あの日
彼女が見せてくれた笑みは
特別なものになりました
*あなたに愛を*
ディディー「ねぇ!フォックスの初恋の人って誰?」
ブッ。
優雅に飲んでいたコーヒーが勢いよく口から飛ぶ。
それにしても、ディディーから聞かれるとは思いもよらなかった。
フォックス「……別に。いないけどさ」
一度調子を整え、コーヒーを口にする。
ディディー「ピカさんじゃないの?」
フォックス「ぶほぉ!!」
なななな何を言っているんだこいつは!と心の中で大絶叫。
運悪く気管に入ってしまい咳き込んでいると、ディディーがにやけながら言った。
ディディー「やっぱりピカさんなんだぁ!」
フォックス「ばっ、声がでかい!げほっ」
さぁ、どう対処しようか。
そんな考える間を与えず、ディディーはさらに話を進める。
ディディー「どこが好きなの?」
フォックス「え、…まぁ全部か、な。あいつ、男っぽいけど、ちゃんと女らしいところあるし」
ディディー「ベッドの下であんあん泣くところとか?」
フォックス「お前ネスかマルスから変なこと教えられただろ」
悩みの種が増えてしまった。
しかし、何故ディディーは見抜いたのか。
まさか、顔に「ピカ大好き!」と書いてあるのだろうか。
ディディー「ねぇ、何で好きになったの?」
その簡単なようで難しい質問に頭を悩ませた。
うーん、と唸りながら瞳を閉じて考えてみる。
――好きになった瞬間。
そう、あの日だ。
ゆっくり瞼を開き、ディディーの瞳をとらえる。
きょとんとするディディーをよそに、フォックスは話し始めた。
フォックス「そう、あの日だったかな。俺があいつに惚れたのは――――…」
初代、まだ12人の頃。
まだリンクの人見知りが激しく、サムスが孤独を好んでいたとき。
そして、ピカが誰ともつるんでいなかったときだ。
3人を除くメンバーがリビングに集合した。
マリオ「あいつらどうすんの?俺らが話しかけてもうんともすんとも言わねぇ」
プリン「……やっぱり、ピカはまだ…」
ヨッシー「?どういうことですかぁ?」
はい…、と深刻そうに頷くと、切ない顔をしながら言った。
プリン「……ピカは人間に、両親を奪われたんです…。トレーナーのポケモンとして奪われたのではなく、命を奪われました」
一気に部屋の空気が下がった。
構わず、プリンは話を進める。
プリン「幸いなことに、妹は助かりました。…ですが、両親を失ったピカの生活は荒れました…。仲間への暴力、自然破壊、そしてついには、自分への暴力。次第に彼女は、その人間への殺意が芽生えました」
目いっぱいに涙を溜めながら、話した。
それはあまりにも辛くて、残酷だった…。
プリン「だから、ピカは関わりたく無いんだと思うんです。…人間にッ!」
とうとう涙がこぼれ落ちて座り込んだ。
あわててカービィが近寄って背中をさする。
プリン「お願い…、ピカを、ピカを救って!私じゃ、彼女を救えないの…ッ」
それを聞いたフォックスは、無言で部屋を出ていった。
それに気付いたマリオはヨッシーに「任せた」と言って後を追った。
コンコン。
ピカの部屋のドアをノックするが、やはり出てくれなかった。
仕方ない、と思いっきり部屋のドアを蹴り開けた。
ピカ「ちょ、何だよてめぇ!」
ベッドに潜り込んでいたピカが出てきて怒鳴りこんできた。
しかしフォックスは無言で部屋へ入る。
この行動にキレたのか、ピカは横を通り過ぎようとしたフォックスの腕を握った。
ピカ「てめぇ…、どういうつもりだよ」
ギリっと腕を握る力が強くなる。
フォックスはというと、ハァと大きく息をついてからピカに振り返った。
フォックス「…あのさ、いい加減俺たちと話せよ」
ピカ「はぁ?あんたに言われたくないけど」
フォックス「いつまでも殻の中に閉じ籠ってるつもりか?自分を傷つけてさぁ!」
ピカ「………!」
流石のピカも目を見開いた。
プリンが喋ったのか、と小声で言い、フォックスに怒鳴りつける。
ピカ「お前に言われたくねぇ!とっとと部屋から出ていけよ!!」
フォックス「嫌だね。お前が心を開くまで俺は帰らない」
ピカ「……ッ」
面倒なことになった、と舌打ちをする。
相変わらず、フォックスはピカを見つめている。
と、突然ピカが泣き顔になり、大きな声で言い始めた。
ピカ「お前なんかに、俺の何がわかるんだよ!嫌なんだよ、うざいんだよ!!頼むから、独りにして!俺に関わらないで…ッ。近づかないで!!」
フォックス「…独りになんかさせない」
ピカ「ッ」
ピカの腕を掴み、抱きよせた。
何事もないかのように話を続ける。
フォックス「俺は…、俺たちは、お前の両親を奪った奴とは違う。みんな、お前のことを心配している、優しい奴等なんだよ」
すう、と息を吸い、強調して言った。
フォックス「俺たちを、信じてくれ」
そして、ピカを解放する。
すると彼女はへたりこみ、声をあげて泣いた。
ピカ「辛かったよぉ…!!わたしね、大好きな親がいなくなって、ぴぃを守らなきゃいけないって思ったら、重く感じて…!」
本当のピカを見て唖然とする。
この子は、こんなにも女の子らしかったのか。
そして、こんなにも…。
ピカ「…信じて、いいの?」
こんなにも、頑張ってきてたのか。
フォックス「あぁ、信じてくれ」
微笑みながら言った。
それにピカは照れたのか。
ピカ「ありがとう」
満面の笑みで言った。
この笑みだ。
この笑みで、惚れたのだ。
最初は何が起きたのかわからなかったが、次第に顔が赤くなっていったのがわかった。
マリオ「…やってくれるな、フォックスの野郎」
フォックスを追っていたマリオは、二人に気付かれないように盗み聞きをしていた。
マリオ「今回は完敗だぜ」
なぜか一人、格好をつけながらその場を去っていった。
フォックス「…ま、こういう感じかな」
照れ臭そうに、鼻をこする。
ディディーは完全に顔を赤くしていた。
フォックス「あ、これはみんなには内緒だからな」
くすりと笑い、部屋を出ていった。
それは俺だけに見せてくれた
本当の彼女の姿でした
end