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夏のせいにしてしまおう






「お前は自分のいいようにしかものを考えられない」

そんな事を言われたらもう

何考えても無駄な気がするよ

暑さで脳味噌沸いてんじゃねぇの?

遠くてもいいよ こちらを見てくれるなら

最近、あの人の考え方が分からなくて

私が求めてる答えなんて所詮は子どもが欲しがるそれと同じで

大切で愛しくて

でも私求められてないみたい




こっち見てもの言えよ




xyz

小さくてもいいの。

白い家で、家具は茶色で揃えて、お風呂場のタイルは薄い紫がいい。

窓から海が見えて、狭い庭にポピーを植えて、猫を一匹飼うわ。

たまにあの人に手紙を書いて送るの。

お元気ですか?私は元気です。

返事はいらないから。




見たこともない穏やかな表情で彼女は、理想の余生を語った。

ひとりきりの。

水槽の人魚

真っ黒い髪

無防備な首

よくわかんないTシャツ

リーバイス

11月なのに裸足

片倉くん。


まだ日付は変わらないが、夜の匂いが濃くなった時間、あたしは片倉くんの部屋にいた。

殺風景な部屋に大きな水槽があった。

青、白、黄色、オレンジ、いろんな色の魚がくるくると泳いでる。

薄いブルーのバックライトがこの世界の光なのだ。

あたしは箱庭みたいだなぁって思いながら、黙って水槽の中のブクブクと泡を出す機械を見てた。

ベッドに腰掛け、ラークを吸っていた片倉くんは、あたしを見てた。

「佐野さんって魚みたいですよね。」

なんで?って聞くと片倉くんは右手の人差し指であたしの睫毛の先に触れた。

「いつも赤とか青とか黄緑とか、あぁピンクの時もありますね」

男の人独特の、体温が下瞼に伝わった。

「アイシャドウ?でしたっけ?」

灰皿に置かれた煙草が、ゆっくり、ゆっくり燃えていく。

相変らず、ぶくぶくと空気の玉は箱庭に送られている。

『ね』

「ん?」

『あの線抜いたら、魚全部死んじゃう?』

「うん…そうですね。」



そしてやがて朝の匂いが強くなってきた頃、片倉くんの腕からすり抜けて、服を着た。

まだ寝てる片倉くんの、長くて細い指から指輪を外した。

内側にはあたしの知らない名前があった。

あたしはピンクのアイシャドウなんて持ってなかった。

ぶくぶく

ぶくぶく

水槽に指輪を落とすと音もなく沈んだ。

部屋を出て、駅まで向う。ヒールの音がやけに響いた。

外は酸素が濃かった。

深い深い青の世界は、だんだんと橙色に姿を変えて行った。



水槽の人魚



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