話題:二次創作小説
まさかのMH作文です
あの世界観で創作って言った方がいいのかな…話題なのはちょっと調子に乗らせろってこって
一度書いてみたかったのを、1か月ちかくあっためててやっと載せる勇気が出たわよ…
しかも長いんだこれ 書いてみて驚いた終わらん終わらん
気になったならどうぞ
透き通った空気が、銀河の色を鮮やかに見せている。
時折吹く強い風に、積もった雪が煙になって空を隠す。視界を潰す。はあ、と吐き出した息が凍りついて白い空気に混じって、消えていく。
前も後ろも解らない。一面の白。
荒い呼吸の合間に、歯ががちがちと音を立てる。寒さは感じない。身体を支配するのは恐怖。雪山における絶対的な強者の威圧。
不気味な程に静かだ。何処に身を隠して、自分を狙っている。
逃げるわけにはいかない、だから、此処で叩き潰す。それしかない、それがいま、自分に出来る総て。
ひとつ深呼吸をして、息を整える。銃槍を握る指が震えるのは、どうしたって止められない。何時ものことだ。
頭上から、雪の塊がどさりと落ちてきた。同時に轟く絶叫、
「――セシル、上っ!」
上から降り注いだ爪の一撃を既のところでかわして、盾を構える。
ゆっくりと、鮮やかな山吹色の巨体を起こすと、それは怒りに朱く濡れた瞳で自分を睨みつける。前肢で雪を掴み、いまにも飛びかからんばかりに此方を威嚇する。
威嚇の声だけでも、吹き飛ばされそうな爆音だ。これが轟竜たる所以。暴虐の徒、ティガレックス。
遅れて駆けつけてきた連れの狩人も、槌を構えて間合いを詰めていく。
かなり長時間攻防を続けているにも関わらず、相手の甲殻には傷ひとつついていない。此方だってそれなりの装備で挑んでいる筈、だがあの頑強な爪は鎧を抉り肌を切り裂く。
相棒――カレルの状態も万全ではない。勿論自分も。
攻撃を受け止め続けた盾、それを構える右腕は痺れが取れず感覚は殆どない。
幾度か転んだ拍子に打ちつけた身体が、今更になって痛み出す。
掠っただけと思っていた爪が、鎧を通り越して届いていたり。
「――……くそッ。何だ、こいつ、」
他の個体には見られない圧倒的な攻撃力、有り余る体力。
長期戦でも此方が保たない。
――……化け物だ。漏れた自分の言葉に、恐怖がより一層色濃くなる。
「びびってンじゃねえ!来るぞ!」
カレルの叱咤に、ぐっと身体を低くする。
ひとつ吠えて、轟竜が前脚に力を込める。雪を撒き散らしながら、セシル目掛けて突っ込む。目前に迫った牙を回避して後ろ脚を狙うも、ぐるりと振り返った大顎は執拗にセシルを追い掛ける。巨体に似合わぬ俊敏さ。避けられない、
と、ずん、と鈍い音がして、ティガレックスが僅かに怯む。後ろに回っていたカレルの槌が、後肢を捉えていた。
「カレル!」
「平気!おれがなんとかしてる間になんとかしろ!」
引きつけている間に態勢を立て直せ、ということだろう。
奴がカレルの方を向いたら。銃槍に弾を込めて、そこから勝負。
しかし、一瞬後ろを振り返ったティガレックスは、直ぐにセシルへ向き直る。カレルなど眼中にない、とでも言うように。
滾る血が生々しく流れる前肢。地を踏みしめて思い切り身体を捻ると、長い尻尾に勢いをつけしならせた。重たい槌を振り下ろしたままだったカレルは回避行動がとれず、軽々と弾き飛ばされる。
「が、っ!」
「…………ッ!」
舞い上がる雪で靄がかかったよう。一瞬の出来事がスロウモーションに見えた。
尻尾に弾かれたカレルの身体は、宙に投げ出されかなり遠くまで飛ばされた。彼の槌も吹き飛ばされ、落ちると雪に塗れて見えなくなってしまった。
カレルの姿が確かめられない不安に、その名前を呼ぼうにも声が発せない。
じり、とティガレックスが距離を詰める。
追い詰めた、と言わんばかりに牙を剥いてセシルに迫る。
――恐い。震えが、止まらない。
いまにも武器を取り落としそうになりながら、立っているのがやっとだ。
「――……あ、あぁ……っ!」
カレル。カレルは?
何故立ち上がって駆け寄ってこない。
大丈夫か、と笑いながら、この窮地から救ってくれるんじゃないのか。
俺がひとりで、こんな化け物と対峙しているこの瞬間にあいつは、
……眠っているだけ、なら、いいけれど。
「……くそ、くそ…………っ!」
ティガレックスが前脚を引く。次に来る攻撃は解っているのに、脚が竦んで動けない。
雪の塊が至近距離から押し出される。辛うじて盾で受け止めて、衝撃に思わず瞑っていた目を開ける。
いまの雪が砕けた拍子に雪煙が辺りを覆って、視界が白に塗り潰されてしまった。何も見えない。奴は、まだ正面か。
距離をとる間もなく、煙の向こうで雄叫びが聴こえた。間髪入れずに雪の合間から襲いかかる牙、ばきん、と厭な音。
金属で出来た盾が、噛み砕かれた。粉々に、とまではいかないが大きさは半分残っているかいないか。移動要塞と称される銃槍の、要の部分を失ってしまった。相手の狙いがもう少し正確だったら、恐らく腕を食い千切られていただろう。
ひゅう、と喉が鳴る。
逃げよう、と決めた。これ以上は戦えない。どれほど惨めだろうと、カレルを引き摺ってでも逃げよう。
これだけの強さを誇る飛竜が、易々と他の誰かに狩られることもないだろう。何時か必ず仕留めてやる。
煙が晴れて、轟竜が再び姿を現す。低く唸って、爪に、牙に怒りを乗せる。
――しまった。近い。これでは、攻撃が来たら避けられない。去なせる盾もない。
兎に角距離を開けようと後退る。それを阻むかのように、ティガレックスがもう一度、前肢を踏ん張った。
来る。先刻の、カレルが吹き飛ばされた映像が頭を過ぎる。この距離だときっと、あれじゃあ済まない。
ああ、
「セシルッ!」
幻聴だろうか、カレルが自分を呼んでいる。生きてたのか、おまえ。来るの遅い。
真横から飛んできた尾の一撃。何時もの癖で、ガードしようと右腕で受け止める、が、いまそこには盾の残骸しかない。
ほぼ生身の腕に直撃した尻尾の威力に、呼吸が止まる。それで衝撃を殺せるわけもなく、身体中の骨と肉が悲鳴を上げる。
次に見たのは、隔てるもののない、宇宙そのもの。白銀の大地と鮮やかな夜空が回って、ぐにゃりと歪む。
地面に叩きつけられた瞬間、雪山でよかったな、と暢気なことを思った。が、雪の緩衝も鎧も、意味をなさないことも。
全身の感覚がない。遠く、遠くでカレルの声と轟竜の咆哮が聴こえた。
――あの地獄から、どうやって生き延びたのか、覚えていない。
覚えているのは、あの竜への恐怖と、憎悪だけ。
力で雪山を統べる、暴虐の“皇帝”。
終わらせる。この手で。必ず。
[A Rebellion against The Cold-Empire]