「でも役得と言うなら、黄瀬君の方がよっぽどそうじゃないですか。夢とはいえ、普段見ることのできない藍沢さんを見れたと思えば」
「あー、まぁ確かにそうだよな」
「…簡単に言ってくれるっスね……」
ほっとしたのも束の間、再び話題の中心が黄瀬へと舞い戻ってしまった。
「下着を最初から付けていない状態の夢なんてそうそう見ないと思いますけど」
「う……でもそれはオレのせいじゃなくないスか?」
「深層心理というやつですよ。いわゆる本来の願望とか」
「なるほどな。夢に黄瀬の本性が現れたってことか」
「なるほどじゃないっス!仮にそれがオレの願望だったとしたらこんなに悩んだりしないっスよ!」
「いいじゃねーか。しばらくオカズにでもすりゃあよ」
「青峰っちはまず自重という言葉を覚えるべきっス!」
きーっと憤慨する黄瀬は「考えてもみてほしいっスよ!」と声を上げた。
何度思い出してもあまりに鮮明で鳥肌が立つ。
いつもしっかり結われているはずの髪は乱れ、やわらかなそれは触れる度に手を優しくふわりと撫でる。
溢れんばかりに涙を溜めた目は、一瞬でも見つめてしまおうものなら、理性など保てるはずがない。
頬を赤く染め、肩を苦しげに上下させながら漏らす甘い吐息が言いようもなく悩ましくて。
少し汗ばんだ肌はしっとりと吸いつくようになめらかで、誘惑するように鼻孔をくすぐる。
少し震えた声が己の名を呼ぼうものなら、思考回路はすぐさま機能を停止せざるを得ないのだ。
その様は酷く妖艶で、普段見る幼い彼女からは想像もできない。
「夢とはいえあんなの目の当たりにして平然としていられるなんて正気の沙汰じゃないっス!」
「変なところで真面目だなお前。いいモン見たとでも思えば」
「違うんスよ……!」
いつの間にか三角座りの黄瀬は膝に顔を埋めるようにして声を絞り出した。
「あの夢で見た雛っち…ホントかわいかったっス…。まるで別人みたいで、でも雛っちに間違いなくて…怖いくらい、かわいくて…!」
…その呟きは必死に自分への言い訳を述べているようで。
「っでも……!」
彼女に対して、そんな欲求じみた眼差しを無意識に向けているかもしれない自分自身を恥じているのか。
それとも己は胸の奥底にこんな本心を隠してきたのかという激しい失意か。
「違うんスよ…!オレっ……そんなこと望んでなんかなかったっス…!ホントっスよ…!ただオレは…」
罪悪感。
黄瀬からはいわれもないはずのそれだけがひしひしと伝わった。
「笑ってる雛っちが、いちばん好きなんス…!だからっ……あんなのオレの本心なんかじゃ…っ」
顔を伏せてはいるものの、耳まで赤くてはもはや隠しようもない。
再び思い出したことによって黄瀬は当時の困惑を完全にぶり返していた。
「…黄瀬君って案外純情ですよね。見た目はチャラいのに」
慰めているのかけなしているのか、黒子が息を吐き出すと青峰もそれに続いた。
「つーか…何なんだよさっきからうじうじうじうじ!きめえ!オトメンか!何いきなりマジになってんだ!」
「青峰っち酷い!黒子っちも青峰っちも見てないからそんな悠長なこと言えるんスよ!」
わっ!と大げさに訴える黄瀬だが、対照的に二人からはカチンと渇いた音がした……気がした。
「ええ見てませんよ。見てませんが…それが何か」
「……え?」
「ちょっと話聞いてやりゃ調子乗りやがって…。そもそも雛はお前のモンじゃねえんだよ!所有者気取りかコラ!」
「えええええ!?話強要したのそっちじゃ…つーか言いがかりもはなはだしいんスけど!」
「問答無用です。青峰君、こればかりは気が合ったようですね」
「らしいな。…そういや黄瀬、お前さっき死にたいとか抜かしてただろ」
「ああそうだったんですか黄瀬君。ならその願い、僕らが叶えてあげます」
「そっ…そんなの言葉のアヤじゃないスかー!」
じりじりと黄瀬を追いつめていく二人の表情は、もはや何ともいえない恐ろしさで。
道理に合わないこの扱いにも、当然異議申し立てできるはずなく。
「…ともあれ、理由は簡単です黄瀬君」
「なんか腹立つから覚悟しろ」
「り、理不尽っスー!」
「………いてっ!」
……目を覚ました。
というよりベッドから落ちたがゆえの強制的な起床であるが。
「あたた……。あれ?もうこんな時間?結構寝た気がするのになんでこんな疲れてるんスか…」
時計を眺めながら伸びをして肩や首を回す。
夢を見た気がするのに、どこかもやがかかったような感覚。
なんかすっきりしないっス…とぶつくさ言いながらも黄瀬はいつも通り学校へ向かった。
「おはよーっス!」
「よう」
「黄瀬君、おはようございます」
「聞いてくださいっス〜!今日酷い夢見たんスよ!何か変な因縁つけられて、青峰っちにはアイアンクロウ食らうわ黒子っちには顔面イグナイトパス食らうわ…」
「それはまた愉快な夢ですね」
「変な因縁って何だよ」
「それはー……えーっと、覚えてないっスけど…」
「なんだそりゃ、つまんね」
「仕方ないじゃないスか!でもホント散々だったんスよ!」
「……何が散々なの?」
「お、よう雛」
「藍沢さん、おはようございます」
黄瀬が懸命に説明しようとしているところ、背後から聞き慣れた声がそれをさえぎった。
振り向いても一見視界に入らないような小さな彼女が三人を見上げている。
「…おはよ」
「雛っち!おはようっス!今日もかわいいっス!ぎゅってしたいっスー!」
「調子に乗んじゃねーよ」
「あいてっ。……………あ」
ふと思い出したように、黄瀬はそういえば…と零した。
「雛っちの下着ってパステルカラーが多いんスか?」
「はあ!?」
「…またいきなりぶしつけですね黄瀬君」
「あ、いやこれは…なんていうか…」
はたと我に返るが、不意に言葉にしてしまった以上くつがえしようもない。
思わず口にしたのがなんでコレなんだと内心頭を抱えたが…
「…うん。パステルカラー、多いよ」
「なんで知ってんだよ黄瀬ぇえ!」
「えッ!いやあの!今日見た夢で黒子っちが言ってたような気がして…」
「僕に罪をなすりつけるのはやめてもらえますか」
「えええ!?そんなぁあ…」
「…どういうわけか知らねーが、今無性にお前が見た夢を正夢にしてやりたくなったぜ…!」
「同感です青峰君。こればっかりは気が合ったようですね」
「ちょ、待っ……つかなんか今のデジャヴってるんスけど………!ぎゃーっ!」
…必死の言い訳と抵抗も虚しく、結局は夢と同じくアイアンクロウと顔面イグナイトパスをクリティカルヒットで食らう黄瀬であった。
「ちなみに藍沢さん、今日もパステルカラーなんですか?」
「…えっとね……」
「何訊いてんだテツゥウウウ!」
「雛っちも確認しなくていいっスよ!」
終
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なっがー!!!←
いや…もう少しスムーズに終わるかと思ったんですが…。
もはや茜の固定タグですね。
「お前誰多発テロ」
「安定のオチが迷子」
酷いわー(笑)
結局のところ、過激すぎて夢の内容についていけなかった思春期かつ純情な黄瀬くんだったけど、それすらも夢で、最終的には肝心なとこ忘れてるっていうね\(^O^)/
いっそのことそこが黄瀬クオリティーだよね!
ダブル夢オチってもう最終手段な気がするわw
そして最後、真っ黒子は外さないですな。
何ちゃっかり訊こうとしてんのこの人←
進むにつれてやはりつまらなくなってしまいましたが、ここまで付き合ってくださった方!
本当に本当にありがとうございます!
しょーもないもので大変恐縮ではありますが、心よりお礼申し上げますー!
お粗末様でした!
話題:名前変換無し夢小説。
まーじっすかぁあああ!
すごく長い上にぐだぐだエンドレスな気がしてめっちゃ不安なんですが…
嬉しいっす!ありがとうー!(^O^)