事故に遭ってからのことは、実はあまり記憶にない。
ひとつ確かなことといえば、自分はすでに一度死んでおり、何らかの理由によって生き返ったということだけだ。
夢の中で私は自分の死を自覚した後、再びその身体に生を受けた。言葉にするのもおぞましいと感じるほどにもはや形を成していない死体を眺めながら、私はただ呆然と自身の身に起きたことを理解しようと必死だったのかもしれない。
脳裏によぎるのは、人が到底理解し得ることもないような様々な真実、知識、冒涜的な神々のその姿。知ってはいけない、知ることは許されていない、そのようなものがどうして頭の中に流れようか。
あれは言った、これは対価だと。あれはその不愉快を体現したかのような嘲笑いで私を確かに見た。
正気を失い、狂気にその身を染めながらも、歩き続けようとする私の姿が大層お気に召したらしかった。
そうして夢から目覚めた後も、私は何度も夢を見た。夢から夢へと渡り歩いているような感覚に近いのかもしれない。
その中で、何度も夢に出てくる存在がいる。かつて私が殺し、再会と離別を繰り返しながら、夢の中で再三に渡りその命を奪うことになってしまった少年のことだ。
彼はまるで何事もなかったかのように幾度も私の前に現れては、無邪気で屈託のない笑顔を浮かべながら、あの時と同じあの声で私の名を呼ぶ。しかしそれはいつしか、私にとって恐怖の対象となっていった。あの少年と関われば、あの子はきっとまた死んでしまう、私の目の前で、私があの子を殺してしまうと。そう思うと怖かった。
夢であると頭の中ではわかっているはずなのに、いやに現実味を帯びたその夢は、やがて私の正気を食いつぶしていくのだろう。否、すでに私は正気でないのかもしれない。
何度目かの夢を見ながら、私は視界の端に移りこむあの少年から目を逸らし続ける。
「あおり」と、私の名を呼ぶその声も聞こえないフリをする。
その度に、あの少年は死ぬ。ああやってまた、私の目の前でその小さな命を散らして行く。
見るに堪えないその光景を何度も見せつけられ、私はいつしか死ぬことばかりを考えていたような気もする。どうやったらこの悪夢から逃れることができるだろうか、どうすればこの永遠にも思える苦痛を終わらせることができるだろうか。
いっそ死んでしまったほうがいいのだろうか。
誰かが言った、「お前は死にたいのか」と。
私は答えた、「わからない」と。
するとそいつは私を見て、憐れだと言った。だがそれは私に向けてではない、私の周りの人間がそうなのだと。
そこから先はよく覚えていない。ただ、許せないと、そう思ったのかもしれない。
そいつの言っていることは全て正しかった。正論をぶつけられて、返す言葉もなく、私は癇癪を起こした子どものように否定の言葉だけを吐き散らしていた。
気づけば、私は荒野に一人取り残されていた。何も考えることもできず、ただ呆然と手に渡された宝玉を見つめながら、私はそこにいた。
赦されたいなんて考えたこともなかった。
赦してくれる存在がいるなんて思いもよらなかった。
一人で全部抱えるつもりだったのに。
あいつは言った、「お前はどうしようもなく人間だ」と。
あれらは言った、「それでも愛してる」と。
「アオリは悪くない、ひとりで抱え込まなくてもいいんだ」
「でも言ってくれないとわからないよ。オレたちは人間の姿にはなれるけど、何を思って何を考えているのかまではわからないから」
「だから、オレたちのこともっと信用してほしい。頼ってほしい」
そうまで言われたとき、それまで心の中にずっと存在していた自責の念が少し軽くなったような気がした。
あれほど願っていた平穏もいらないと思えるほどに、何よりもその言葉が嬉しかったのかもしれない。
このままでいい、もうしばらくは。だから、もう少し歩み寄ってみようと思う。
あの子の姿はもう見えない。声も、聞こえない。