話題:小説風日記


 久しぶりに彼の夢を見た。
 と言っても別に彼が主役だったわけではなくて、ただ、彼がいた頃の夢を見た。

 私はまだ二年生で、責任とか焦燥とかそんなこと考えずにへらへら笑って生きていた。
 何もしなくていい時間はたくさんあって、その分だけとろけていく脳みそ。とろけた分だけ幸せに緩む頬。

「ねぇ先生、あのね」

 放課後の南階段、掃除も終わった静かな時間にどうでもいいことを話して、笑って、恋をした。

 夢の中でも彼は誠実で、真面目で、優しくて。優しさを溶かした笑顔で笑ってた。

 朝が来て、目覚めた私は三年生で、何もしなくていい時間は少しもない。
 この学校にあなたはいなくて、とろけた脳みそを掬い集めて生きていく。
 日々の中にちりばめられたあなたが残した喪失感は、不意に私を過去に拐かす。

 ねぇ、先生、元気ですか?

 あなたのいない火曜日の南階段は、暗く静かで寂しくて、少しせつなくなるけれど、廊下の曲がり角で足を止めずに歩けるくらい、あなたのいない日々にも慣れてきました。