記念最後はこれ!
前にバトンでやった怪盗団。すごく楽しかったので、そのメンバーでバトン小話!久々にバトンで小話!

前のバトンを見てない方に簡単に説明しますと、妙、あやめ、伊東、山崎が怪盗団。坂田が警察です。坂田は怪盗団を追っていて、怪盗団の正体はバレてません。そんな感じ。

ではどーぞー




紡いでください95


好きなように言葉を紡いでください。



→また始まった(山崎とあやめ)

「私はね!銀さんに会いたいのよ!!」

ドンっと空いたグラスをテーブルに置いたあやめが、もう何度言ったか分からない台詞を口にする。山崎はあやめの台詞より、グラスが割れないかどうかが気にかかる。

「ちょっと!聞いてるの!?」
「聞いてるって。坂田さんでしょ」

さりげなくグラスを確認してから、それをテーブルに角に置いた。勢い余って割られたらたまらない。

「大体ね、なんで私が銀さん専属のおとり役じゃないのよ」
「まあ、それやると坂田さんにかかりきりで他の仕事をしないからじゃない」
「あんたってあのメガネと同じこと言うのね」
「いや、自分もメガネでしょ」
「私のメガネはあの男のメガネと違うのよ!」

どうやらかなりイラついているようだ。理由は簡単、意中の相手である坂田に会えないから。警官である坂田とはあの仕事でないと関わり合えない。

「それに、お妙さんもお妙さんよ」

話題は伊東から妙へと飛ぶ。

「なんでいつも銀さんを助けるのよ。そこは私を呼ぶべきじゃない?」
「あー」

確かに。助けてしまうくらいなら、あやめを呼んだ方がいい。何のために罠を張っているのかということだ。毎回律儀に山崎のトラップにハマる坂田を、これまた毎回助けてあげる妙。これに関して伊東は静観しているようだが、思うところはあるだろう。しかし当の妙本人が何も言わないので、その理由を探れないままだった。

「じゃあさ、もう坂田さんの家探したら?」

山崎は不自然じゃないように話を変える。

「偶然装って出待ちすればいいんじゃない」
「馬鹿ね。そしたら変装しなきゃいけないでしょ」
「あ、そっか」

坂田とはあっち側の仕事で会うのだ。一応顔は隠してあるが、何度も接触しているため近くにいれば素顔でバレる可能性もある。

「私はね、猿飛あやめとして銀さんと接したいのよ。偽りの私を銀さんに見せるなんてまっぴらごめんよ!」
「あーそう」

山崎が気の抜けたようにハハっと笑う。こちらに迷惑がかからない範囲でなら好きにすればいいと思う。だが、本人なりに真面目に悩んでいる仕事仲間を放っておくこともできず、山崎は今夜も愚痴に付き合うのだ。



→夜遊びとはいけないな(伊東と妙)

妙は夜空を見上げる。今日は月が綺麗だ。ライトのように照らされれば、たとえ真夜中であれ自分の状況くらいは確認できる。

「大丈夫?」

妙は尻餅をつき怯える少年に声をかけた。

「これ、貴方のでしょ?」

差し出したのは茶色い財布。

「あの人達が戻ってくるかもしれないし、早く帰った方がいいかも。また絡まれる前にね」

少年は震える手で財布を受け取ると、何度も頭を下げながら暗闇に消えていった。頼りない足音が遠ざかっていく。近くで見ると全く似ていなかったが、俯いた顔が少しだけ弟に似ていた。妙があの少年を助けた理由。でもきっと、似ていなくても助けただろうけれど。
少年の足音が消えかけた頃、また別の新しい音が生まれた。少年が消えたのとは逆の方向から。少年に絡んでいた男達が逃げた方だ。妙は僅かに身構えて、その音を見つめる。

「──そこで血相を変えた男達とすれ違ったよ。まるで何かから逃げているみたいだったな」

足音が止まり、月が男を照らす。

「キミも、夜遊びはほどほどにしないとね」

仕事帰りだろうか、上質そうなスーツに身をつつんだ男に妙は僅かに目を見張る。そして、ふふっと表情を緩めた。

「あなたこそ、こんな時間に女子高生に話しかけてると誤解されますよ」
「誤解されて困るような生き方はしていないつもりだよ」
「伊東さんらしいですね」

そう言って妙が微笑むと、男の目元が幾分が柔らいだ。




→なるべく小言で話そう(怪盗団)

「前回の反省点を一人ずつ述べてくれるかな」

伊東の言葉に三人は顔を見合わせる。口火をきったのは妙だ。

「反省することなんてありましたか?」

妙が小首を傾げる。そのポーズ可愛いなーと山崎がうっかりトキメイテいたら、あやめがズイっと前のめった。

「ねえ伊東さん。あなた言ってたわよね、結果が全てだって。それで、この前の仕事はどうだったの?大成功だったじゃない」

愛しの銀さんにはドMのあやめだが、気に入らない男に関してはS気味になるようだ。冷めた視線を伊東に浴びせかける。しかしそれに怯むような伊東ではない。僅かに口角を上げると、何枚かの紙を机の上に投げた。

「今回の結果がこれだ。各自確認するといい」
「これって・・・似顔絵ですか」

妙は目の前にあった一枚を手にとって、そこに描かれている人物を見つめる。長い髪に眼鏡。口元だけ隠してあるが、これはどこからどうみても・・・

「猿飛さんだ」
「どこがよ!!」

横から覗き込んでいたあやめが机を拳で叩く。

「これのどこが私だっていうのよ!?」
「え、猿飛さんじゃないの?」
「似ても似つかないじゃない!!」
「うーん。山崎さん、どう思う?」
「いやあ・・・それが猿飛さんなら、これは俺かなあ」

困った顔の山崎がぴらりと見せてきたのはまた別の似顔絵。そこには妙が持っているのとは違い男性が描かれている。

「えっと、じゃあこっちのは私・・・?」

妙が最後の一枚を手にとって眺める。黒髪の少女が微笑んでいる絵だ。

「ちょっとなにこれ!どうしてお妙さんだけ美人に描かれてるのよ!」
「いや俺だってひどいよ。全然似てないし」
「それを言うなら私も似てませんよ。髪の色くらいしか・・・」
「私なんて人間かどうかも怪しいんですけどー!?」
「──とにかく」

伊東の静かな声に一同押し黙る。

「キミたちが僕の計画に従わず派手にやった結果、こうやって似顔絵もどきが出回りだした現状について今から一人ずつ反省点と改善点を述べてもらってもいいかな」

有無を言わせぬ笑顔に、三人は顔を見合わせ「はーい」と頷いた。



→関係ないわけない(あやめと妙)

「お妙さん。私とあなたって仲間よね」

頬づえをついたあやめが妙を見つめる。

「私は猿飛さんと仲間だし仲良しだって思ってるけど」
「私も思ってるわよ」

二人でゆっくり話したいというあやめの誘いを受け残った二人。心配そうな山崎は伊東に呼ばれ出ていったので、ここには本当に二人しかいない。いないからこそ言えることがある。

「ねえ、お妙さん。あなた、どっちの味方なの?」

包み隠さない言葉に妙は安心する。あやめはいつも本音を語ってくれるから。

「猿飛さんがそう思うのは、私が坂田さんを助けるから?」
「ええ、そうよ」
「不自然かしら」
「不自然だって分かってるんでしょ?」

忠告はされたはずだ。伊東からも山崎からも。そして本人である坂田からも。ただじっと見つめる視線に、妙が困ったように笑った。

「・・・感謝してるから」
「感謝?」

言葉の意味を図りかね、あやめは首を傾げて繰り返す。

「あなたが銀さんに?」
「そう。あの人に感謝してるから、お礼のつもり」
「お礼ってことは、前に会ったことがあるの?」
「うーん、どうかな」
「ここまできて誤魔化さないでよ」
「猿飛さんだからここまで言ったのよ」

それ以上言う気はないらしい。妙はニコリと笑うと立ち上がった。

「でも、どちらか選ばないといけない時は間違えないから」

安心してとでも言うように。




→終わらない怒鳴り声(坂田と同僚)

「旦那ァ、あれいいんですかィ」

そんな顔見知りの言葉に、坂田は怒鳴り声の大元に目を向ける。見えたのは部下に声を張り上げる上司の姿。

「いいんじゃね。楽しそうじゃん」
「頭の血管が切れそうな勢いですけどねえ」
「まあ、あんだけ失敗してりゃね」

そりゃ怒鳴りたくもなるだろうとは思う。なんせ今回も逃げられたのだ。あの怪盗団の奴らに。

「今回も後手後手ですかィ」
「結構いい線いったんだけどな」
「あんたまた罠にかかったみてえですね」
「あいつマジでいい加減にしろって思ったわ」
「陽動っつーか、特攻担当の奴?」
「それ。あとおとり役のエム女な。あいつは存在自体が罠だから」

あの日のことを思い出すと坂田の眉間にしわが寄る。散々だったので思い出したくはないのだが。

「結局逃げられたし。罠かかり損だわ」
「頭の切れるリーダーか司令官がいるのかねィ」
「あーなんかいそう。多分すっげえ性格ねじ曲がってる奴」
「ああ、あんたみてえな」
「そうそう、お前みたいな」

のんびり話している二人だが、署内の空気はピリピリとしたままだ。よくあれだけ怒鳴れるものだと感心する。職務に忠実ということなのかもしれないが。

「つーか、旦那。報告してねえことありやせんか」
「報告ねえ・・・」
「あんたが罠から抜け出せた方法とか」

坂田が鼻で笑う。

「そりゃあれだろ。日ごろの行いがいいからじゃね」

何でもないというように。




→受け入れられない?(伊東と山崎)

「きみ、少し落ち着いたらどうだい」
「いや、でも」
「彼女達は喧嘩をするわけじゃないだろ」
「そうですけど」

雑多なカフェには音で溢れていて、だからこそこんな話もできる。

「彼女たちが何の話をするつもりなのか、きみも分かっているだろう?」
「まあ・・・多分あのことかと」
「いつか起こるだろうと思っていたことが今日起こっただけ。遅すぎたくらいだよ」

怪盗団としては上手くやっている。仲間内で揉めるにしても遺恨が残ることはなく、どちらかといえばじゃれ合いのような側面が大きい。いつも一緒にいるわけではないし、お互いをよく知らないのだが、信頼関係は結ばれていた。その中にある一つの懸念。

「妙さんがあの警官を助ける理由。それは誰も知らない。気になるなら本人に確かめるしかない」
「それは分かってます」
「なら心配する必要はない」

優雅な所作でカップに口をつける男は淡々と言い放つ。

「もしも妙さんの秘密が僕らにとって危険なものなら、きみは妙さんへの対応を変えるのかい」
「対応は変えないですよ。対策はしますけど」
「僕も同じだよ」

それはきっとあやめも同じだろう。会話が一息ついたところで、山崎は口をつけてなかったカップに手を伸ばす。なんとなく向けた視線の先に二人の姿が見えた。こちらに向かっているのか、じいっと見ていたら妙と目が合った。山崎が軽く手を振れば、妙がふわりと微笑む。

「・・・やっぱ理由次第じゃちょっと対応変えようかなあ」
「へえ。たとえば?」
「何か弱みを握られてるなら、それを解消する手助けをして好感度を上げるとか。お金の問題なら一緒にがんばって頼りになるってとこ見せるとか」
「下心満載だね。動機が不純なのがきみらしいよ」
「これで俺が上手くいっても恨みっこなしですからねー」

山崎は楽しげに笑って、冷めたコーヒーを一気に飲みほした。



→じっとしてるだけじゃ(山崎と妙)

「山崎さん」
「あ、こっち危ないよ」

その言葉に妙は歩みを止める。

「ここにあるんですか?」
「うん。分からないでしょ」
「今日は坂田さんじゃなくて私が罠にかかるところでした」

微笑んだ妙に手を伸ばし、安全な道へ誘導する。こんなときなら自然と手を繋げるのに。

「どうしたんですか?」
「あ、いや、今日も罠にかかってくれるかなあって」

さすがに妙と手を繋いでることを意識してますとは言えなくて、とっさに当たり障りのない事を言ってみる。少し誤魔化した感はあるが妙は気にすることなく「大丈夫ですよ」と笑った。

「・・・今日も助けるの?」

疑問に思っているのはあやめだけではない。伊東の言った通り、山崎もそれが疑問だった。疑っているのではない。知りたいのだ。

「それ、猿飛さんにも訊かれました」
「ああ、うん」
「その前は伊東さんに」
「え、そうなの?」

もっともらしいことを言っていたが、伊東も結局は気になっていたのだろう。いつでも冷静な彼の人間らしさが見えて少しだけ親近感が湧いた。それを本人に言う勇気はないが。

「山崎さんはどう思います?」
「そうだね・・・不思議だなって思ってる、かな」
「ふふ・・・優しい言い方ですね」
「ただ疑問だなってだけだからさ。気になるっていうか」

多分、他のメンバーも同じなのだと思う。知りたいのだ。彼女のことが。

「・・・いつかお話します」
「そっか。じゃあそれでいいんじゃない?」
「あ、でもそんなドラマチックな話じゃないですよ?」
「それはほら、今のこの状況がドラマチックだから」

繋いだままだった手を振りつつ辺りを見渡す。眼前には(今は見えないが)罠が張ってあり、その向こうには本日の獲物が鎮座している。そろそろ囮役のあやめが動き始める頃で、その全てを伊東がどこからか監視している。そして二人が向う先は。

「さあ行こうか」

手を離す前に一度だけぎゅっと握る。離そうと力を緩めたら、妙がぎゅっと握り返してくれた。



→さあね、知らないけど(坂田と妙)

「うおっ!!!」

また罠にかかった。あいつマジで馬鹿じゃねえの。毎回律儀に引っかかる自分も馬鹿だけど。

「くっそ・・・あいついねえのかよ」

毎回罠にかかると、その近くに必ず男がいた。顔はよく分からないが、なんだかどこにでもいる普通な感じのやつだ。そいつは坂田が罠にかかると決まってどこからか現れ、「またあなたですかー?」と一言告げるのだ。そいつが今日は出てこない。

「もしかして捕まったのか?」

いや、それはないだろう。それならば坂田に連絡があるはずだ。ということは単純にいないということかもしれない。

「いなきゃいなきゃで腹立つな」

今回の罠は足元に張った糸のようなものに触れるとその周りに仕掛けた網に包まれ木にぶら提げられるというもの。前回と違い命の危険はないが地味に恥ずかしい。

「なんだよこれ、どうすりゃいいんだよ」

もがいてみても抜け出せそうにない。早く任務に戻らなければ怪盗団の思うつぼだ。しかし坂田は内心の焦りとは別に落ち着いていた。罠にかかると現れる人物はもう一人いるからだ。

「・・・また罠にかかったんですね」

音もたてずに現れたのは、ほっそりとした立ち姿。顔は見えないが、声で若い女だということが分かる。逆に言えば分かるのはそれだけ。

「よお、お前もまた来たのかよ。見世物じゃねえぞ」
「今回も派手な罠ですね」
「あいつに言っとけよ。いい加減にしろって」

女は傍まで来ると、隠した瞳でじっと坂田を見上げた。目の前の坂田を見ているようで、何か別のものを見つめているようで。何を考えているか分からないし、どんな表情かも分からないが、なんとなく坂田は感じていた。この女は自分に温かな感情を抱いているのかもしれないと。

「・・・なあ、ここ切ってくんない?」
「ここですか?でも、ここ切っちゃうとそのまま落ちますよ?」
「だからだよ」

落ちて、痛くて、ついでに頭打って眩暈なんかもして。その間はお前から目が離せるし追えないだろ、と。それが伝わったのか、顔を隠した女が微笑んだような気がした。



→ま、がんばってね(怪盗団)

「大成功、てところかしら」

あやめの得意気な言葉に妙が頷く。

「大成功でいいですよね、伊東さん?」

隣の伊東に笑顔を向ければ、伊東が微かに微笑んだ。

「今回は良かったんじゃないかな」
「今回も、でしょ。あなたイチイチ嫌味なのよ」
「きみはイチイチつかかってくるね」

やり合う伊東とあやめをよそに、山崎と妙が控えめなガッツポーズで笑い合う。

「やりましたね山崎さん」
「だね。よっし、これで反省会はなしだー」
「山崎くんは残ってもらうよ」
「え?」
「ああ、もしかしてあれかしら?むだにお妙さんの手を握ってたから」
「えええ!?あれ、見て・・・」

あのときのことは不可抗力だと説明したい。ただ、その後すぐに離さず繋いだままだったのは意図的だったが。

「山崎くん。仕事中いい度胸だね」
「いや、違うんです!あれは、ね?違うよね?」
「あれは私が罠にかかりそうだったからで、山崎さんは変な意味で握ってきたわけじゃないんです」
「そうそうそう!!」
「ただ、やけに長く繋いだままだなとは思いましたけど・・・」
「えーーーー!!??」
「やはりそうか・・・」
「私のことストーカーとか言えないじゃない、このムッツリ崎くーん?」
「だーかーらー違うって!!」
「うふふ。ごめんなさい山崎さん。ついノリで」
「そのノリ今はダメーーーーー!!かわいいけど!!」
「さて、と。反論があるなら訊こうかな。時間はたっぷりあるからね」
「あらもうこんな時間。今日の隠し撮り銀さんの整理しなきゃ」
「猿飛さん、手伝おうか?ついでにお茶でも」
「いいわね。じゃあ私とお妙さんは帰るわ。おつかれさまー」
「では失礼します。おつかれさまでした」
「ああ、おつかれさま。また連絡するよ」
「まって!!オレもお茶会したい!!」
「君はこっちだよ山崎くん」


おわり

頭文字を繋げると
「真夜中王子様」


お疲れ様でした。


※「好きなように言葉を」で検索をかけて頂くとこのシリーズの過去のものが出てくると思います。


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あー楽しかった!書いてみると色々と浮かんでくるもんですね。妙ちゃんがなぜ坂田さんを助けるのかは考えてませんが(笑)あれだってそういうバトンだったんだもん!私が知りたいよ!
バトンだけど、なんか一つの話を書き終えた気がしてます(笑)やりきった感ハンパない!