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心を捨てた鍵

※特殊設定



*ジュード
イル・ファンにある城、オルダ宮の奥に閉じ込められていた少年。
何故、城に閉じ込められているのかは不明。
ミラ、アルヴィンと共に城から脱出する。







*ミラ
突然、ジュードの前に現れた女性。
自らを精霊の主――マクスウェルと名乗り、四大精霊を召喚することが出来る。
アルヴィンと共にジュードを城の外に連れ出す。







*アルヴィン
城に閉じ込められているジュードの世話役。
誰よりもジュードを気に掛けている。
ミラと共にジュードを城の外に連れ出す。






*エリーゼ
ジュードが出会った謎の少女で、彼と同じ“存在”らしい。
喋るぬいぐるみ、ティポといつも一緒に居る。
以前は何処かに閉じ込められていた。






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不安定な心






薄暗くて狭い部屋に閉じ込められていた。
華奢な腕で両膝を抱えて身を小さくする。
近付いてくる足音に恐怖し、小刻みに震えながら瞳を強く瞑る。
キィ、と音を立てて開かれる分厚い扉。


『……出ろ…』


髪を掴まれ、強引に立たされた少年は瞑っていた瞳を開けて、諦めたように目を伏せる。
両手には抵抗出来ないように手錠が付けられた。
男に促されるまま、少年は部屋を出て長い廊下を進む。



身体中が痛い。
殴られて、蹴られて、傷つけられて、腕や足には無数の痣や切り傷が刻まれていた。
身動き出来ない少年を見下ろして、汚い笑みを浮かべる男たち。


『もっと泣き喚けよ…』


男が手にした鋭利な凶器が少年の肩に食い込む。
余りの痛みに堪え切れず、悲鳴を上げる少年。

イヤダ。
イタイ、イタイヨ。
ダレカ、タスケテヨ。

紅く、染まっていく身体。一筋の涙が白い頬に滑り落ちる。






*   *   *






「……っ…!」

夢から目覚めて跳ね起きたジュードは荒い呼吸をしながら、ベッドから転がり落ちる。
ドクドクと異常な早さで鼓動を繰り返す心臓。額に滲み出る汗。
吐き気を堪えて机の引き出しから薬の袋を取り出す。


「…っは…はぁっ…!!」


息がままならない。
苦しくて、飲み込めずにいる涎が口の端から流れ落ちる。
複数の薬を手の平に乗せてそれを一気に仰ぐ。


「…っん…くっ…!!」


口に含んだ薬を必死に嚥下しようとするが、込み上がってくる吐き気に堪え切れず、唾液で半分溶けてしまっている薬を戻してしまった。
激しく咳き込みながら、ジュードは震えた手でもう一度薬を出そうとする。


早く、早く、しないと。


ガタガタと尋常ではない身体の震え。
脳裏に浮かぶ思い出したくない過去の残像。
幼い頃の自分が目の前に立って、不気味な笑いを浮かべている。


「……いやだっ…」


タスケテ


「…いやだ…いやだっ…」


イタイヨ、クルシイヨ


「…やだっ…思い出したくないっ!!」


ボクヲタスケテクレルヒトナンテ、ダレモイナイヨ


「…やだやだやだっ!!」


ボクハヒトリナンダヨ、ズット


「いやだぁっ!!消えてよぉっ!!」


手にしていた薬を幼い頃の自分に向かって投げ付ける。
しかし、幻であるそれにあたるはずもなく、音もなく近付いてきてジュードの腕を掴む。


ボクジシンヲ、ヒテイスルノ?…ヒドイネ。


「…っ…ちが…」


ジブンジシンノソンザイモヒテイスルンダネ?


「…違うっ…」


ウソツキ。ホントウハシニタイトオモッテルクセニ。


「……違うっ!もう、消えて!!消えてよっ!!」


腕を振りほどくと、幼い頃の自分が消え失せる。
変わりに思い切り肩を引かれた。


「おいっ!ジュード、大丈夫かっ!?」

「……っ…や…!!」


男の声。
肩をつかんでいる腕を拒絶すれば、茶色の瞳が見開かれる。



ソウヤッテ、タニンヲキョゼツスルカラ、イツマデモボクハ


“独り”なんだよ―――。






―不安定な心―






闇を司る者12






「……っ…!」


異様な気配を感じ取ったミラが弾かれたように顔を上げて周囲を見渡す。
野宿の準備をしていたアルヴィンが彼女の様子に気が付いて、不思議そうに瞬いた。


「…どうかしたのか?」

「僅かにだが、力を感じた」

「……力…?」


力とは一体、何なのか。
問う前に少し離れた場所から魔物達の咆哮が響き渡る。
ハッとして、其方の方に目を向ければ、休んでいるジュードの周りに魔物達が集まっていた。


「っ!ジュード…!!」

「……待てっ…!!」


魔物に囲まれているジュードを助けようと、アルヴィンが駆け出そうとするが、すかさずミラが腕をつかんで引き止める。
何故、引き止めるのか。
非難の眼差しをミラに向けると、彼女は険しい表情をして首を左右に振る。


「今のジュードに近づいてはいけない。…あれは、ジュードではない」

「…っ…どういうことだ…!?」


―――ギャァァァッ!!!!


ジュードに襲い掛かろうとした魔物達が悲鳴を上げる。
何事かと振り返れば、沢山居たはずの魔物達の姿が一瞬にして消えており、眠っていた筈のジュードが身体を起こしていた。


「…いったい……何が…」


唖然としているアルヴィンを余所に、ミラが前に出てジュードを睨み付ける。


「…貴様…何者だっ!?」


鞘から刄を抜いたミラが切っ先をジュードに向ける。
ゆっくりと顔を上げるジュードの瞳は虚ろで無表情。例えるならば、そう、人形のようだ。


「……我は…シャドウ…闇を司る者…」

「シャドウ?…貴様は精霊か?」

「否、我は“精霊だった”」


虚ろだった瞳に怒りの炎が宿る。
同時に彼の身体から闇の力が放たれる。


「…憎き人間の所為で我は死に、化石となってしまった!!」


そして、その人間の手により、我は深き眠りから目覚めた。
ぶわり、と闇を纏った風が吹き荒れる。
突風に呼吸が上手くできないアルヴィンは顔を顰めた。


「…それじゃあ…お前はジュードに埋め込まれている精霊の化石…」

「……ジュードを返してもらおうか…」


剣を構えたミラが今にもジュードに飛び掛かりそうで、アルヴィンは慌てて彼女を止めた。


「止めろっ!中身は違うが、身体はジュードだぞっ!?」

「………っく…!」


アルヴィンの制止により、渋々剣を鞘に収めたミラはジュードを見て小さく舌打ちをする。
攻撃の意志が無くなった彼女に対して、ジュードを支配しているシャドウがニヤリと笑った。


「…ほう…精霊の主であるマクスウェルが攻撃を止めるとはな…どうやら貴様にとって、この少年は特別らしいな……」


これはいい玩具を見つけた、と言わんばかりに笑うシャドウ。
思うように手が出せないミラとアルヴィンは自らの無力さに歯噛みした。


「未だ力は完全ではないが、本来の力を取り戻したとき、憎き人間達をこの手で滅ぼしてやろう」


そして、人間に味方するマクスウェル、貴様もな。
殺気の籠もった眼差しがミラに向けられる。
不意に崩れゆく華奢な身体。
先程までの異様な力は消え失せ、アルヴィンとミラは倒れたジュードの元へと歩み寄った。






―闇を司る者12―






鍵の継承者

※特殊設定



*ジュード
イル・ファンにある城、オルダ宮の奥に閉じ込められていた少年。
何故、城に閉じ込められているのかは不明。
ミラ、アルヴィンと共に城から脱出する。







*ミラ
突然、ジュードの前に現れた女性。
自らを精霊の主――マクスウェルと名乗り、四大精霊を召喚することが出来る。
アルヴィンと共にジュードを城の外に連れ出す。







*アルヴィン
城に閉じ込められているジュードの世話役。
誰よりもジュードを気に掛けている。
ミラと共にジュードを城の外に連れ出す。






*エリーゼ
ジュードが出会った謎の少女で、彼と同じ“存在”らしい。
喋るぬいぐるみ、ティポといつも一緒に居る。
以前は何処かに閉じ込められていた。





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見え始める心






ジュードを追って校舎の中を駆けるアルヴィン。
息を弾ませながら、周囲を見渡してジュードの姿を探す。
しかし、どんなに走っても廊下の角を曲がっても探し人の姿は見つからない。


「…ジュード!!何処だっ!!」


彼の者の名を叫んでも返事はない。
チッ、と小さく舌打ちをして立ち止まったアルヴィンは乱れた呼吸を落ち着かせようと深呼吸をする。


「…何をそんなに急いでいらっしゃるのですか?」

「……っ…!」


気配もなく背後からぽんっと肩を叩かれ、驚いたアルヴィンは勢い良く振り返った。
其処には用務員のような格好をしたこの学園の学園長――ローエンが立っていた。


「教師である貴方が廊下を走ってはいけませんよ」

「…あ…ああ…すまない…」


素直に謝罪を口にすれば、ローエンは満足そうに笑みを浮かべて頻りに頷く。
そして不意に何かを思い出したのか、アルヴィンの背後にある教室に指をさした。


「貴方が探しているジュードさんはあの教室に入っていきましたよ?」

「…っ…本当か…!?」


直ぐ様駆け出そうと身を翻したアルヴィンだが、進もうとした足を止めて肩越しにローエンを見る。


「何で、おたくがジュードのこと知ってるんだ?」

「…私がこの学園長であることをお忘れですか?生徒のことくらい知っていて当たり前ですよ」

「…………あっそう…」


何となく腑に落ちない答えだが、これ以上相手をしていたらジュードに逃げられてしまうかもしれない。
今度こそ歩みを進めて教室の扉に手を掛けた。
がらっ、と音を立てて開く扉。
教室のなかにはローエンの言う通り、ジュードともう一人、金髪の女性が立っていた。
扉の音でアルヴィンの存在に気が付いたのか、金髪の女性が顔を上げて此方を見る。


「……アルヴィンか…」

「…お前は……」


誰だ、と問う前に金髪の女性が歩み寄ってきてアルヴィンの顔を覗き込む。
まじまじと見つめられて流石のアルヴィンもたじろいだ。


「…な…何だよ…」

「……いや…何でもない気にするな」


アルヴィンから視線を外した金髪の女性が横を通り抜けて教室を出ていく。
取り残されたアルヴィンは去っていった女性を怪訝に思いながらも、教室の窓際に立っているジュードの元へと歩んだ。


「……ジュード…」


小さな肩に手を掛けようとしたその刹那、ジュードが振り返って困ったような笑みを浮かべる。


「ごめんね。いきなり逃げ出しちゃって」

「…あ…いや…」

「アルヴィンと僕が幼なじみだったこと覚えてなくて、ごめんね……アルヴィンのこと、傷つけてたよね…」


今にも泣きそうな顔をして、頭を抱えるジュード。
様子がおかしい彼に触れようとしたアルヴィンの手を擦り抜けるようにジュードの身体が崩れる。


「ジュードっ!!」


壁に寄り掛かってずるずると座り込んだジュードは自らの身体を抱いて震えている。
大きく見開かれた瞳は虚ろで、呼吸も荒い。


「…思い出したいのに…思い出したくない…やだ、やだ、やだっ…!!」

「おい、ジュード!しっかりしろっ!!」

「やだっ……恐い、恐いよ…助けてっ…!!」


光を宿していない瞳から落ちる大きな涙の雫。
正気に戻れ、とアルヴィンがジュードの身体を揺さ振るが彼は狂ったように首を左右に振る。


「やだやだやだ……!!」


半狂乱のジュードはアルヴィンを突き飛ばして駆け出していく。


「おい、待てっ…!!」


突き飛ばされた痛みを堪えながら立ち上がったアルヴィンは、教室を出ていったジュードの背を必死に追い掛ける。
ジュードに何が起きているのか全くもって分からないが、このままにはしておけない。
追い掛けて見つけた彼は一人の男に押さえ付けられていた。
男の紅い瞳がアルヴィンを睨み付ける。


「保護者なら、責任持って見張っておけ」

「…っ…ガイアス…」


ガイアスと呼ばれた男は溜息を吐いて、下で藻掻いているジュードの首元に手刀を入れる。
少しして動かなくなったジュードを解放し、ガイアスは何事も無かったかのように去っていった。






―見え始める心―






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