『恋は盲目』
「タマキちゃん、お疲れ様ばいばい」
「ああ、お疲れ様」
仕事を終え、仲間達は帰宅の途に就く。
人も疎らになったミーティングルームで、俺は珍しくパソコンに向かっていた。
つい先程、事務処理を隊長に仰せつかったのである。
この時間にまだ半分も終わっていないので、今日は残業決定だ。
でも嫌だなんて少しも思わない。
だって、隊長は忙しい人だから…。
俺はキヨタカ隊長の役に立つのならば、なんだって嬉しいのだ。
そう、隊長の事を思えばなんだって頑張れる。
俺はキヨタカ隊長の事を考えながら仕事に打ち込んだ。
………
……
…
「ふぅ…あと少し」
そう呟き、一気に終わらせてしまおうと意気込んだ瞬間、ミーティングルームの扉がゆっくりと開く音がした。
誰が入ってきたのかと扉に目をやると、そこには隊長が佇んでいた。
隊長の姿を見ただけで、俺は思わず笑顔になってしまう。
「タマキ、帰りがけに仕事を押し付けてしまって悪かったな…」
隊長はそう言いながら、俺の側まで歩み寄り隣に腰掛けた。
「全然…気にしないで下さい…」
俺はあなたの力になりたいんです。
役に立てるならなんだってするんだ。
「おまえには本当に感謝している……もう、終わりそうか?」
「はい、あと少し…」
「そうか、じゃあこのまま待っていよう」
隊長は微笑みながらそう言うと、頬杖をついて俺をじっと見つめた。
「あ…えっと、じゃあ…すぐ終わらせます…」
俺はキーボードに手を添え、仕事の続きをしようとするが、隊長の視線が気になって中々集中できなかった。
「隊長…」
「なんだ?」
「少し、やりにくいです…」
「なんでだ?」
なんでって…
そんなに見つめられたら誰だってやりにくいと思うけど…。
それに何より、俺は隊長の事が好きな訳で…
一緒にいるだけでドキドキと苦しくなってしまう事に、少しは気付いてほしい。
隊長は依然として俺を見つめながら微笑んでいる。
ああ、苦しくて辛い…。
でも今はとにかく集中して早く終わらせなくては…。
そう思いなんとか自分を奮い立たせてキーボードを叩く。
すると隊長は、楽しそうに俺に囁いた。
「タマキの真剣な顔も中々いいな…」
「………へ?」
「ぞくぞくする」
隊長が急にそんな事を言うものだから、俺は思いっきり赤面してしまった。
「真っ赤になったタマキも可愛いぞ」
あーもう!
「隊長!それ以上何も言わないで下さい」
俺は思わず自分の口元に人差し指を押し当て、静かにしててくれと隊長にジェスチャーしてしまった。
だって…
このままじゃ、終わるものも終わりそうにない。
「ふふ、そう怒るな。わかったよ、おまえの言う通り黙っててやるよ」
「すいません…」
でも、そうして頂けるととても有り難いです。
そう心で呟き、俺は再度パソコンに向き直った。
集中してPC画面に向き合う事1時間弱。
なんとか打ち込み作業を終わらせ、シャットダウンを待つ。
隊長もあれから大人しくしていてくれたので助かった。
「終わったか?」
「はい…お待たせしました」
隊長は俺の頭に手を伸ばすと、「お疲れ様」と言って優しく撫でてくれた。
嬉しくて恥ずかしくて、俺は隊長を見つめながらはにかんだ。
「ところでタマキ…」
「はい?」
「おまえの言う通りにじっと黙っていたんだが…」
「はあ…」
「褒美はなにをくれる?」
「褒美?」
なんの事か瞬時にはわからず、弾かれた様に隊長の顔を見据えると、隊長は悪戯っ子のように笑っていた。
その表情から、俺はなんとなく隊長が何を言いたいのかを悟った。
「………何が、欲しいんです?」
「ああ、そうだな…とりあえずタマキからのキスを…」
隊長はそう言うと、俺に顔を近付けた。
唇が重なり合う手前で隊長はまたにやっと笑う。
俺は隊長の顔を両手で包み、そっとキスを贈った。
「これで…いいですか?」
唇を離して隊長に問い掛けると、隊長は俺の頬に手を添え囁いた。
「じゃあ、今度は俺からタマキに褒美をやろう…」
「隊ちょ?……んんっ!」
隊長は俺の唇に己の唇を押し当て、深く舌を絡めてきた。
「……はぁっ…」
思わず吐息が漏れる…
全身が熱くなって、頭がぼーっとしてしまう。
ひとしきりお互いを求め合い唇を離すと、隊長は少し笑いながらこう言った。
「相変わらず、いい声を出すな」
「……何言って…」
「ふふ…続きは家でする事にしよう」
隊長はそう言い、楽しそうに立ち上がった。
俺も立ち上がろうとするが、どうした事か下半身に力が入らない。
「隊長…ちょっと待ってください…」
「うん?どうかしたか?」
きっとこれは…
隊長のキスのせいだ…。
恥ずかしくて顔に熱が集まる。
「………立ち上がれません」
俺がおずおずとそう言うと、隊長はにやりと、正に不敵に笑った。
「そうか…タマキが此処がいいと言うなら、俺は一向に構わない」
隊長は俺に近づくと、俺の前髪を掻き分け音を立てておでこにキスをした。
その行動がなんだかとても優しくて、心の中が温かくなる。
俺は本当にこの人を好きになって良かった…
そう思ったのも束の間。
俺は隊長に抱き上げられデスクに押し倒された。
「隊長…」
「タマキ…好きだよ」
本当は……
本当はこんな所でするのは不本意だ…。
だけど隊長を目の前にすると、俺は何も言えなくなってしまう。
恋は盲目とはよく言ったもの…。
隊長と出会ってから、きっとこの状態は始まっていたのだ。
だからもう抗う事は出来ない。
大好きなキヨタカ隊長の側にいられる事が、俺の喜びだから…。
おわり
*キヨタマのイチャコラが書きたかったんですよ!
私もね、キヨタカの為なら仕事目茶苦茶頑張ると思います(笑)
そして、読んで下さる皆様のお陰様で、トップページ6000hit突破でございます!
ありがたや〜m(__)m