よく、義理の妹ができたっていう小説を見かけたことがあると思う。そして、その義理の妹といい関係になって禁断の恋愛みたいな展開を迎える。そんな物語だ。

「そんなの、フィクションだよ。」

僕はずっとそう思って17年間生きてきた。

しかし。そのフィクションは突然やってきた。


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それは春のことだった。出会いと別れの季節と言われ、それらが少し落ち着きを見せる4月下旬ごろ。自宅で事件は起きた。

「想(そう)、お前に話がある。」

珍しく父親が僕の名前を口にする。いつもなら「おい」で大体終わる。お袋は僕が小学生の頃に亡くなった。

「なんだよ?」

「実は父さんな、再婚することになった。」

「は?」

唐突に告げられた衝撃的な事実。いつの間にいい人なんてできたんだ?

「それでな、お前の意見を聞きたい。」

「意見って言われても・・・。」

「母さんのことは忘れたわけじゃない。それだけは信じてくれ。」

「あ、ああ。」

適当に返事を返す。

「親父のやりたいようにすればいいよ。僕は別に反対はしない。」

「そ、そうか。すまんな。」

そして、その後大まかに話を聞き、週末に一度挨拶に来るという。ちなみに、相手の人には連れ子がいるらしい。

義理の妹ができる。そう告げられてから、僕は自室に戻ってからずっとそのことばかり考えていた。

「妹か。」

物語の世界では、義理の妹と仲良くなって「お兄ちゃんラブ」みたいな展開になるのはもはやお約束のパターンだ。

もしかしたら、僕の義妹もそうなるのかもしれない。

今まで彼女ができたことがない僕にとって、義妹が初の彼女になるかもしれない。胸が躍る。

「お兄ちゃんラブ。」

『何が?』

突然思考を停止させる聞きなれた声が背後からかけられる。

「うおおっ!!?」

椅子から転げ落ちる。

「何やってんのよ、もう。」

「鏡(きょう)こそ何勝手に僕の部屋に入ってんだよ!つーかノックしろよ!」

不意に現れた女の子の正体。それは、坂上鏡(さかがみ きょう)。幼馴染みだ。ちなみに、幼馴染みと恋人になるか
もしれない

可能性はすでに否定されている。こいつと恋仲は絶対にないだろう。

「なーにがお兄ちゃんラブなの?お兄ちゃんでもできるの?」

「ああ。」

ここは適当にごまかしておく。こいつに話すと面倒くさそうだからな。

「へぇ。あんた彼女ができない理由ってそういうことなんだ?」

「なんだよ?」

「男の子ラブなんだ?」

「それはひっそりと否定させていただく。」

「お兄ちゃんラブなんでしょ?」

「うるせーな!今日は何の用事できたんだよ?」

「はいこれ。」

あっさりと何かを差し出す鏡。

「あ?」

手のひらに乗っているのは100円玉だ。

「この前借りたやつ。」

「え?それだけの為にきたの?」

「そうよ?借りたものはちゃんと返すのが私の主義なのよ。」

それはごもっともだが、わざわざ人の部屋に勝手に入ってまでするか?

「ま、いいや、わざわざサンキュー。」

100円を受け取る。

「じゃ、用事は済んだろ?帰れよ。」

「あら?ひどい言い方ね。まるで邪魔みたいじゃない?」

「邪魔なんだよ、さっさと帰れ、シッシッ。」

手で払う。

「あっ。」

思わず100円玉を落としてしまう。

「もう!なにやってんのよ。」

制服姿の鏡がそのまま上半身を倒し100円玉を拾う。

「!!」

制服の間から不意に覗く谷間。こいつ、いつの間にか体は年相応の女になりやがって。

「はい。」

「お、おう、サンキュ。」

「?」

不思議そうに顔を覗く鏡。

「顔、赤いわよ?」

「べ、別に!とにかく今日は帰れよ!」

「もう、そんなに邪魔にしなくていいのに。それじゃ、また明日ね!」

「おう。」

慣れた感じで部屋を出て行く鏡。

静かになる自室。

「うーん、結構衝撃的だったな。」

女の子の胸って、谷間だけでも十分な破壊力があるな。

義妹。

その思考が再び僕の頭を支配し始める。

「胸は大きいといいな。」

『誰の?』

「そうりゃ義妹に決まってんだろ。」

『へぇ。希望バストは?』

「Cは欲しいな。欲を言えばDか。」

『へぇ。』

ん?

「おい!!!」

後ろに再び鏡が居た。

「やっぱり隠し事してた。」

「帰ったんじゃねぇのかよ!」

「様子がおかしかったから戻って来たのよ。」

「お前ってやつは・・・。」

「さっき、私の胸見たんだ?」

「え?」

「衝撃的だって言ってたじゃん。鏡の胸って結構大きいなって。」

「人の思考を捏造するな。そこまでは言ってない。驚いたのは事実だが。」

「早く彼女作りなさいよね。」

「うるせぇよ。お前だって彼氏いねーじゃねぇか!」

「それもそうね。」

お互い笑い、和やかな空気に変わる。

「あんたも男の子になったのね。女の子の体を意識するなんて。」

「もう17歳だぞ。」

「そうね。」

「で、もういいだろ?帰れよ。」

「詳しく教えてよ。」

「明日、昼休みに学校でな。屋上で昼飯食うだろ?」

「分かったわ。明日昼にね。」

「ああ。」

「今度こそ、また明日ね。」

「ああ。また明日。」

再び鏡が部屋を後にする。

もう戻ってくるなよ。