
「家に帰ろう。」
やさしくわらうひとだということ、ぼくだけが知っていた。

初めて出会った夜も、こんな風に雨が降っていたよね。

傷付いたことにも気付かないような、不器用なひと。
心臓が冷たくても、温かい手のひら。
例えどんなに弱くても生きていけるんだって、どういう意味かな。
ぼくらはまだ、どこにも行けない。
心臓が冷たくても、やさしくわらうひと。

だいじょうぶ、悲しくて泣いた夜も、生きていればいつか、忘れることができるからね。
触れてもこわくないこと、ぼくだけが知っていた。


#ヘキライ 我が主
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