乱太郎の瞳にあったのは確かに涙であった、と冷静になったきり丸は頭を抱えた。
乱太郎を泣かせたのは自分であると分かっているからだ。
ただどうしても腹がたったんだよ。
きり丸はだれに言い訳するでもなく空をあおぐ。きっかけは些細なことだった。
きり丸の知らぬうちに乱太郎が伊作先輩と外出していて、それは仲がよさそうに笑いあっていたのだ。
伊作先輩のもとで笑う乱太郎はいつもより幾分か楽しそうに見えた。
それだけだ。それだけなのだが、どうしてもきり丸には許せないことだった。
せめて一言、言っておいてほしかった。
これがただの醜い嫉妬で、乱太郎に他意はなかったのだということを頭では理解している。それでも許せないと思うのはきり丸の中にある愛のせいであった。
日が暮れて、夕刻になった頃、ようやく乱太郎ときり丸は顔をあわせた。
そして、開口一番乱太郎が口にしたのはきり丸が言わねばならないはずの謝罪の言葉
きり丸はその言葉に焦った。
悪いのは自分であるというのに、乱太郎に謝らせてしまった自分が恥ずかしい。
顔を見られないようにきつく乱太郎を抱きしめたきり丸は今度こそ心からの謝罪を口にする。