槇原敬之の再犯。
少なからず、鐘子はショックを受けていた。もう30歳も目前に迫る鐘子、槇原敬之が世代というには少し若いが、それでも親の影響もあって小さい頃から聴き続けていた歌たちだ。

。槇原敬之の逮捕以来、どうにも体調が優れない。
電車の窓。ぼうっと窓の外を眺める。

と。

電光看板に松嶋菜々子。いやに若い。
それはそうだ。
『君の名前を呼んだあとに』のPVだ。槇原敬之の名曲。

そんなはずはない。いま彼の歌を流すはずがない。
困惑しながら電車を降りる。

発車メロディが『もう恋なんてしない』
駅構内では『LUNCH TIME WARS』
すれ違った人のiPodから『どんなときも。』

駅を出て目にしたのは、たくさんの花がビル街に広がる、それはまるで『世界に一つだけの花』のジャケット写真。
一瞬で消える。

白昼夢。だったのか。

ただ、槇原敬之は既に死んだようなもの。
これは幽霊だ。
鐘子の気持ちは理不尽に思い込んで、いっそうざわついた。