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ふたりごと
(ふたりごと)
「死ぬ前に靴を脱ぐのは幽霊には足が無いからなんだって、」
フェンスの向こうに立つ彼女は言った。僕は確かにそうだね、とだけ返して縦に羅列する手の平サイズの文庫本を読むのに夢中だ。今読んでいるのは調度ホラーミステリーの部類で彼女の言葉が頭の中で反復されて文字と一緒にグルグル渦を巻く。ふと、静かになった屋上で顔を上げた、
「…ねえ、……!」
そこには丁寧に脱ぎ揃えられたローファーが一足脱いであるだけで、彼女の姿は何処にも見つけることが出来なかった。
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