文倉庫


2010/2/22(Mon) 18:09

あまいあまいゆめのさき

まさか本当にケツ毛ごと愛してくれはしないが、少し距離は縮まったのかな、と思っている。
会いに行く代償のように増える外傷は減らないが、なんとなく。
ただ漠然と感じるその予感に自信が無い訳でもない。

「お妙さあああん!!!」
「黙れゴリラ、ご近所様に迷惑でしょう」
断じて、俺の愛は歪んでなどいない。
眉間に立てられた細い中指の力が抜けた辺りで、いつも通り話を切り出す。
「大通りにある茶屋に新メニューが入ったんですよ!よかったら一緒に」
「お断りさせて頂きます」
もう片方の手に持っていた竿が勢いよく飛んできたが、それは首の一寸ほど前で止められた。
「私忙しいのでそろそろ…というか消えろクソゴリラ」
「じゃあ何かお手伝いしましょうか?!」
「おめーの大便みたいな顔拝み続ける位なら死ぬほど忙しい方がマシだっつーの」
「な、女性が大便などと言ってはいけません!」
「じゃあウ●コ?」
「お妙さあああああああん!!!!!!駄目ですって!!!」
「うるさいなクソたれたゴリラが」
「お妙さんもうストップ!!!…でもそんな貴女も大好きです!!」
「私は嫌いです。さようなら」
ニコッと笑い辛辣な言葉をかけてくる彼女。

 

「…あ、近藤さん」
家の少し奥まで歩いた所で歩きを止め、振り返る。
「玄関先の薔薇、近藤さんの仕業でしょう?」
「はいっ!喜んでもらえるかなって思って」
「もう、門前に置いてあってびっくりしましたよ。新ちゃんが気がついた時に、気味が悪いって言ってました」
「えへ…丁度お出かけしてる間に来てしまったので、置いて帰ってしまいました」

はあ、と溜息をつき俺から目を反らす。
隠れて穏やかな顔を浮かべたように見えた。目の錯覚かもしれないけど。

「…私は、」
「はい?」
俯き話しだす彼女の様子は少しばかりおかしかった。
なんだか、普段とは違うような。
強がりのような、恥じらいのような。
そんな様子を見つめていると、急にはっとして再び目を反らされた。

「私は、薔薇も好きですけど」
つん、として横顔しか見せてくれない彼女。
結局、それでも美しいのだ。
「ガーベラみたいな可愛らしい花も好きです」

 

一瞬の沈黙の間に生じた微かな甘い空気は、居間に飾ってある薔薇の香のせいか。
そんなことを考えつつ、やっぱり頬が緩んでしまう。

「じゃあ、薔薇が枯れる頃にはガーベラの花束を持ってきますね!」
「…結構です」

僅かな微笑みを見た気がしたのは、きっと錯覚。

 

 

 

あまいあまいゆめのさき
(花がにあう彼女へ捧ぐ、精一杯の。)




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