はらり、
窓から柔らかい風と共に一枚の花びらが舞い込む。
(桜か、もうそんな季節なんだな。)
網戸を閉めてカーテンを両端に結わえ、俺は目覚めの一杯を淹れにかかる。
因みにコーヒーは豆から挽く派だ。インスタントに比べて確実に薫りがいいからな。
(そういえば、あの角の家の桜がもう咲いてたな。)
(花見…行くか。)
俺は高校を卒業後、そこそこの大学に進学し、そこそこの大学生活なるものを過ごした後は院になど行く気は毛頭無くそのまま中堅企業に就職した。
そしてこの春でめでたく2年目を迎える。
こうしてみると割と早かった。高校時代にハルヒに振回されていた頃に比べれば社会の荒波なんざ大した…事はないとは言い難いが、まぁ上手くやっているつもりだ。
ニュースを見ようと点けたテレビに桜の開花前線なるものが出ていた。
(今週末辺り満開か…よし、確か休みだったはず。)
(日曜は近くのちょっとした名所にでも、弁当持って出かけよう。)
弁当のおかずは何にしようか、タコさんウィンナー好きだったなアイツ。
「ん?あ…もうこんな時間じゃねぇか!!!」
ふと見た時計の針が8時を知らせる。
「おい!一樹!!!お前何時まで寝てる気だ。置いてくぞ!」
はぁ…やれやれだな。
アイツは呼んだ位じゃ起きやしない。
さぁて、可愛い嫁を起こして早く飯を食わないと年度初めから遅刻しちまうからな。
たんたんたん、
雨が窓硝子を叩く音だけが僕の耳に届く。
時たま聞こえる車のタイヤが雨水を跳ねる音も、なんだか不思議な気分にさせる。
昼間には、あの跳ねる雨水に苛々することすらあるのに。
雨の日は不思議だ。
特に雨の日の夜は格別に。
ゆっくりと目を閉じると、トタン板に跳ねる音、屋根からこぼれる滴が落ちる音、
色んな音が聞こえる。
水の音は人の心を癒す効果があると言うけれど、それは本当にそうだと実感する。
雨は人々を憂鬱にさせるけれど、それと同時に、人々をしっとりと落ち着いた気分にさせてくれる。
僕にとっての雨空は、余りに重苦しくて、何かの重圧に押し潰されそうになる位の存在だったのに。
いつからだったんだろうか、傘をさして歩く事が心無しか楽しく感じる様になったのは。
傘を忘れた彼に差し出した自分の傘に、二人並んで入ったあの日からだろうか。
折り畳み傘は、やはり利便性を追求した小振りな造りをしていて。
体格だけは大人な僕ら二人を囲うには余りに小さくて。はみ出した肩に雨粒を感じながら、小走りで駆抜けたあの道を、
僕はまた明日学校へと辿るのだろう。
僕はベッドに横たわりながら窓の外を見て、そんな事を考える。
また明日、彼に逢えたらいいな。
きっと絶対逢えるに決まっているのに、何故か可能性の低い願望みたいなそんな切ない気持ちになる。
明日彼に逢ったら何を話そうか、
明日もオセロでいいだろうか、
明日も、
明日も、一緒に帰れるかな。
ほんの少しの事でも良い。
彼に逢って、たわいもない話をして、
そんな当たり前の日常がどうか壊れませんように、
いつまでその当たり前の日常である幸せを噛み締めていられますように、
僕はそんな祈りを込めて眠りにつく。
あの、
いきなりなんですけどね、
一日一分一秒を楽しむことって
至極大切なことですよね。
そんな風に静寂を破ったのは奴の甘いテノールだった。
なんだ、そんな年老いた人みたいなこといいやがって。
いえ、最近毎日が幸せなんですよ。
生きることが億劫じゃない、むしろ楽しい。
もっともっと一日が続けばいいのに、なんて柄にも無いことを考えてしまうんです。
ふふ、と奴は儚い花のように笑う。
これも貴方のお陰なんでしょうか。
僕は、
やっぱりしにたくない、
●<こんこんこんこん
KYON<ん?うわぁああ!!ちょ!お前っ!ばか!何やってんだ!ここ地上3階だ!
●<あぁ…そうでした。いやぁ紅玉の時は東京タワーの高さを飛び回っているものですから。あはは
KYON<あははじゃねぇ!そうだついでに教えてやる。今は授業中だ!
●<えぇ存じております。だから窓からお邪魔しているんですよ?ほらだってキョン君窓側なんですもん。
KYON<なんですもんって…お前。…はぁ…
●<なんです?紅玉の僕はお嫌いですか?
KYON<こら古泉!机の上でコロコロするな!あ、おい落ちる!
●<だってぇえ―
KYON<だってじゃない!あ―…もう。ここにいろ!
●<うわぁキョン君の膝の上!ぴょんぴょん!
KYON<ぴょんぴょんするな!こうしてやる!
●<うぎゃっ!はしゃまないではひゃまないでぇえいたいいたい!
→遅刻してきた古泉は紅玉になってキョンのクラスに直行^^
キョンは紅玉古泉には優しいといい^^^^
いちゃこらして周りが見えなくなっていたらいい^^^^^^
うわぁああ
大変です大変です!
遅刻なんて優等生にあるまじき行為!
僕が居ないとキョン君が淋しがってしまいます!
あぁ!
朝9組を覗きにきて、僕が居ないことを知って、落胆してトボトボ帰って行くキョン君が目に浮かぶぅう!
可愛い可愛い可愛いww
っではなくて、
どうしましょう…
いっその事休んでしまいましょうか…
いえいえそれじゃあキョン君が(以下略)
とか言いつつキョン君は僕の心配なんかしてないんですよね…あはは…
(ぴぴぴ)
ん?
っ……
僕、古泉一樹!
学校に行きます!
『お前来るの遅ぇ。なにやってんだよ…ばか』