【復興日本】震災から見えた危機 開かれぬ安保会議 (産経新聞) - Yahoo!ニュース
産経新聞 5月11日(水)7時57分配信
3月11日の東日本大震災発生から1カ月ほどたったある日。国会内の一室で、内閣官房の官僚が自民党幹部に1枚の資料を示し、説明を始めた。
「わが国の危機管理体制について」
こんな表題がついた資料には「すべての緊急事態」に対処するための政府としてとるべき初動体制が示されていた。初動体制は時間を追うごとに5段階に分かれていた。
(1)緊急事態に関する情報集約
《関係省庁は緊急事態やその可能性を認知したら直ちに内閣情報調査室へ報告する》
(2)緊急参集チームの参集および官邸対策室の設置
《内閣危機管理監は官邸危機管理センターに緊急参集チームを緊急参集させ、官邸対策室を設置する》
(3)関係閣僚の協議
《政府としての基本的対処方針、対処体制等を首相や官房長官が関係閣僚と緊急協議する》
(4)安全保障会議の開催
《武力攻撃事態や重大緊急事態の場合に、国防の基本方針や対処方針について審議する》
(5)対策本部の設置
《政府全体として総合的対処が必要な場合、法令や閣議決定等に基づき、緊急事態に応じた対策本部を迅速に設置する》
自民党幹部は、しばらく4番目の項目を凝視した後、核心を突いた。
「東日本大震災が起きてから、安保会議は一度も開かれていないではないか。なぜだ」
官僚は“言い訳”を並べ立てた。
「安保会議は、自然災害のときに開くことを念頭にしたものではありません」
「今回は武器を使う事態ではなかったですし…」
「緊急災害対策本部や原子力災害対策本部がすぐ設置されたので…」
それでも自民党幹部は納得せず、資料をたたきながらなお追及した。
「安保会議も緊急事態に開くべきものなのだろ? 資料にはそう書いてあるじゃないか!」
確かに今回の東日本大震災が資料の4番目に記された「重大緊急事態」であることは疑いようがない。“官僚答弁”がついに本音に変わった。
「開くか開かないかの判断をするのは、最後は首相なので…」
◇
安保会議という既存の組織は活用しようとしない菅直人首相だが、新組織の設置にはなぜか熱心だった。
被災者生活支援特別対策本部、原発事故経済被害対応本部、福島原子力発電所事故対策統合本部…。泥縄式に組織を乱発させ、気がつけば
約20にふくれ上がった。当然、指揮命令系統は混乱し、責任の所在が不明確になった。
今月6日になって、法律上の根拠がある緊急災害対策本部と原子力災害対策本部の2つを柱に、他の組織を各本部の下部組織に吸収させた。とはいえ名称変更で済ませたものばかりだ。
多くの組織は法令上の根拠がないままで、抜本的な解決がされたわけではない。
その日、首相は緊急の記者会見を開いた。中部電力浜岡原発の稼働停止要請を発表するためだ。
「何といっても、国民の皆さまの安全と安心を考えてのことだ。首相として決定した」
「首相の決定」をことさら訴えた首相は記者団から法律上の根拠を聞かれると、「指示とか命令という形は、現在の法制度では決まっていない」と説明した。
法的根拠のある組織よりも、政治主導で発する決定を優先させる−。菅政権の危うい震災・原発対応を象徴する言葉だった。
◇
■組織・経験生かせず
「去年10月21日に大事な催しがあったがご存じか」
4月18日の参院予算委員会。自民党の脇雅史国対委員長は菅直人首相に問いただした。
「突然の質問ですので、何を指しているか分かりません」。恐る恐る答弁した首相に対し、脇氏はさらに質問を重ねた。
「原子力防災訓練をやった。首相は原子力(災害)対策本部の本部長をやった」
首相は「詳しい内容は記憶していない」と答えるのがやっとだった。
その訓練は、約5カ月後の東京電力福島第1原発事故と似た事態を想定して実施されていた。
「浜岡原発3号機で、原子炉給水系の故障により原子炉水位が低下し、原子炉が自動停止。非常用炉心冷却装置なども故障して、万一放射性物質が放出された場合、その影響が発電所周辺地域に及ぶおそれがある」
首相は早朝の15分間、官邸の大会議室から訓練に参加した。現地とのテレビ会議で、事前に用意された資料を読み、時折言葉を詰まらせながら「緊急事態宣言」や、現地への「指示」を出していた。
首相はこのことをすっかり失念していたのだ。
◇
首相のうっかりぶりは、これだけではない。
「内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有する」
自衛隊法7条に定められた日本の安全保障政策の大前提だ。
首相は昨年8月19日、官邸で自衛隊の統合・陸海空の4幕僚長と初めて会談した際、「改めて法律を調べたら…」と述べ、この条文の意味を理解していなかったことを恥ずかしげもなく吐露した。 折木良一統合幕僚長は会談後、「冗談だと思う」とフォローするしかなかった。
その首相が今回、被災地への自衛隊派遣に関し「最高指揮官」として積極的に振る舞った。
大震災後、首相は自衛隊の被災地派遣を矢継ぎ早に指示した。震災当日の3月11日に2万人を派遣すると、翌12日には5万人、13日には10万人へと膨れ上がった。この数字は
災害派遣としては過去最大規模であると同時に、自衛隊の人員の半数近くに相当する。
だが、
自衛隊法を理解していなかった首相には、大部隊を動かすことによる防衛上のリスクは念頭になかった。
「北朝鮮やロシア、中国などの周辺情勢にも目配りしなければならない。自衛隊の規模が事実上半減すれば、なおさらのことだ」
複数の防衛省幹部は一様にこう指摘する。
しかも首相は安保会議を開かないまま、自衛隊の人員の約半数近くにあたる派遣を決めた。同省幹部の一人は「狂気の沙汰だ」と吐き捨てた。
ちなみに、昨年11月23日の北朝鮮による韓国・延坪(ヨンピョン)島砲撃事件でも、首相は安保会議を開催していない。
既存の組織を活用することを避け、経験を生かすことも忘れた政府の震災・原発対応は、出口が見えないまま2カ月が経過した。(今堀守通、半沢尚久)
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【正論】初代内閣安全保障室長・佐々淳行 震災危機を「管理危機」にするな+(1/3ページ) - MSN産経ニュース
2011.3.16 03:42 (1/3ページ)
◆弱い首相の時に大事件起きる
菅直人・仙谷由人民主党政権で国家危機が起きたとき、本当に大丈夫か?という国民大多数の不安は不幸にも的中してしまった。
今進行している状況は、「危機管理」に非ず。「管理危機」(レーガン米大統領暗殺未遂の際のヘイグ国務長官の言)である。野党の良識ある「政治休戦」で、 土肥隆一衆院議員の竹島韓国領有権共同宣言署名も、菅首相の在日韓国人からの献金問題も吹き飛んだ感があり、「これで菅政権の寿命が延びた」との声もある が、とんでもない話だ。菅氏は、ある程度、落ち着いたところで、東日本大震災の危機管理の大失敗の責任を取って、総辞職すべきである。
民主党は、マニフェスト(政権公約)に治安・防衛・外交全般にわたるまともな安全保障政策を盛っておらず、国家危機管理に無関心だ。護民官精神も国家観もな い首相・閣僚の資格条件を欠く市民運動家が政権にあったことは、日本国民にとって不運だった。海部俊樹首相下の湾岸戦争、村山富市社会党首相下の阪神淡路 大震災とオウム真理教地下鉄サリン事件のように、弱い首相の時に、大事件が起きるという危機管理ジンクスがまたまた当たってしまった。
何が「自衛隊、警察、消防(ちょっと間を置いて)、海上保安庁の活動に心から感謝」だ。菅首相は全国放映のテレビで空々しい賛辞を口にする前に、「民主党の 安全保障行政欠落は政党としての誤りでした。危機管理軽視も反省します。特に仙谷前官房長官の『自衛隊は暴力装置』『海上保安庁は武器を持った集団』とい う発言は甚だ不当な失言で、仙谷氏に撤回させ、謝罪させます」と国民に謝ってから自衛隊10万動員と言え。
【正論】初代内閣安全保障室長・佐々淳行 震災危機を「管理危機」にするな+(2/3ページ) - MSN産経ニュース
◆手の平返し何でも自衛隊頼み
それも、不見識にも2万→5万→10万と、たった2日の間に危機管理の禁忌である「兵力の逐次投入」の愚を演じ、さらに、戦後初めて予備自衛官の非常招集を行うとは、手の平を返したように何から何まで自衛隊、である。
仙谷氏も疚(やま)しい沈黙を守っていないで堂々とテレビ会見してもう一度、「自衛隊は暴力装置」と言うか、撤回して謝るか、民主党のためにも姿勢を明らかにせよ。
公共事業を目の敵にして事業仕分けするから建設業者がブルドーザーなど重機を中国や東南アジアに売ってしまい、災害地の瓦礫を撤去する者が少なく、自衛隊施設大隊に頼らざるを得ないのだ。
「政治主導」も誤りだった。政務三役で国家危機管理ができるのか? 役人のやる気をなくしたから情報や初動措置が遅れ、「オーダー・カウンターオーダー・ ディスオーダー(命令・変更・混乱)」の大混乱が起きている。東京電力と首相官邸の「計画停電」の二転三転、七転八倒はその典型で、目を覆いたくなる醜態 だ。国民は懐中電灯、電池、ロウソク、保存食をスーパーの棚を空にして備え、被統治能力(ガバナビリティー)の高さを示したのに、政府側はまさに統治能力 (ガバナンス)の低さを天下にさらした。
阪神大震災の際と比べてよくなったのは、2点である。
【正論】初代内閣安全保障室長・佐々淳行 震災危機を「管理危機」にするな+(3/3ページ) - MSN産経ニュース
2011.3.16 03:42 (3/3ページ)
◆米支援、災対法適用の進歩も
まず同盟国米国の応援を素直に受け入れ、米海軍の空母、揚陸艦の支援をもらったこと。阪神大震災の時は、村山首相は愚かにも、人命救助よりイデオロギーを優先させ、米国の支援を拒否した。
もう一つは災害対策基本法を初適用、「緊急災害対策本部」を立ち上げ、首相を本部長としたことだ。災対法では、災害対策本部長は地方自治体の首長、知事ま たは市町村長である。大災害となり複数の自治体に及ぶ場合は、「国務大臣(国土交通相)」を長とする「非常災害対策本部」を置く。
阪神大震災時、筆者は村山首相に「経済戒厳令」と呼ばれる「緊急災害対策本部」を設置し、全権限を首相に集中する非常大権を掌握するよう強く進言した。村山首相 は午後4時の記者会見ではこの進言を取り上げたのだが、周囲の猛反対で全閣僚参加の小田原評定となって大失敗した。ただ、首相にこんな大きな権限を与える と、菅首相の指導者としての資質がまともに問われることともなる。
今の側近は、未熟、未経験、不勉強で、危機管理の補佐官はいない。今、 大事なことは、予備自衛官を招集するより阪神大震災や東海村原発事故を処理した各省の官僚OBを非常招集して地震と原発の諮問委員会を速やかに立ち上げることだ。名指しすれば、元官房副長官の的場順三、外交評論家の岡本行夫、元警察庁長官の国松孝次、元運輸相官房長の棚橋泰、元陸将の志方俊之の各氏らを三顧の礼をもって官邸に非常招集、OBの諮問委員会を設置すべきだ。
枝野幸男官房長官は、内閣広報大臣としては適任だが、「安全保障会議設置法」では、今回のような大災害の統一的指揮権と責任は官房長官にあり、補佐役は経済産業省原子力安全・保安院ではなく内閣危機管理監であることを思い出してほしい。国内外のボランティアを国が受け入れて、奉仕団を組織するのも国の仕事である。(さっさ あつゆき)
【放射能漏れ】佐々淳行氏「迅速な要請すべきだった、政府の統治能力欠如」 原発放水 - MSN産経ニュース
2011.3.18 13:10
■佐々淳行元内閣安全保障室長の話
「東京消防庁は毒ガスや放射線にも対応できる高圧放水車や化学防護車を持っていて、陸上自衛隊や警視庁よりも優れた性能を備えている。なぜ、政府は真っ先 に東京消防庁に要請しなかったのか。危機管理能力がゼロとしか言えない。またカナダには高性能な化学消防艇があるので、世界各国に協力を呼び掛けて日本へ 集結させるべきだ。これは危機管理の問題でなく、政府に統治能力が欠如している『管理危機』の問題だ」