▼楽しんでしまえ。
「僕を執拗に追い回すのはやめなさいってば。」
看守であるベルは腰に手をおいて、ため息を混じらせながら双子に告げた。少し疲労感が見られる。
「何で何でー?」とランタンはニコニコというよりも、にやにやと怪しく笑みを含ませてベルの袖を引っ張った。
「目の前にある食べたいと思ったお菓子が自分から逃げ出したら、そりゃ追いかけるでしょ」とジャックも袖を引っ張る。
ここは程度を問わず犯罪者が服役せさられている刑務所だ。ジャックとランタンは若きにして服役中の元犯罪者。
それに対してベルは看守を兼任する警察組織の人間である。
さて、彼らがこうなった経緯は複雑そうに見えて至ってシンプルである。きっかけはベルが彼らの前を何気なく通過した時に遡る。
要するに遊んで欲しかったのだ。
ため息を交えながらベルは「何で君たちは僕ばかりなの、他に優しくしてくれる看守さんたちや囚人の人たちがいるじゃないか」と半ば諦めた様子で双子たちに問いかけた。
すると双子は互いに顔を見合わせて、ベルに対してとても不思議そうな表情をしてみせた。
「ベルだから遊びたいんだよ」
偶然か、もしくはタイミングを合わせたのか双子は同じことを同じタイミングで彼に投げかけた。
目を見開き、少し驚いた表情で双子の顔を交互に見る。がしかし表情はいつもの疲労感の溢れるものに戻り、深いため息をついた。
双子は相も変わらずな表情でベルの袖を引っ張っている。
「ねえねえベル、今日も遊ぼーよ」
「何する何する?おいかけっこ?たくさんお喋りもしようね」
何が楽しくて彼らは笑っているのだろう、何が面白くて彼らは自身の袖を引っ張っているのだろう。
そんなことを考えたが、考えたこと自体が意味がないことに気付いてふと笑ってしまった。
それに気づいた双子がまた不思議そうに彼を見ている、深緑の瞳がこちらを見つめている。
「どうしたの?何かおかしかった?」とジャックは両手でベルの片腕を掴みながら心配そうな顔をして覗き込んできた。
ランタンは袖を揺すりながら「ベルー?」と心配しているのか不思議がっていた。
彼らと出会って間もない訳でもない。しかし他にも沢山いる看守の中で何故自分が好かれているのか未だに分かっていない。
でもこの状況が嫌な訳ではない自分がいる。
「なら楽しんでしまうのも手かな…」
ふとそんなことを呟いてベルは不思議そうな表情をしている双子たちの頭を撫で回した。