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21,22話くらいで、タイトルのままのような話。


                        

「お前、目ぇ瞑ったら歩けないタイプだろう?」
何気もない会話をするような調子で、なんの前置きもなく彼は言ったものだから、ティエリアが眉に皺を寄せて無視してそのまま通り過ぎようとしたのも仕方のない事だった。
「おいおい無視か?酷いなぁ」
「すみません、貴方の言葉の意味が到底理解しづらい内容だったのでつい」
あくまで丁寧な言い回しだが、言葉の端々に棘がある。苛立ちを隠そうともせず、ティエリアは不機嫌を貼り付けた表情のまま、後ろを振り返った。
「なら仕方ないな。で、実際どうよ?」
振り返れば、なにが楽しいのか微笑を浮かべた、ロックオン・ストラトスがそこにいた。彼ははティエリアの態度に微塵も気づいていないかのように軽い調子のまま会話を続けた。実際ロックオンはティエリアに声をかけた時点で彼の機嫌を損ねる事くらい気付いている。あえてロックオンが気付いて気付かない振りをしている事に、もちろん気付いているティエリアの苛立ちは積るばかりである。
普段は人の気分を察し、相手の望む対応をしてくれるロックオンだからなのさらだなのだ。苛立っていると気付いているなら、何故つっかかってくる!?
「どうもこうも。両眼があるのだから、わざわざ目を瞑る必要などないと思いますが?」
苛立ちにより口調が強くなることを、ティエリアは気にも留めない。
こうして二人、向かい合って立ち話をしているという行為自体、くだらないと思う。だが、なによりその話題がくだらないのだ。
なぜロックオンは当たり前のことを聞いてくる。
「そうかな、意外とやってみたりしないか?視覚障害者の人の話聞いたあととかさ」
「やりませんし、興味がありません」
くだらない。
他人がどうであれ、己の価値観は自分のものでしかない。いくら目を瞑り、一時的に光を遮断してみても、瞼を開けば光の情報は眼に視界となって映し出される。一生闇に閉ざされる視覚障害者の全てが理解できるわけではない。理解したつもりになっただけだ。そして、理解できたとしても到底役に立つ知識でもない。必要のない事は無駄なだけ。
ティエリアはもう一度、くだらないと内心で吐き捨てた。
だいだい開口一声で、目を瞑ったら歩けない、と決め付けている時点で同意を求めるのはおかしい。矛盾するロックオンの物言いに、ティエリアは呆れ果てた。そして大きく深くため息を吐く。この意が目の前にいる男に少しでも伝わるように。
「まぁそうだろうな。でも俺が言いたいのは、そうじゃない」
悲しいことに、ロックオンにティエリアのため息の意図は汲み取って貰えなかったようだ。否、どうせ分かっていて無視したのだろう。人が無視したら咎めるくせに、自分のことは棚に上げる。自分勝手な奴だ。
ロックオンは続ける。
「お前はきっと絶対目を瞑ったまま歩かないだろうさ。でもきっと、瞑っても歩かないだろうよ」
「どういう意味ですか?」
ティエリアは聞き返した。くどい言い回しで理解が遅れる。だがといって頓知に頭を捻る気にもなれない。興味無さ気な即答にも、やはりロックオンは気にする様子は無い。ただ軽く肩竦ませただけだった。
「じゃあ砕けて言い直そう。“お前は目を瞑ったまま絶対に歩かない”これは自発。”だがもし目を瞑る、もしくは見えなくなったとしたら、きっとお前は絶対歩けない”これは?」
「『強制』。…有り得ませんね」
もし見えなくなったとしたら?有り得ない。自分に過失する恐れはないし、する筈も無い。失敗など、ティエリアの中に存在しない項目であった。
ティエリアの再びの即答にロックオンは苦笑する。
「正解。だが不正解だ。…例えを変えようか」
「…」
黙ったまま、ティエリアはロックオンを見つめた。飄々とする彼は誰が相手でも本質を見せはしない。ロックオンの底意は掴みづらい。何を考えているのか、ティエリアには全く持って分からないのだ。少々、不本意ではあるが、相手の心理を読むという点では、ロックオンのほうが一枚上手だった。
「じゃあ、もし真っ暗な洞窟に閉じ込められたとしたらお前はどうする?」
どうする、というのはどうやって脱出するかに掛かっている。
思いついたままにティエリアは返答を口にした。
「携帯式ライトを使います」
「もし無かったら?」
「火を起こしますね」
「お前、適当になってないか?火を起こすにも見えないって」
真っ暗なんだぞ、と念を押すと、ティエリアは小さく鼻で笑った。
「では、手探りで進みます」
「もし洞窟が両手を伸ばしても十分余裕のある広さだったら?」
「…貴方はなにがしたいたんですか」
不毛なやり取りの応酬に、ティエリアの眉間の皺がより一層深まっていく。
予想や仮説などしょせんは机上の空論である。考えるだけ無駄なこと。無駄を嫌うティエリアを察してか、ロックオンは苦笑交じりに手を軽く振る。
「そんなに怒るなよ、くだらないロックオン先生の講義も、もうすぐ終わるからさ」
そもそも、こんなくだらないために時間を消費するくらいなら、話になんか乗らなければよかったのだ。ロックオンの口車に乗せられた自分をいまさらになって恥じた。
ロックオンは一人、んー。と首をかしげて、ティエリアを見つめた。
「…お前なら、一人だって暗い洞窟の中を、出口を目指して進めるかもしれないけどよ」
「そういう貴方は」
「え?」
問われ、ロックオンは一瞬蒼の目を丸くした。
「貴方はどうするんですか」
「助けを待つ」
即答され、今度はティエリアが目を丸くする。だがそれもすぐ伏せられ、瞼に隠される。
「…くだらない。」
自ら動こうとせず、他人の助力を期待して待つ。それは弱い人間が取る選択だ。一体自分はロックオンにどんな返答を期待していたのだろうか。不安要素の多いマイスター中で唯一まともと思えた彼も、所詮ただの一人の人間だったということか。口には出さず、呆れを通り越し、弱き者に対しての侮蔑を込めたティエリアの視線を、ロックオンは笑って受け止めた。まるでティエリアの心に浮かんだ嫌悪や苛立ちごと受け止めて、宥めるように優しく静かに言葉を紡ぐ。
「くだらなくても仕方ないさ、なんにも見えないんだからよ。見えないまま進んでも、同じところを行ったり来たりするだけだ。きっと、それでもお前は出口はあるんだと信じて進、むことをやめないのかもしれない。諦めないことはいいことだ。だが、もしかしたら出口なんてもんは端から無いのかも知れない。仮に火を灯せたとして、それを知ったとき、お前は一体どうするんだ?」
「…」
ティエリアはなにも言わない。ただロックオンを見つめていた。静かに、落ち着いた様子で、ただロックオンの言葉に耳を貸していた。
「人間はな、誰かに導いて貰わないと前に進めないときもあるんだ。誰かに手を伸ばして貰わないと立ち上がれない、顔も上げられたないってこともある。それが、例えば真っ暗な洞窟だったらってだけだ。」
「…くだらない」
今度は呟くそうにぼそりと、息と共に吐き出す。それを聞き逃すロックオンではなかった。
「いいんだ。それが人間だ」
そういってロックオンは笑んだ。ティエリアは何故だが分からないがロックオンの笑みを見ていらなくて、顔ごと目線を逸らした。
「私は、弱くは無いつもりです」
先ほどまでの勢いが虚のように無なくなって、思った以上に力ない声が出て、ティエリアは羞恥で居ても立ってもいられなくなった。
いつだったか、戦術予報士に向かって言った言葉をそのまま口にして、返答を待つことも無くロックオンに背を向けて踵を返した。これで話を切りあげたかったからだ。
「ティエリア」
ロックオンが声を張って名を呼んだ。だがティエリアは振り向くことなく歩を進める。遠ざかって行く背中にロックオンは構うことなく言う。
「…お前も人間だよ」
キーを落とした声が不覚にも耳に入って、ティエリアは奥歯をかみ締めた。
歩を進める足を速める。不可解な苛立ちを床にぶつけるように強く足音を鳴らす。耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだったが、堪えた。そんな逃げるような弱い姿、誰に見せたくない。
そんなことはない。私は弱い人間なんかじゃない。光も手も届かない場所にいたってきっと歩いていける。
きっと、ヴェーダという光に向かって歩いていける。


暗い闇の中だった。手を翳しても視界にはなにも映さない。だが、手を伸ばせばそこには壁があって、立ち上がれば照明を点けるスイッチがあることをティエリアは知っていた。自分に宛がわれた自室だ、なにも見えなくてもだいたいの位置は把握している。手探りで探ったとしても、必要最低限の物しか置いていない部屋には障害物と呼べるほどの物も無い。このまま手探りでベッドで潜り込むことは簡単だった。時刻は深夜3時を過ぎている。普段の彼ならばデーター整理を終え、就寝しているはずだ。睡眠怠れば体のリズムを壊す。ガンダムマイスターとして体調不良を起こす行動は極力慎む。それが彼のルールであった。
なのにティエリアは一向に動こうとはせず、蹲っていた。一見にして眠っているようにも見えなくも無いが、外見とは異なりティエリアの頭はいつも以上に冴え切っている。だが冷めた印象を与える鋭い眼には、涙が浮かんでいた。
彼は、暗い部屋で一人声も出さずに泣いていた。

真っ暗だった。深い闇の中だった。
そう、例えば真っ暗な洞窟の中だ。両手を広げても壁につく事のない、広く出口の無い洞窟のようだ。
そんなことはないともちろん知っている。ここは自分の部屋で、壁もあればドアもあり、さして広くも無い。
だがティエリアにとってここは真っ暗な闇のかなで、決して出口のない洞窟。一条の光も差さない闇の牢獄。囚われているのは自分。囚えているのは己の犯した罪。この底知れぬ闇は、己を責め立てる罪悪感ともいえた。
ティエリアは立ち上がることもできず、ただ蹲って泣いている。
ずっとこうしているのが、己のできる唯一の贖罪に思えた。自分は永遠に闇に閉ざされたまま、罪を受け続けるのだ。自分は犯してならない失態をしてしまった。犯してはならない罰を。
だから罰には罪を。罪には贖罪を。私に罰を。
だから、彼を助けて欲しかった。許しなど請わない。だから。だから。
強く目を瞑った時、ティエリアの横を白い線が横切った。そこに目を向ければ眩しくて、眼が開けていられない。
それは、光だった。
認識すると共にティエリアを、包み込むように照らし出すように光が入ってくる。
「ほら、俺の言ったとおりだろ?」
開かれた扉の先に、彼は居た。光を纏って立っていた。右目には、光輝く彼に似つかない、黒い眼帯が影を落としている。ティエリアのつけた影だった。白く瞬く光に、ティエリアは泥をつけてしまったのだ。
自分には眩しすぎる光と、痛みの伴う影を見ていられなくて、ティエリアは俯いた。どんな顔を向けたらいいのかも分からない。犯した罪は大きすぎて謝罪の言葉も浮かんでこなかった。
「ティエリア」
優しくゆっくりと彼は名を紡いだ。この優しい声に、ティエリアは思わず飛び込んでいきたくなったが、そんなこと許されるはずがない。自分は罪人だ、罰せられなければならない。暖かい光とぬくもりを望んではならない。
ふぅと小さく息が漏れたのを聞いた。それに続いて衣服の擦れる音。
徐に彼の白い腕が、ティエリアの腕を掴んだ。そのまま上へ体ごと引っ張られて、ティエリアは動揺した。立たされて、彼と向きあう。大分前に、彼と話をしたときと同じ。
「いいんだよ」
光の中で彼は笑んだ。あの時、それも人間だと言った、あの時の笑みだった。あの時ティエリアはこの笑みを直視することはできなかった。認めたくなかったからだ。自分が、弱い人間だと信じたくなかった。
「ロックオン、僕は…僕は…」
立ち尽くすティエリアの頭に、ロックオンは手を置いてくしゃくしゃと撫でる。
「いいんだよ、失敗だってするさ。…人間なんだからな」
俺も、お前も。だからいいんだ。彼は笑う。
「ああ…、ああ…」
何度も、何度もティエリアは小さく頷いた。頷く度に溢れ零れる涙をロックオンは白い指で拭う。
僕は弱い。弱い人間だ、だけど。
まじかで見たロックオンの笑みは、泣きたくなるくらい優しいものだった。

END

光=ロックオン、みたいな。

It kisses a big child.

短文です。


ロックオンは差し込む朝日で目を覚ました。もう朝か。重たい瞼をこじ開けて、カーテンの隙間から外を見ると、日は案外高い位置にあった。もう昼なんだろうか。
「起きたのですか」
「ティエリア…」
声のした方へ顔を向けると、目の前に置かれた椅子にティエリアが座っていた。珍しいことに眼鏡は掛けていない。彼は女とも男とも言えない中性な端整な顔に笑みを浮かべ、こちらを見下ろしている。その当たり前でなんでもないような仕草が、彼だというだけで絵になる。つい見惚れるが、彼は男なのだと思い直す。
「随分寝ていたようですね。もう目覚めなければよかったのに」
「そう言うなよ。こっちは夜遅くまでこき使われてたんだ。」
ミッションでの潜伏調査。観光客に成りすまし、町中を調べ回り、ベッドに入った時には日付が変わっていた。まだ寝足りないくらいだ。
「まだミッションまで日はある。それなのに無理する貴方が悪い」
「へいへい」
「で、今日はどうするのですか」
「お前はどうしたい?」
「質問に質問で返さないで貰いたい。」
「情報集めもだいたい片はついた。今日はのんびりするよ」
「そう、ですか」
「で、お前はどうするんだ?」
「…」
質問には答えず、ティエリアは椅子から立ち上がると、ベッドに腰を下ろした。ぎしっと軋む音がする。
「お?」
「少し、少しでいいから、このままで」
そう言って、ティエリアは寝ている俺にしがみつく様に抱きついた。抱きつく手は心なしか、カタカタを震えている。
「なんだよ、子供みたいだぞ、ティエリア」
言い聞かすようような口調の割には、宥めるよう背中を擦る手は優しい。ティエリアはうっとりと瞳を閉じる。
「貴方が、さっさと帰って来ないのが悪い」
胸に顔を押し付けて、拗ねた声は、やはり震えていて。
「悪かったよ」
仕方ないなと思いつつ、俺はティエリアの頭にキスを落とす。
昔母親が自分にそうしてくれたように、優しく。

End

デレ(ティエ)リア×ロックオンが大好物です。

Thus it may be good now.

ギャグです。


「ハロー」
なぜ俺が、あんなとぼけた顔した人工AIの名で呼ばれなくてはならないのか。
目の前の光景にティエリアは頭を抱えたくなった。

話はほんの10分程前に遡る。
深夜、水が飲みたくなったティエリアはプトレマイオスの通路を歩いていた。正確には無重力空間なので、取っ手に掴まって浮いているだけなのだが。ここの所、たいした事件もなくプレトマイオスは平和だった。クルー達はそれをいいことに暫しの休養を楽しんでいるようだった、ティエリアだけは別だったのだが。
通路の先でティエリアのだいぶ前で人影が見えた。あの身長に少し長めの茶髪、どっからみてもマイスターのリーダー、ロックオン・ストラトスだ。またあのアルコール中毒の戦術予報士に付き合わされたのか。どれだけ飲めば、あんな状態になれるのか。立つ事もできないようで、ロックオンはふわふわと無重力の空間を漂っていた。焦点の合わない瞳と目が合った気がして、見なかったことにしようとしたがそれも叶わず、
「おーい」
酒が入り呂律が回らない声で呼び止められる。普段なら無視するところなのだが、こんな所に放置して風邪でも惹かれては任務に支障がでるかもしれない。そしてこの浮れ野郎に一言いってやりたいという事もあり、ティエリアは無重力の通路を蹴って、ロックオンの許に向かった。
「こんなところで何をしているのですか?」
腕を組んでロックオンと向き合えば、なにやらきょとんとした顔で首を傾げている。いつもなら白い彼の肌は酒が入った事で赤く染まり、暗い通路でそれが浮かび上がって、なんとも艶めかしい。思わず視線を逸らす。これ以上直視すれば自分が何をしでかしたものか分かったものではない。
一向に動きを見せないロックオンに焦れたティエリアがなんなんだ?と口を出そうとすると
「ハローっ!」
ロックオンが、がばっと抱きついてきた。
「は!?」
驚きと喜びが混じったティエリアの叫びが静かな通路で響いたが、幸いにも誰も部屋から出てこなかった。

そして今に話は戻る。
「ハローハロー、寂しかったんだぞーどこでなにしてたんだよーっ」
お前こそ何をしているんだっ!なんなんだこれは、拷問か!?
いきなりの抱擁にティエリアは混乱していた。確かに密かに好意を抱いていた相手から抱き着れば嬉しくない者などいないが、相手は酔っ払いだ。しかも自分を、自分の相棒だと思っているのだ、抱き着かれているティエリアは内心複雑だった。これこそ不毛だというのに。
ティエリアは激しい動悸を抑えようとロックオンを剥がそうとするが、自分より一回り大きい体格はびくともしない、これだから無駄に図体のでかい奴は!と内心で舌打ちをする。マイスターの中で二番目に背の低いことをティエリアは気にしている。正確にいえばロックオンより低い、ということを。だが、戦争根絶という戦いが終わる頃には彼より背が高くなっている予定である。真正面から抱きつかれ彼の柔らかい髪が鼻をくすぐり、髪とアルコール臭に混じった彼自身の香りがする。彼の人柄をそのまま表したような春の陽だまりのような、優しい匂い。
だめだ、このままじゃ俺の方がおかしくなる。
彼が目の前に居るだけで自分の鼓動は早まって煩いというのに、ロックオンは腕の力を強めさらに密着しようとしている。理性が離れろ、と警告する。本能はこのまま食ってしえとそそのかす。ティエリアはいろいろ限界だった。本能と理性の戦いは勝敗が着かず第二次大戦へと勃発している。この状態をどうにかせねば、超えてはいけない一線を越えてしまう。
「離してください、俺はティエリアですよ」
ティエリアはロックオンの腕を掴み、離れろと促す。掴んだ腕は熱かった。
「ティエリア?」
ロックオンは上目遣いでティエリアを眺める。抱きつく力が少し弱まり、ティエリアはふぅと一息つき、そしてこの男はやはり可愛いな、などと思う自分にため息を漏らした。執念にロックオンにアタックを繰り返す刹那やアレルヤをみて、鈍感相手に熱心なものだと呆れていたが、自分も相当重症だと思う。離れていくだろう体温が名残惜しいなんて。
そんな想いを封じ込めティエリアはそのまま体を離そうと手に力を込めた。
「そうか、お前ティエリアっていうのか!」
「は!?」
本日二度目の叫びを上げるティエリア。
「確かにお前、ティエリアみたいな紫色してるもんなー。きつい言い方とかティエリアにそっくりだ」
と愉快に笑ってわしわしとティエリアの頭を撫でる。ちょっとまて。錯乱状態に陥っているティエリアは突然のことに頭がついていかなかった。
どうやらロックオン目にはティエリアは紫色にハロが見えているようだった。
「だから違うとっ…」
自分は人工AIではないのだと叫ぼうとしたが、やはりロックオンによって遮られてしまった。
「俺の仲間にもさ、お前みたいな奴がいるんだ。あいつなんにも自分のこと話さないからさ、心配なんだよなぁ、なんかほっとけないし…」
「それはどういう…」
意味だ、と言い終わる前にコテン、とロックオンの頭がティエリアのよっ掛かってきた。そして聞こえてきた寝息。
「仕方ないな…」
そう言ってティエリアは二度目のため息を漏らした。このままでは風邪を引いてしまうだろう。無重力の中で大きい体を運びそのまま自分のベットで寝かした。ティエリアの中で理性と本能の戦いが第三大戦へと移行し、やっと終戦したのは、朝方ティエリアの部屋で目覚めたロックオンが、
「なんで俺ティエリアの部屋で寝てるんだ?」
と聞いてきたので目の下に隈を作ったティエリアが、返事の代わりにロックオンを蹴ってベッドから落とした時だった。

その日、
「今日さ、俺紫色のハロの夢をみたんだよなー」
マイスター三人がロックオンを囲み朝食を食べていた際、ロックオンの呟きにティエリアが飲んでいたコーヒーを噴出したのは、しばらくプトレマイオス中の注目の話題になった。


今だけなら、それでいいのかもしれないけれど。

End

夢のまた夢は現となるか

注意:兄貴死ネタです。しかも無駄に長いです。



昔−者、荘周、夢に胡蝶と為る。
くく然として胡蝶なり。
自ら喩しみて志に適へるかな。
周たるを知らざるなり。
俄かして覚むれば、則ち遽遽然として周なり。
知らず、
周の夢に胡蝶と為れるか、
胡蝶の夢に周と為れるかを。
周と胡蝶とは、則ち必ず分有らん。


                  
嫌だ、こんなの。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「なんて、顔してんだよ…アレルヤ」
ああ、だからそんな掠れた声で僕を呼ばないで。
「もう、大、丈夫だから…、さ。お前達、は無事に、帰れるんだ…もっと喜べよ」
でも、貴方はそこには居ないじゃないか。
「次のリーダーは、お前だ…しっか、りやれよ…?」
そんなことを言わないで。
「頼んだぜ、アレルヤ…」
お願いだから。
「…アレ、ルヤ」
お願いだから僕の好きな声で、僕の名を呼ばないで。


「…レルヤ、アレルヤ。おいっ聞いてるのか、アレルヤ!」
「え…?」
「なんだぁ?もしかして居眠りでもしてたのかよ、珍しい」
「あれ、ロックオン…?」
「ん?」
僕の目の前には首を傾げるロックオンがいた。辺りを見渡せば、見慣れたミーティングルーム。周囲の視線が僕に集中していた。ミッション内容がモニターに映し出されている。
「アレルヤ、ちゃんと聞いてたの…どうしたの?顔色真っ青よ」
「え…」
モニター前で説明していたスメラギが心配そうにアレルヤの顔を覗く。
「ロックオン、一応アレルヤを医務室へ連れて行ってもらえるかしら。ミッションプランは後で説明するわ」
「了解した」
ロックオンは頷き、まだ状況が飲み込めない僕に「いくぞ」と声を掛けて優しく腕を引っ張った。


ロックオンと二人、ガードレバーで廊下を移動する。きょろきょろと辺りを見渡す。見慣れた、余分なものはいっさいなく、シンプルを通り越して冷たい印象を与えるの廊下。暑くもなく寒くもない温度に設定されている空調。大きめに設計されている窓からは、どこまでも深い宇宙の闇が広がっている。どの景色も、最初こそは馴染むに時間は掛かったが今では住み慣れてしまった、母艦プトレマイオスそのものだった。丁度次の角を左に曲がれば自室に辿り着く。しかし目的地は自室ではないので、角を右に曲がる。
アレルヤは、前を行くロックオンの背中に話しかけた。
「ロックオン、僕寝てました?」
「ん?ああ、ミススメラギに当てられて、なんも反応しなかったから、俺が揺すったんだが。疲れてたんだろ、気にするな」
ロックオンは僕の体調を気遣って、明るく言葉を掛けてくれる。夢。あれは夢だったのか。
「あ、いえ。起こしてくれてありがとうございました…」
本当に起こしてもらえて良かった。けれどいつの間に眠ってしまったのだろうか。しかもミッションプランの説明中になんて。最近は任務漬けだったから、集中力が劣れているのかもしれない。だからあんな夢を見るのだ。今思い返してみてもぞっとしない。あんな恐ろしい夢、夢でもみたくない。
「どうしたんだ、アレルヤ。なんか…あったか?」
話していれば、医務室の前に着いていた。中には入らずロックオンは扉の前で立ち止まる。普段から他人の気配りを心がける彼だからこそ、自分のの異変に気付かれてしまった。できればあまり言いたくはなかった。特にロックオンには。悪夢をみたから落ち込んでいます、なんて女々しいこと言ってしまったら笑われるに決まっている。けれど、
「…夢を、見たんです。本当に恐ろしい夢。貴方が死ぬ夢を」
アレルヤは意を決して切り出した。本当はこんなこと、ロックオンの耳に入れたくはないが、話すことであれは夢だという認識を確実なものにしたかったのだ。ロックオンはアレルヤを振り向き、驚いたように一瞬目を丸くした。
やはり不謹慎だったか、アレルヤは自分の浅はかさを悔いた。今は戦争中なのだ、いつ誰がそうなってもおかしくないというのに。ただの夢なのだから、話すべきではなかった。夢なのだ、ただの悪い夢。
アレルヤの心情を察してか、ロックオンは気を取り直すように苦笑いを浮かべた。
「そりゃまた縁起の悪い夢だな。俺ってそんなに早死しそうに見えるか?」
「いえ。貴方は僕達を守るために、犠牲になったんです、僕達を逃がすために」
幼く無力だったアレルヤ達を救うために、ロックオンは自らを犠牲にして、一人敵MSの軍隊に突っ込んで行ったのだ。なんとか形勢を立て直し、アレルヤが救助に向かえば、辺りには扮さんされた、たくさんのMSの残骸。動く機体は見当たらない。全て撃破したのだろうか、たった一人で。けれど、デュナメスの姿がどこにも見当たらないのだ。まさか。アレルヤは嫌な予感に焦りながらも、目を凝らしてデュナメスを探した。すると、少し離れた場所に見慣れた緑と白の機体を視認した。素早い動作でモニターに広大させ映し出す。所々に破損はあれど、原型は留めていた。爆破された様子はない。とりあえずアレルヤは胸を撫で下ろす。すぐさまキュリオスから降りてデュナメスの許へ駆けていく。散乱したMSの破片の間から、赤い血が滲んでいた。嫌な汗が額を伝う。どくんどくんと心臓が高鳴る音が嫌に耳に響いた。そんな、いや、まさかそんな。逃げようとする足を必死に押さえ、歩みよる。そこには、機体の色と同色の筈のパイロットスーツを血で赤黒く汚し、倒れている、彼の姿。
「なら、お前の夢の中の俺は、きっと満足して死んだんだろうさ」
「え…」
ロックオンは唐突にその大きな手でアレルヤの頭を鷲掴みにすると、ぐしゃぐしゃに掻き乱した。
「な、なにを…」
「夢なんかでくよくよするなよ。俺はこうして生きて、お前と話してるんだ。それで十分だろう?」
朗らかに笑うロックオン。そのいつのもと同じ笑顔にアレルヤの心も軽くなった。
「はい、そうですね」
「安心したか?」
「はい。…とても」
確かに彼がここにいる。今自分と話しているそれで十分だった。頭に置かれたロックオンの手は、夢で抱いた時よりも温かったから。
「少し寝ろよ。あとで起こしにくるから。」
「お願いします」
「じゃおやすみ」
「おやすみ、ロックオン」
アレルヤはミーティングルームに戻るロックオンの背中を見送ってから、ふぅと息を吐いた。大丈夫。あれは夢じゃない。ここにロックオンがいるのだから。
高鳴る胸の前でアレルヤは拳を握った。
そして、後ろで誰かに呼ばれた気がした。ロックオンが引き返してきたのだろうか。
「ロックオン?」
振り向くと。


「…アレルヤ、ねぇアレルヤってば」
「え…クリスティナ?」
どうして彼女がここにいるんだ?
「もうさっきからぼんやりしちゃって。せっかくのパーティなんだから楽しまなきゃ」
「…パーティ?」
一体なんの事だ?アレルヤは、まだぼんやりとする頭で、部屋を見渡す。ここは、食堂のようだった。けれどなにか様子が違う。あちらこちらに飾りがつけられ、まるで、そうパーティ仕様だ。いつのまにこんな飾りつけをしたのだろうか。前まではこんな飾りつけなどされていなかったはずだ。そもそも何故自分は食堂にいるのだろう。確かロックオンと一緒に医務室へ向かって、廊下で別れたはずだ。咄嗟に彼の姿を探すが、見当たらない。目の前にいるクリスティナが不審そうに声を声をかける。
「ねぇ、どうしちゃったのアレルヤ、なんか変よ?」
「あの、ロックオンはどこにいる?」
「ロックオン…?誰、それ?」
「え?」
「アレルヤの友達?」
なにを言っているんだ、彼女は。冗談にしては性質が悪すぎる。少なくとも、今のアレルヤにとっては。まさか短かくない時を一緒に過ごして来た仲間を一、昼一夜で忘れるわけがないだろうに。
「違うよ。ロックオン・ストラトス、僕らの仲間の」
「そんなに人私達の中にいたっけ?」
クリスティナは本当に不思議そうに首を傾げアレルヤを見つめている。あくまで惚けてみせているようには見えない。なんだんだ、一体。
「まだ寝呆けているのか、アレルヤ」
「どうしたんだ、そんなにあわてて」
二人の言い合いが聞こえていたのか、刹那とティエリアがやってきた。このままクリスティナと押し問答を続けていても埒が明かない。同じ仲間の彼らならば。アレルヤは期待を込めて二人に対峙する。
「ティエリア、刹那、ロックオンを知らないかい?」
「……ロックオン?」
「誰だそれは」
二人の反応はアレルヤの期待を裏切るには十分で。
「誰って、僕たちと同じガンダムマイスターの」
「なんの冗談だ?」
「ガンダムマイスターは俺達3人だけだろう?」
ガンダムマイスターは、…3人?
「冗談も度過ぎると笑えないな」
そうティエリアは吐き捨てると、すたすたと行ってしまう。それに続こうとした刹那の腕を掴んで問い詰めた。
「忘れちゃったのか刹那、ロックオンはいつも君と」
刹那、そうだ刹那はロックオンといつも一緒にいた。素っ気無い刹那をロックオンはしつこいと言われるくらい構い、弟のように可愛がっていた。そんな刹那がロックオンを忘れるはずがない。
「…俺はなにも忘れちゃいない。どうしたんだアレルヤ、お前、変だぞ」
刹那はアレルヤの腕を外すと、怪訝そうに眉を潜めた。
「…違うっ」
違う違う違う違うっ!!変なのは僕じゃなくて。
そうか、これは夢だ。なら、早く覚めなくては。早く起きて、ロックオンと会って、話して触れて、彼が居ると確かめなければ。
だんだんと目の前が真っ暗になっていく。ほら、夢じゃないか。これは悪い夢。
…でも、どこから、どこまで?

気が付くと、食堂にいた。今度はなんの飾りつけもしていない、質素な部屋。ほかに誰もいなくて、しんとしている。椅子に座るアレルヤの荒い息だけが響いている。
また。夢だったのか。まだ胸がどくどくと高鳴って、嫌な汗をかいている。手で軽く拭う。その手もふるふると震えていた。
夢でよかった。と安堵の息を吐く。…でも、本当に夢だったのだろうか?これも、夢ではないのか?
「あ、いたいたアレルヤ!」
ぷしゅっと軽い音を立て開いた扉から、スメラギが入ってくる。彼女はアレルヤの姿を確認し、傍までやってきた。
「アレルヤ。ロックオンが探してたわよ。…あら、一体どうしちゃったのよ、顔色がよくないわ」
スメラギは子供に叱る様に両手を腰に当てて言い、すぐに心配そうな顔を作る。
ロックオン。良かった、ここには彼がいるのか。ならこれは夢じゃない。ロックオンがいるならば、いっそ夢でも構わないとさえアレルヤは思った。
「スメラギさん、ちょっといいですか?」
「なにかしら?」
いきなりの問いにも彼女は何でもない様子で答えた。さすがは大人の反応だ。アレルヤは安心した。これなら、自分の疑問にも答えて貰えそうで。
「僕、最近夢をみるんです」
「夢?」
「ええ、とても現実と夢の区別がつかないくらいの」
だから、こうして話しているのも、僕の夢じゃないかって。
スメラギは少しの間、顎に手を当て、考えているようだった。どう答えようか、悩んでいるかもしれない。
そして、こんな話があるわ、と一呼吸置いてから切り出した。
「ある日男は自分が蝶になった夢を見たの。蝶となった彼はあまりに楽しかったから、自分が人間だということを忘れ自分は蝶なのだと思った。けど夢から覚めたら自分はいつもと同じ人間だった。けど男はわからなくなった。男が蝶になった夢をみたのか、蝶が夢の中で男になったのか」
「スメラギさん…」
それじゃ結局どっちなのか分からないじゃないですか。とアレルヤが答えれば、スメラギは肩を竦ませてみせた。
「夢か現実かを見極めるなんて、本人にも難しいわ。そもそもどちらがどっちなんて定義が存在しないんだもの。なら、現実でも、夢でも、自分の信じたいほうを選びなさい。信じていれば夢でも現実となる。本人がそう思い込んでしまえば、現実も夢になってしまうのよ。」
「それじゃあ、目が覚めたときに辛くならないですか?」
「目覚めてしまんだったら、なおさら楽しまないと。どうせどっちだかわかないんでしょう?どーせ分からないなら好きなほうを選んじゃなさいよ。」
「好きなほう…」
「そうよ。夢でも現実でも楽しいならどっちだっていいじゃない」
「そう、そうですね…」
夢なら夢で、楽しめるときに楽しんでおく。スメラギらしい言い分だった。そこにはアレルヤも賛同できた。さっきも、アレルヤは思ったのだ。ロックオンが居るなら夢でもいいと。
安心した?と尋ねるスメラギに、アレルヤは最後に会ったロックオンを重ねた。ああ、そうだ。ロックオンに会わないと。
「スメラギさん、ロックオンはどこですか?」
次にアレルヤが見たのは、霞んでいくスメラギの顔だった。

「アレルヤ。早く起きろよ、起きないと置いてくぞ」
「ロックオン…?」
「今日からユニオンに二人で旅行だろ?早く準備しないと」
旅行?ああ、そうか今日から長い休暇を貰えたから、二人でユニオンへと行くんだったか。アレルヤは体温で温かくなったベッドの上で寝返りを打つ。
眠り足りないとごねる重い瞼を押し上げ、目を開けると、青が飛んで入った。この空のように深い青はまぎれもなく、ロックオンのもの。ロックオンはアレルヤが目覚めたのを確認すると、その目を細めて笑う。
「起きたか?」
ロックオンが、自分の顔を見下ろしていた。もう随分会っていなかった気がする。なにを馬鹿なことを。昨晩寝る前に会ったというのに。アレルヤは思わずその線の細い腰を引き寄せ、そのまま抱きしめた。
「おい、アレルヤ…」
「もう少しだけ。」
ロックオンは腕の中で小さく身じろぐ。その様子が可愛くて、抱きしめる力を強めると、ロックオンは諦めたかのようにアレルヤの背中に腕を回した。
「ったくしょうがないな…」
そうロックオンは呆れたふうに言うけれど、口調はどこまでも優しい。抱きしめる彼は温かくて、彼の長めの髪が鼻を擦ってくすぐったい。アレルヤは全身でロックオンを感じる。ロックオンが、ここにいるのだ。だから、これは夢なんかじゃない。今までのは、自分の悪い夢だったのだ。目が覚めてよかった。
彼がここにいて、こうして彼を感じられている。それでよかった。ただそれだけが、アレルヤが現実にいるという証。
それが僕の真実。僕の答え。

プトレマイオスの通路で、そこの一つ窓から宇宙を眺めていた目当ての人物を見つけたスメラギは、彼に声をかける。
「様子はどう?」
「スメラギさん。どうしたんですか」
声を掛けられた彼は、黒く長い前髪で顔半分を隠している、まだ年若い青年だった。年の割には落ち着いていると、仲間のうちでは評されている。彼は隠れていない方の瞳を、ちらりとスメラギに向けた。
「芝居はやめましょう、…ハレルヤ。ここは他に誰もいないわ」
ハレルヤ、と呼ばれた男は先ほどの落ち着いた雰囲気が嘘かのように、にやりと口先を上げ笑う。
「…どうって言われても、いつもと変かわんねぇよ。アレルヤの奴、うんともすんとも言わねぇ」
分かりきっていた返答に、スメラギは目を伏せた。
「そう…」
「随分深く眠りに入っちまってるみてぇだな、こりゃ。…今ごろ、あいつの夢でも見てんじゃねぇの」
「そうとう、ショックだったのね、アレルヤ」
「他の奴等はどうしてんだ」
「刹那は今日もアイルランドへ、…墓参りよ。ティエリアはヴェーダの部屋に」
「篭りっきりってか。」
「任務には支障はないわ。でも…」
明らかにここには重い喪失感が漂っている。いつもと変わらない景色に、たった一人だ、たった一人いないだけでこんなにも空気が変わる。いつも朗らかに笑う、マイスターがいないだけ。
「あれから、もう一ヶ月か…」
彼が居なくなって、もう一ヶ月が経った。いい加減割り切らねば、と自分でも思う。けれど、ひと月やそこらで割り切れてしまうほど、彼の存在は小さいものではなかったのだ。自分も、そして今自分の目の前に居る彼と同じ顔をした青年にとっても。
ひと月前、一人のガンダムマイスターが死んだ。名を、ロックオン・ストラトス。もちろん偽名である。本当の名を、自分は知らない。知ろうとしなかったし、必要もなかった。CBには過去を検索する権利は持ち合わせない。ここにいる全員は組織に入る際に自分達の過去と名を捨てる。けれど、きっと彼はロックオンの本当の名前を、知っていたのだろうと、スメラギは思う。しかし、その名を呼んで振り返る人物はもういない。
彼は、仲間を守るため敵MS部隊に一人特攻し、死んだ。最後の最後で隙を狙われ、コクピット前で自爆されたのだ。なんとかコクピット這い出た時にはもう手遅れで、敵に発見された場合を考え、ハロの電源を落とした。無事回収されたハロの中にはロックオン最期の戦闘が記録されていた。そしてハロは、彼の最後の戦いの映像を映し出し終わったあと、自らのデータをデリートしたのだ。相棒と称し常に共にいたパイロットの死を機械が理解したのかどうかは分からない。けれど科学的に説明できなくても、ハロもハロでロックオンの事を愛していたのだとスメラギは思うことにしている。
アレルヤがデュナメスの回収とパイロットの生死の確認を担当した。無事デュナメスを回収しプトレマイオスへと帰還したが、アレルヤは一向にコクピットからでてこないのだ。困り果て、焦れた科学班はキュリオスのコクピットを抉じ開けた。アレルヤは操縦席で呆然としていた。死したロックオンを膝に乗せ、その身をロックオンの血に塗れながら。
戸惑いながらも、スメラギが恐る恐るアレルヤに声を掛けると、彼はゆっくりとスメラギに虚ろな目を向け、
「ロックオンが、いないんです、どこにも…スメラギさん、知りませんか?」
それがスメラギの聞いたアレルヤの最後の言葉だった。そう言った後、アレルヤはそのまま気を失い、次に目を覚ました時には、ハレルヤとなっていたのだ。
ハレルヤが言うには、自分の奥底で眠り続けているらしい。
「あいつは、ロックオンのいない世界を拒絶してんだ。無理に起こせば、自殺でもしかねない。
俺はアレルヤに死なれる訳にはいかねんだよ。…まぁ、起きればの話だけどな」
くっと嘲笑うハレルヤに、アレルヤの面影はみえない。
「そうね…、疲れたのなら、ゆっくり眠らせてあげましょう。」
で、次のミッションなんだけど、と話を切り出すと、彼はまたかよ、と不満の声を上げた。それに苦笑して、スメラギはハレルヤをミーティングルームへ促す。

悲しみで溢れる世界。ならせめて、夢の中で、幸せな夢を。

End

補充完了

                      



あの人が任務を終え地上から帰ってきたと聞いて、いてもたっても居られなかったので僕は彼の部屋に訪れることにした。昨日の今日だから疲れているかもしれないと思ったが、それでも彼に会いたい気持ちの方が強かった。最近はお互い任務ですれ違ってばかりだからなおの事会いたい。きっと優しい彼はしょうがいなと言って自分を迎えてくれるだろう、そんな彼の優しさに今回ばかりは甘えさせてもらおう。
「ロックオンいますか?」
ドキドキと胸が高鳴るのを抑えロックオンの部屋の前にたって扉をノックする。こんこんという音が静かな廊下にも響いた。しかしなんの反応もない、留守なのだろうか。
一応ここに来る前にレクルームを覗いてみたが居たのは仏頂面をしたティエリアと刹那がテーブルに肩を並べて座って「あいつは」とか「天然め」などと誰かの談義をしていただけだった。ちょっと珍しいツーショットだったけど目的の面影は見当たらなかったので後にした。
自室にいないとすれば後はトレーニングルームだろうか、しかしそれもなんだか違う気がして。もう一度ノックしてなにも反応が返ってこなければ行ってみようと、アレルヤは再度冷たい扉をノックした。
やはり反応は返ってこない。居ないのか。はぁと息を吐いて引き返そうとした所でぷしゅっと音を立てて扉が開かれた。やはり居たのか。だがアレルヤの前には誰も居ない。あれ、と思って下に視線を向けるとオレンジ色の球体がころころと部屋の奥から現れた。
『アレルヤ、アレルヤ』
電子音で自分の名を呼ぶのはロックオンの相棒のハロだ。任務へ向かう時にはもちろん彼はハロをどこへ行くのでも連れて歩く。ハロは独立AIだからできるだけ一緒に居ていろいろと学んで欲しい、と前に聞いた事がある。学ばせたいというのは分かるが彼は悪魔でロボット、果たしてそこまでする必要がるのだろうかとアレルヤが嫉妬の炎で胸を焦がすのは仕方の無いことで。
そんなことはともかく。ハロがいるということはロックオンもいるということだ。
『アレルヤ、アレルヤ!ロックオン、ロックオン』
ハロがこの部屋の主を呼びながら奥へと入っていったのに確信して、アレルヤは失礼します。そう告げて部屋に足を踏み入れた。

「ハロ、あーん」
『アーン、アーン』
「美味しいか?」
『オイシイ、オイシイ』
「…何、やっているんですか?」
そこには少し、いやかなり異様な光景が広がっていた。
邪魔してはいけない気はしたのだが口が勝手に動いていた。
ソファーに座ったロックオンがなにやら小さく赤い食べ物――確か苺といっただろうか。をハロの口(?)に押し当ている。テーブルの上には透明なパックに入った苺が、水で洗ったのだろう水滴を光らせとても水々しそうに存在を主張していた。
「お、アレルヤ。」
今自分がいることに気付いたようにロックオンがアレルヤを振り返る。久しぶりに見た彼は最後に見たときと全く変わっていない、むしろ前より綺麗になった気がする。それはアレルヤがロックオンに寄せる想いから見せる欲目だったが、アレルヤは気にしない。
「いやな。任務のついでに街を降りたら、今が旬だって店のおっちゃんに勧められてさ。買ってきたんだ」
いや、聞いているのは経緯ではないんです、今の現状なんです。そう言いたいのを、へぇそうなんですかと笑って誤魔化す。
「そしたらハロが食いたいっていうからフリだけでも食わしてやろうと思って。なー、ハロ」
『ナー』
ロックオンにハロは耳をパタパタさせて相槌をうつ。
フリだけ。確かにロックオンはハロの口元に苺をくっつけてハロが食べてから(食べれないので音声で食べたと判断してから)自分の口に入れていた。だがやっていることは子供が砂場でやるおままごととなんら変わりは無い。普段は大人で頼りがいのある最年長者マイスターのくせに変な事で子供のような一面を垣間見せる。
またそこが可愛いと思ってしまう自分も少々変わっているのかもしれない。仕方が無い、所詮恋は盲目なのだ。
『ロックオン、アーン、アーン』
「お。あーん」
ハロが耳から出した手が苺を摘みロックオンの口元へ運ぶ。
『ロックオン、オイシイ?、オイシイ?』
それを口に入れ噛んでから飲み込む。
「ああ、美味しいぞハロ」
『ハロ、ウレシイ、ウレシイ』
ロックオンが頭を撫でるとハロは嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。
二人だけの世界だ、飛び交うハートが見える気がする。自分の存在が掻き消されていく。なんというバカップルの図だろう。アレルヤはその光景をただ呆然と眺めていた。

しばらく二人の食べさせ合いを見せ付けられ苺も残す事数個となった時、ロックオンがところでとアレルヤを振り返った。ロックオンの翡翠の瞳で見つめられ胸が高鳴る。
「なにか俺に用だったんだろ?」
「えっ…」
ロックオンの問いにびくっと体が跳ねた。
そうだった自分はロックオンに会いに来たのだ。
だが会いたかったから来た、というのは冷静に考えたらとても恥ずかしくないだろうか。付き合い始めた恋人ではあるまいし。いや、自分としてはそういう関係になりたいと常々願っているがロックオンは違う。彼は自分を同じマイスターとして仲間としてしか自分を思っていないだろう。
ただ様子を見に来た、そう言えば済むことだ。思ったままを言おうとして、
『ロックオン、アーン』
「え。まだやるのか、ハロ」
苺を手にしたハロに遮られた。ロックオンは背後にいるハロを振り返る。つまりアレルヤに背を向ける体勢になる。
正直面白くない。
先ほどは突然の衝撃のあまりつい思考を手放し傍観してしまったが、普段ロックオンを独占しているくせに、あまりロックオンと会えない自分の貴重な時間を、何故ハロに邪魔されなければならない。
つまり少しくらい自分にもロックオンを渡せ、独り占めするなとアレルヤはそう言いたいのだ。
アレルヤはおもむろに水の残るパックから苺を一つ取り出す。
「ロックオン」
呼ばれたロックオンはハロに食べさせられた苺を飲み込んでから振り返った。
「悪い、アレルヤ。で、なんの用だったんだ?」
アレルヤはロックオンに苺を手渡す。
「あーんしてください」
「は?」
思わず受け取ってしまったロっクオンは疑問の声を上げる。
「食べさせてください。ハロみたいに」
「お前なに言ってんだよ」
「僕じゃ嫌ですか…?」
ハロのにはやったのに。
肩を落として項垂れる。こうすればロックオンは絶対に突き放さないことは知っている。
ロックオンは、ハロは相棒で、ロボットで…ごにょごにょぼやいている。恥ずかしがっているのだろう。そういう初々しく純情な反応が相手を喜ばしている事をそろそろ彼は自覚したほうがいい。
まぁ教えてあげたところで直るとはアレルヤも到底思えない。最も教える気もさらさらないが。
「分かった、分かったよ!ほらっ」
観念したロックオンは苺をアレルヤの口元に運ぶ。
ハロに食べさせていた為ロックオンの白い指が赤く染まっていた。耳まで真っ赤に染めてロックオンの方が苺みたいだ。
…美味しそう。
気付かれないようアレルヤは密かに笑う。
苺を口に入れられると舌の上ににヒンヤリとした苺の感覚が乗っかる。噛めば甘酸っぱさが広がり、ごくりと飲み込んだ。
「美味いか…?」
嚥下したのを確認し羞恥に頬をまだ赤らめたままのロックオンをアレルヤはちらりと見やり、問いには答えず目の前のロックオンの手首を掴む。そして指に付いている苺の汁を己の舌で舐め取った。
「ひっ…!」
ほとんど反射的に手首を引っ込めようとしたが、アレルヤが硬く握っているので叶わない。そのまま手首を引きロックオンを自分の許へと引き寄せる。
ちゅっ
ロックオンの形の良い唇に自分のそれで触れる。そしてすぐ離れた。
「甘くて美味しかったです。ロックオン」
ご馳走様でした。
そう笑顔で告げてアレルヤは固まったままのロックオンを残し早々と部屋を出て行く。
ロックオンが何をされたかを理解し悲鳴を上げたのは扉が閉じた後だった。


End

ハロとロクのあーんが書けて大満足です。二人はラブラブです。
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