本当に久しぶりのここの更新です。
ミツナル♀のクリスマスです。二人はまだ付き合ってません。
一気に書き上げるつもりが、普段ファッションとか全く捨ててる私、その辺で苦労しましこれ以上文章書けないほど眠いので、諦めて今日はここで切ります。
ナルホドくんの面影を崩さないよう女々しくなりすぎないように、しかし、クチが悪くなりすぎないように、口調もちょこっとだけ調整したり。
女性化はそのバランス感覚が難しいですね。
それでは、本編は続きから。
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お話未満の妄想&書きかけお話の倉庫。ここで上がった話は大概大幅に加筆修正を加えられサイトにUPされます。
本当に久しぶりのここの更新です。
12月24日 午前9時 成歩堂なんでも事務所
【メリー大作戦!】
崩れた法廷で、真実を追求する。
そんな大仕事が終わった反動で、ぼくは最近ボンヤリしていたみたいだ。
「成歩堂さん、アンタ、今日は仕事しなくていいから! 明日まで帰って来ないで!!」
よりによって心身共に一番大変だろう部下に叩き出された成歩堂龍子は、その事務所兼自宅を構える雑居ビルの入り口でうなだれる。
「うう……情けない。所長失格だよ……」
行くあても会いたい人も、ない。
正確には、一番最初に浮かんだ人間は、自分よりも多忙なのだった。
途方に暮れていたら、目の前の道路で、見覚えのある赤いスポーツカーが停まる。
まさか、まさかと思うが…と思ったら、そのまさかで。
「お前、まだこんなの乗っていたんだ?」
龍子は、思わず笑いながら素直でない憎まれ口を叩いた。
対する、予想違わず車から現れた幼なじみの検事局長は、相も変わらず澄ました顔でそれを華麗にスルーすると、手を胸の前に優雅な礼を返す。
「今日は、君と私の優秀な部下達の依頼により、特別任務を遂行する事となった。つき合ってはくれまいか?」
生まれながらの貴人のような所作に、玲瓏な美丈夫。女性ならば一度は憧れる運命の男性像の具現そのものの存在である御剣から車に乗るようにエスコートされる光栄も、龍子にとっては今更何ら感慨も湧かない。
「なんなんだよ…それ……」
そんなそっけない言葉を吐きながら車に乗り込んだのも、部下の願いと聞いたから、それ以上の何物でもない。
赤い車は、二人を乗せて、思いもかけない運命の輪として巡った。
某百貨店の駐車場に止め真っ先に向かったのは、ブティック。
「え…? なに…?」
それも煌びやかでかつフェミニンなコンセプトの、どちらかと言えば二十半ばの若い女性向けな店の様相展示に、完全に龍子の腰が引ける。
「御剣…お前の特別任務って…?」
戸惑いに大きな瞳を零れんばかりに開き見上げてくる彼女のいでたちは、いつもの青いパンツスーツにピンクのネクタイと飾り気一つない黒いベタのパンプス。
「モチロン、キサマへのクリスマスプレゼントだ」
これは、成歩堂なんでも事務所のマジシャンが逆サンタとなった事から、発端する。
「みつるぎさん、このお金でママの服を見立ててください♪」
「い、いや…! 成歩堂とはいえ、女性の服を男が見立てるのはどうかと思うが……」
御剣は、未来の大魔術師をまるで自分の姪か娘かのように可愛がっていたが、さすがにこの願いには白目を剥いて怯み断りを入れた。
しかし、
「ママは、みぬきと買い物に行くといつもみぬきや心音さんの服ばかり…挙げ句の果てにはオドロキさんのパンツとかまで買っちゃうのです! それじゃあダメです!」
「お、王泥喜弁護士のパンツまで……」
ある意味セクハラだが、彼女の娘も部下達も懸念するのはその辺りに全くない。
もはや、その辺りの価値観がもはや母子のものなのだろう。
故意かどうだか、みぬきは、その辺りの事は華麗にスルーし訴えを重ねた。
「その点、みつるぎさんならママもそうそう強く出ないし、みつるぎさんも女性モノの見立ては、冥さんで慣れているでしょ?」
「それは、少々…異議が……」
珍しい事に、御剣は異議を唱えたいと思う。
成歩堂は、そうそう折れない頑固者だし、メイの買い物には、荷物持ちとして半ば強引に引き摺られて行っただけなのだから。
だが。
「異議は、却下する!」
可愛い声で却下され判決まで下されれば、御剣には為す術もなかったのだった。
後は、成歩堂の部下達が、ひらりひらりとお金を上重ねして。
「御剣さん、どうか、うちの所長をよろしくお願いいたします……」
真摯に真剣に、願いも重ねる。
化粧気ひとつないスッピンも併せて、彼女のトレードマークと受け止めていたが、まさか――それ以外何も持っていないとは!
「うム。悪くないな…入るぞ、成歩堂」
成歩堂が愛する子供達の嘆きを、終わらせてやらないと。と、御剣はその願いを聞き届けねばならない。
「え…? 何でだよ……い、異ぎ…」
「君の異議は、却下だ」
みぬきより断固として却下し、かぶりを振る幼なじみを引き摺るようにして、目標を達する事にした。
男性並の丈の背を真っ直ぐに立つ、青いスマートなシルエット。短く切られた髪、闘う女、それが彼女の美しさ――そう、思っていた。
「御剣…ぼくには、これ、可愛らしすぎない?」
だから、御剣もその言葉に同意した…かった。ほんの数分前までは!
だが、今は違う。
「いや、君は、美しいな…」
朱鷺色の千鳥柄のワンピースに、襟元袖口にフェイクファーのついた真白のコートが、大人らしくも愛らしい。
彼女は、冬の寒々しい光の中において、さぞ温かく輝かしいだろう。
「まさか、こんなに似合うとは…正直、私の目の節穴ぶりを申し訳なくすら思う……」
法の剣を振るう、青い伝説の女傑。そのイメージが、どれほど彼女からその真の美しさを顕す機会を阻害していたのか……。
御剣は、この眼で確認した衝撃に、どうにも取り繕う事すら忘れ、茫然と既成概念に対する懺悔を零した。
「本当に、お連れ様にお似合いですよ、旦那様」
「ち、違っ……! 御剣ッ! 何言ってんだよ!」
販売員の女性も、満足げなため息すら漏らし賛辞するのに、彼女は頬を真っ赤にしてぼくは御剣の彼女じゃないと、叫ぶのだ――御剣は、ああ、彼女の柔らかそうな頬と唇にも紅を買わねばと、ぼんやり思う。
その瞬間、気付いた。
「全て、頂こう」
御剣の中で、今まで滞っていた世界が、動く。
「ありがとうございます」
ちょっと待て! だの、こんなの払えないよ? だの、全て却下だ。
「御剣…ごめんね」
やがて、ブティックに入る前とは装いを全く変えた龍子が、そう、弱々しく悲しそうな目をして礼を言えば、御剣の心臓が跳ねて、焦燥感が募る。
「どうしたのだ、成歩堂?」
「ううん、なんでもないんだ」
彼女の悲しみを止めたい。彼女を喜ばせたい。そして、彼女のこちらまでも幸せにする笑顔が見たい……。
なのに。
「成歩堂、君の口に合わなかったか?」
「ううん、とても美味しいよ。ごちそう様」
靴も、化粧品も、イヤリングも、ペンダントも、美味しい料理も、与えた瞬間は嬉しそうになってくれるも、次の瞬間には、その笑みは一層悲しげに深まるのだ。
短い日は、あっという間に沈み、空から白くふわふわとした雪が舞い降りる。
煌びやかな、イルミネーション。
温かな橙の灯と人々のホワイトクリスマスを喜ぶ笑い声の中、助手席を残しプレゼントで埋まった御剣の車に戻った瞬間、彼女は耐えかねたように言った。
「御剣…もう、やめてくれないかな?」
薄い色の口紅は、彼女の色を失い震える唇を、隠してはくれない。
その痛々しい様子に、御剣は初めて自分の行動が独りよがりなものであったのだと、悟ったのである。
「すまない……イヤ、だったのだろうか?」
「ううん」
強くかぶりを振る彼女は、しかし、とても悲しそうだ。
爪で手のひらを傷つけてしまわないかと心配になるほど、拳を握り。柔らかい皮膚を千切ってしまうのではないかと心配になるほど、唇を噛んで。龍子は、呻くように言う。
「服もアクセサリーも靴もルージュもこんなに貰って嬉しかったし、君と買い物や食事ができて楽しかったよ――だから、辛いんだ」
ギリギリ絞られるような心臓の痛みが辛くて苦しくて、龍子の瞳に熱い滴が溢れれば、折角の美しい街並みや男がぼやけてしまった。
「ぼくは、きみに美しいとか言われたり、こんなに良くして貰えるような、素晴らしい人間じゃない…錯覚してしまうよ…」
驚いた。とんでもない間違いだと、御剣は思う。
自分は、この決して長くもない人生で、様々な人間と出会い、別れた。
そんな中で、彼女程のお人好しで他愛的な人間など、知らない。
そして、こんな沢山の人間を幸せにできた人間など、知らない。
だから、あの法廷のように、断じよう。
「君は、素晴らしい人だ。成歩堂」
「やめてくれ!」
あの御剣が、こんな優しい言葉をくれるなんて。龍子の声は、殆ど悲鳴だった。
耳を押さえて真実を拒む彼女に、御剣はまた驚いた。
どうして、こんなに頑ななのだろう?
そう、まるで……。
「もしかして、君は、何かが怖いのだろうか?」
「言うな!」
また、一歩近付いた。彼女の大きな宝石のような瞳から、涙が今にも溢れ落ちてしまいそう。
それを拭ってやりたい。強く思って、もう一歩近付いた。
「これ以上、近付かないで!」
もはや追い詰められる恐怖を隠すことさえできずに、龍子は、悲しみの淵で浅くなる息を大きく深くつき――零す。
「…ぼくが女だなんて、思い出させないでくれないかい?」
自分は、法の暗黒時代と闘う弁護士、娘を部下を守る母なのだ。
「今日は、楽しかったよ、嬉しかったよ…綺麗なもの可愛いものきみの優しい言葉を一杯貰って、ぼくも女だったんだって……でも」
どんなに着飾っても、見せる相手なんていないし。
「永遠なんてない。綺麗なモノも素晴らしい思い出も、どうせいつかなくなってしまうのに…!」
その真実に対する寒さや恐ろしさで、歯の根があわない。
龍子は、震えが止まらない身体を自ら抱きしめながら、魂から絞られ口まで上った苦悶を吐き出した。
「ぼくはみっともなく縋ってしまう。だから、最初から要らない――喪われる前に、捨ててしまえばいいんだ」
ああ、ああ、御剣は、ついに口を開けた彼女の絶望の淵の深さに、目眩を覚え嘆息する。
「成歩堂…」
この伝説の弁護士は、依頼人を最後まで信じ切るのに、この世で唯一自分の事だけは信じられないのだ。
否、正確には、自らがそれに値しないと、信じ切っている。
人々には、あれだけ与えておいて……。
どうかいつか、彼女が、この粉雪のように絶え間なく降り注ぐ好意や幸運をその温かい手で受け止められますように。
見上げた先の光の十字の信じてもいない神に祈りかけ――止めた。
その発想が、間違っている。
彼女は、天の聖母でも救世主でもない。この地で生きる人間だ。
御剣は、この手で与える事ができるのだ!
「どうやら君は、臆病者の上に、愚かだったようだな」
「御剣……」
本当にバカだな、君は。
御剣は、一息に駆け寄り、その意外と細い手首を掴む。
「人は、誰しもが、愚かで臆病なものだ」
肯定されて、こんなに悲しそうな涙を零すぐらいなら、もう一度立ち上がりたまえ。
君は、何度倒されても蘇る、人ではないか。
「証拠を提示しよう――来たまえ」
御剣に手を引かれ、二人。
ますます激しくなる雪の中を、先ほどの百貨店まで駆け戻る。
-続く-
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