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先輩の助手席


二年前の話です。




ある朝、自転車通勤中に信号待ちをしていたら後ろから


「おはよう!」


と声を掛けられたので振り向いたら、会社の先輩が車の中から手を振っていました。


私は軽く挨拶してすぐ前を向いたのですが、何とも言えない違和感に気付きました。


先輩の助手席に人が乗っていたのです。


肩にかかる長さの茶色い髪、ほっそりした色白の顔の女性で、下を向いていました。


同じ部署の先輩に似ていたので


「あれ?二人で出勤?」


変だなと思ってもう一度振り返ったら、どう見ても運転席の先輩一人だけ。


すぐに信号は変わって、車は発進していったのですが、やはり一人しか乗っていません。


錯覚にしては、あまりにも鮮明に助手席の女性を思い出す事ができます。


白い服で、薄い黄色のカーディガンを羽織っていました。


先輩にその話をしても怖がらせるだけなので、黙っていました。






その日の帰りは遅くなり、八時近い時間になりました。


自転車に乗って帰る時、会社の駐車場で佇むあの女性を見てしまいました。


朝に見た、あの助手席の女性です。


先輩の車もあります。


色々考えていたら怖くなってきて、早く家へ帰りたいと思いました。


近道の裏道は怖いので少し大きめの道路を走りましたが、その日はやけに交通量が少なく、稀に車が走るくらいでした。


いつもいる筈の自転車や歩行者が全くいません。


そのうち、気のせいか車道と反対側の左側から、人の息遣いのようなものが聞こえてきました。


とにかく急いで交通量の多い通りへ出て、途中のスーパーへ入りました。


人が沢山いて、落ち着いてきました。


店の中から自分の自転車を見ましたが、あの女性はいませんでした。


そのままその日は家へ帰りました。


次の日は土曜で自転車を使わなかったのですが、日曜に自転車を見たら左のハンドル部分の先が擦れたようになって千切れかけていていました。


左のペダルの反射板も割れて欠けていました。


少なくともハンドルは、金曜はそんな状態ではありませんでした。


偶然の悪戯かも知れませんが、気味が悪いので部品交換してもらいました。


翌日、出勤したら例の先輩が日曜に車に乗っていて横からの追突事故に遭って、鞭打ち、肋骨骨折で入院した事を知りました。


先輩の車は廃車だそうです。


ちなみに先輩の車は中古車でした。


私はその半年後、転職しました。


気味が悪かったので、引っ越す際に自転車を廃棄しました。




先輩は今は髄液減少症で苦しんでいます。










category:
呪われし勇者達の死ぬ程怖い話

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