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罪深き純愛(中編)

(どういうつもりなのでしょう……)

部屋に入ってから生きている心地がしない。玉龍の性格上、普段は口数が少なくても気にはならないけれど、…今日はやけに居心地が悪い。
当の本人はその波たった心も知らず、うずくまるようにして長いまつげの影を落としていた。そこからは何ら読み取ることは出来なくて、規則正しい呼吸音が上下する胸からかすかに聞こえてくるだけだった。

安心しきった、穏やかな寝顔。

「…今日は色々とありすぎです」

思わず自嘲めいた言葉が零れる。

まだ少年のようなあどけなさが残る彼の素顔は、私が思う彼の姿とはあまりにもかけ離れていて。

…疑いようがないではないか。

彼はいつもまっすぐで、恐ろしく純粋。誰よりも私を守ることに従順なのだ。自己の犠牲すらも、厭わないほどに。
だけどその濁りのない意志に、私たちは何度も救われた。どんな時も、どんな状況でも、不可能すらも可能にしてしまう彼の強さは、私にはいつも眩しくて。


…だから、怖くなった。


私は彼のような純粋な心を、持ってはいないから。


彼のふとした笑顔に、その悲しみの宿る瞳に、切なさと焦がれ。
この手をのばしては、ためらった。

――私は、何に触れようとしている?


"お師匠様"を一途に守る彼の背中の後ろで、


私は……。

「お師匠様、髪」

びくっと身体が揺れる。いつのまにか、私まで夢の中へ誘われていたようだ。

「玉龍…?」

「…まだ濡れてるよ」

感情の読めない抑揚で、その手が髪を優しく撫でた。遠慮がちに、そっと指が絡められる。

まだ私は、夢の中にいるのかもしれない。

玉龍が私に、触れている……。

「…ごめんね、お師匠様。…髪、ほどいていい?」

「ん…」

その響きに、胸が痛いほど締め付けられる。…どうしてこんなにも息苦しいのか、私には身に覚えがあるはずなのに。
その理由を探っていると、沈黙を肯定と受けとめたその指が、するすると髪に沿って流れていく。

優しく、いたわるように。

穏やかに、…艶めかしく。

「やっぱり、まだ…」

少し戸惑ったように呟いて、冷たくなった髪にはぁ、と息を吹き掛ける。
彼なりの気遣いに胸が温かくなる一方で、いつもの彼らしからぬ行動にやけに色香を感じて、惑わされてしまう。

「お師匠様の髪、いい匂いがするよ…」

夢見心地な、彼の甘い言の葉。それに第六感すらもゆだねれば、すぐ隣に感じた彼の体温も、濡れた吐息も、何もかもが心地よかった。

そう、これは都合の良い、甘いだけの夢なのだから。
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