2013-8-25 08:21
「…そういうお前は、大学で何かあったのか?」
今度は、リヴァイがエレンに問い返す。
エレンは、一瞬しゅんじゅんした後、口を開いた。
「ジャンが…」
「ジャンが…?」
「面白いぐらいミカサに振られてた」
「それはまたアレだな…」
リヴァイが、渋い顔で口の中のものを飲みこんだ。
ジャンがミカサに片思いしている事は前々からエレンから聞いているので知っていた。
だが、あの馬面がまさか告白する勇気があったとは露とも思わなかったのだ。
見事に玉砕したジャンに、友人達は何故か鎮魂歌を歌ってあげていた。
言うまでもなくジャンに「何で慰めの言葉が鎮魂歌なんだよ!」と突っ込まれていたが。
振ったミカサはというと、しれっとエレンの所に犬のように嬉し気にやってくるものだから、当たり前ながらジャンに凄く睨まれてしまった。
メールでお前マジ殺すという穏やかではない内容が送られてきたが、普通に削除した。
ジャンに脅迫されたところで「…でっていう」。
エレンは、コップの水をゴクゴクと飲み干すと、ピッチャーで自分とリヴァイのコップに水をついだ。
「…そう言えば、ピクシス教授が叔父さんは元気かって…」
「…あの変人ジジイまだ生きてたのか」
「…生きてたのかってリヴァイさん。
ピクシス教授がたまには遊びに来いって言ってました」
「行くかハゲって言っておけ」
「言えるわけないでしょ。俺のゼミの教授ですよ」
内心点落とされるわとエレンは返した。
リヴァイとエレンは、叔父と甥っ子という関係だった。
リヴァイは、母カルラの年の離れた弟で、エレンが小学生の頃に両親を飛行機事故で亡くし、唯一の身内であるリヴァイに引き取られたのだった。
当初、エレンは両親を失った悲しみとショックで心を閉ざしていたのだが、次第に元気を取り戻し、笑顔を作れるぐらいに回復していった。
だが、一度心に作ってしまった傷はなかなか癒えてはくれないのか、時々不安定になる事があった。
心の傷は塞がる事はあっても、一生消える事はない。
2013-8-11 21:01
※現パロ
「ご飯出来ましたよ」
エレンは、卓上に今日の夕ご飯を置いていく。
出来たての厚切りのお肉がゴロゴロ入っているシチューからは湯気が立っている。
リヴァイは「ああ」と簡素に返事をすると席に座った。
ボールに入っているサラダをトングでつまむと、皿に盛り付けたものをリヴァイに渡す。リヴァイはそのまま受け取ると、マホガニーの机に既に用意されていたドレッシングに手を伸ばした。
エレンは自分の分のサラダを取り分けると、掛け終わったリヴアィからドレッシングを受け取る。
「今日は会社どうでした?」
エレンが座席につく。
「…ああ、ハンジがまたやらかしてくれた」
リヴァイが口にサラダを押し込めながら返事をする。
エレンもサラダを口に運びながら
「何をやらかしたんです?」と返す。
アナログの鳩の時計が戸棚の上でかいがいしく針を動かしている。
リヴァイは眉間に皺を寄せると、昼間の事をとつとつと話出した。
「…エルヴィンがいるだろう」
「ああ、あの優しそうな上司の人」
「…そいつの話がな、社内で持ち上がったんだ」
「社内で?」
「…ああ。その話というのが、エルヴィンがヅラじゃないのかという疑惑でな」
「うわぁ…」
「俺も前々から怪しいとは思っていたが、まさか口に出す奴がいるとは思わないだろ」
「…確かに暗黙の了解は口に出さないですよね。っていうか、やっぱり皆怪しいって思ってたんですね。良かった俺だけじゃなくて」
カチャカチャと食器が鳴り響く。
リヴァイはサラダを全部食べ終えると、シチューをスプーンで掬った。
「…お前結構酷い事言うな」
「リヴァイさんに言われたくありません」
そう言うと、リヴァイは確かになと鼻で笑った。
「…で、それとハンジさんがどう関わってくるんです?」
エレンが問いただす。
リヴァイは一拍間をあけると、口を開いた。
「…あいつはああ見えて情が深い奴だ」
「…そうですね。あの時も凄く心配してくれましたし」
「…エルヴィンのヅラ疑惑を聞いたハンジが、「…エルヴィンがヅラなわけないだろ!」って必死にかばいだして」
リヴァイがコップに入っている水を口に含んだ。
「エルヴィンの髪を公然で掴み取りやがった」
「ハンジさんらしいですね」
妙に納得した顔でエレンは頷いた。
「…で、髪は頭皮から離れていったんですか?」
エレンが先を促す。
リヴァイは難しそうな顔をして
「いや、結果的には頭から離れなかった。…だが、今の技術は凄いからな」
と感慨深げに述べた。
「…ああ、あの引っ張っても水に濡れても大丈夫な植毛がありますもんねぇって、どんだけエルヴィンさんをヅラに仕立てあげたいんですか。そんなに信用出来ないんですかあの人の毛根を」
信じてあげましょうよとエレンは、肉を口いっぱいにほうばった。
「…あいつ自信には信頼を置いている。だが、あいつの髪を見れば見る程、凝視すればする程俺を疑心暗鬼に陥りさせる」
見なければいい話なのでは…とエレンは思ったのだが、口いっぱいに詰め込んだ肉が邪魔をして憚かられた。