ざわめきの凪、とでも言うんだろうか。昼飯を食べ終えた生徒たちの笑い声でさざめくように騒がしかった教室が、一瞬だけヒタリ、と静まり返った。
 そよ風が吹き過ぎるほどのわずかな間。次の瞬間にはまた取り留めのない声の波にかき消されてしまう程度のささやかな沈黙だったけれど、俺の半覚醒の浅い眠りを起こすには充分な揺さぶりだった。
 突っ伏していた机から首だけ起こして、脱力した瞼を押し上げる。
 開け放した窓から初夏の陽射しがちかちかと舞い込んでいた。無数の光の粒が空気に乱反射して、世界が真っ白に輝いて見えた。どこか非現実めいた眺めだった。醒めきれてない、夢みたいな。
 田島も三橋も机に体を預けて、小さなガキのようにすやすやと健やかな寝息をたてていた。その背中にも陽射しは等しく降り注いでいた。寝顔だけ見ていれば、穏やかなことこの上ない光景だ。例え目覚めた瞬間余計な嵐を巻き起こす二人組だったとしても。

 眠りにつく二人の向こうで、浜田は窓を背にして静かに席についていた。手にはアルバイトの求人雑誌が握られていたが、そのページは俺たちが昼飯を食べていたときから一向にめくられていないようだった。
 目にゴミが入った時みたいに、浜田は何度も瞬きをしていた。ぎゅうっと眉間に力を入れて、目を細めて。そんな浜田の背後から、光は次から次へと散ってくる。


「…目、痛ぇの?」

 問えば、浜田はたった今目覚めたばかりの人間のようにはっとして、

「眩しいんだ」

 俺の質問に答えるというよりはただの独り言のような調子で呟いて、またひとつ、ゆっくりと瞬いた。
 光源は自分の背後にあるんだと、浜田は理解しようともしていない。



 初夏の陽射しが舞い込んで、全てがまっ白に輝いて。光踊る世界の中で、浜田だけがひとりだった。




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