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真ん中バースデー(島迅)



ピーマン、とうもろこし、ぶどう。
緊張してファミリーレストランの装飾を繰り返し順々に見てしまう。誕生日が近いと知った先輩と、何故か二人きりで来てしまったのだ。

「デザート何食うか決まった?俺やっぱティラミスにしようかな」

ドリンクバーから先輩が帰ってきた。手にはブラックのホットコーヒー。大人だぁ…。



夏が終わって引退したはずの慎吾さんが一人で部室にやってきたのが、練習が終わった数時間前。曰く

「俺明日誕生日!土曜日だから一日早いけどプレゼントもらいに来てやったぞ〜」

と。
気安くて後輩からも好かれていた先輩だけに、突然現れてその発言だったもんだから「慎吾さんの誕生日なんて知らねーよ」「何も用意してないですよ」「逆に差し入れくださいよ〜」と口々に文句を言われながら取り囲まれていた。
偉大な先輩に何も無いとは!と怒ったふりをしながらも嬉しそうな慎吾さんの顔を見ていたら、我が部のエースが俺の背後でぽそりと呟いた。

「別になんも用がなくたっていつでも来ればいいのにな。引退したって野球部なんだし」

そっか、遠慮してたのかな。引退したから来づらかったのかな。プレゼントをねだるっていう建前で後輩の様子を見に来てくれたのか。
実のところ部活のこと以外あまり話さなかったから、慎吾さんのことをあまり知らない。一緒に過ごせた夏も、短かったし…。
感傷に浸りかけて、ダメだ、俺もおめでとうだけでも言いに行こう…としたら、エースの隣のふわふわ頭が要らぬことを言ってしまった。

「慎吾さん明日誕生日なんだ!迅は昨日だったよねぇ。一緒にご飯食べに行ったんだよ」
「マジで?迅誕生日近いんだ〜ってか!俺には何も無いのに迅のときはみんなで飯食いに行ったのかよ」
「え〜だって迅は友達だし?慎吾さんは…慎吾さんだし」
「扱いの違いに泣けてくるわ…」

慎吾さんと利央が漫才のようなやり取りをみんなが笑いながら見ているなかで、何だかちょっといたたまれない。利央のばか、そんなこと言ったら何も用意してないの申し訳なくなるだろ。お祝いだけでも言おうとしてたのに…。
一歩踏み出ていた足を戻して帰り準備しよう…としていたら、慎吾さんが俺の腕を掴んできた。

「じゃーお前ら可愛くない後輩はもういいよ!迅、今日は俺と飯食いに行こうぜ!」
「え!?」

断ることもできず、急いで帰り準備をさせられて腕を引っ張られて部室を後にした。帰り際、慎吾さんはみんなに月曜にはプレゼント用意しとけよーと言っていた。
慎吾さん、来週月曜日は祝日です…じゃなくて、プレゼントは建前でみんなの顔見に来たんじゃないの?本当にお祝いねだりに来てたの?この先輩分からない…と思いながら、二人でファミレスに来たのだった…。

っていうかだから慎吾さんとは部活以外であんまり話したことないから、気まずいんだってば…と、ご飯の話題を出した利央を恨めしく思った。
でも、慎吾さんは優しくて、昨日は何食べたんだ?じゃあ今日は違うの食べるか、って押し付けがましくなくスマートに行き先を決めてくれて、美味しいパスタを食べることができた。この人モテるんだろうな。

ご飯を食べ終えて目の前には美味しそうなケーキ。ご飯の間も今も、慎吾さんは部活はどうだとかこっちは勉強ばっかでつまらないとか色々な話をしてくれたし、聞いてくれた。
慎吾さんってこんなに話しやすい先輩だったんだ、全然知らなかった。でもだから後輩から慕われてるんだよな。

「慎吾さんとこんなに誕生日が近いなんて知りませんでした」
「二日違いだもんな。乙女座同士だな」
「ですね。でも乙女座って嬉しくないですよね、男からしたら。獅子座とかならかっこいいのに…」
「ははっ、確かにな。射手座とかな」
「射手座もいいっすね、何かかっこいい!」

他愛のない話も笑って付き合ってくれる。優しい…。あんまり話したことないからって緊張してたの申し訳なかったな。
あっという間にケーキもなくなって、そろそろ帰ろうかという時、慎吾さんがおもむろにきれいな包みを取り出した。

「実は俺、迅が昨日誕生日って知ってたんだよな」
「え?」
「これ、プレゼントっつーかなんつーか。良かったら受け取ってくれる?誕生日おめでと」
「え、何で…」
「昨日誕生日で飯行ったって、準太から和己経由で聞いたから。大したもんじゃないから、タオルだから。部活の時にでも使って」

遠慮しても、慎吾さんはプレゼントをぐいぐいと押し付けてくる。どうしよう、俺…。

「俺、何も用意してないです…」
「あーいいから!別にお返しが欲しいとかじゃないし」
「来週!来週準備してきます!」
「いい、いい!ごめん気ぃ使わせたな、今日飯一緒に来てくれただけで十分だから」

まさか慎吾さんが俺の誕生日知っていたなんて。プレゼントまで用意してくれてたなんて。慎吾さんはご飯を一緒に食べられただけで十分と言うが、俺は最初めちゃくちゃ緊張していたし、面白い話もできなかったのに…申し訳ない。
あまりにも俺が落ち込んでいたからだろう。慎吾さんは微笑みながら俺のおでこに優しくデコピンした。

「そのタオル使って、部活頑張ってくれたらそれでいいから。もーこの話おしまい!」

全然痛くないデコピン。気を使わせてしまった…。
どうして慎吾さんは俺にプレゼントをくれたのだろう。一緒にご飯を食べにきてくれたのだろう。
理由は分からないけど、触れられたおでこをさすっていた手をおろして、握りしめた。

「慎吾さん、プレゼントありがとうございます。俺、このタオル使って練習頑張ります。…っ頑張って、来年慎吾さんを甲子園に連れていきます!」

ぽかんとした後、クックと笑う慎吾さんの顔を見て、何か変なことというか大それたことを言ってしまったのではないかとようやく気がついた。

「あれ、俺なんか変なこと言いましたよね。あれ、ちが、あの…」

顔が熱くなる。手をバタバタと振って否定する。やり直したい…!
でも慌てる俺なんて気にもとめない慎吾さんは思いの外嬉しそうな顔をしていて。

「うん、頑張れ。期待してるから」

俺の頭をぽんぽんと撫でてくれた。笑うと、目尻に小さくしわができるんだ。手、大きいな。ーーー嬉しい、な。
ぼーっとしていたら、慎吾さんがご飯を奢ろうとして伝票を持って席を立ったので慌てて後を追いかけた。

ピーマン、とうもろこし、ぶどう。
お店に入ってきたときより色が鮮やかに見えたのは気のせいなのかな。


END

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