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真冬の恋7題 7:きみの温かさを知る(Kanon/真琴・祐一)


寒さしか、知らなかった。
寂しいと寒いはすごく似ていて、だからあたしはずっと寒さの中にいた。
あのひとが、あたしを捨てたと思ったから。
もうあたしはいらないんだって思ったから。
諦めてしまえたら、もっと楽だったかもしれない。
だけど、いつかは迎えに来てくれるって。
待って待って、いつの間にか寂しさは憎しみに変わっていた。
憎い。憎い。
(ねえ、寂しいよ。)
あたしを捨てたあいつが憎い。
(迎えに来て。お願いだから。)
ひとの形をしていなかったあたしは、ひとの姿を持って。
他のものをぜんぶ忘れて憎しみだけを持って、あいつを探した。
だけど、心の端っこが痛いの。
寂しいって、泣いてるの。早く会いたいよって。
だからほんとうに会えたとき、憎いような泣きたいような、そんな気持ちだった。
すごくお腹が減ってて、なんだかぐらぐらして、起きたら誰もいなくて。
やっぱりひとりぼっちなのかなって思ったけど、あいつが…祐一がいた。
おかあさんがいた。
名雪がいた。
懐かしくてあったかくて、ずっと一人で同じくらいの女の子が楽しそうに写真を撮ってるのを羨ましいなって見てたのを忘れちゃうくらい、嬉しかったの。
だけどどこかで憎しみが消えなくて、祐一にはいっぱい迷惑かけちゃったよね。
謝りたいけど、もううまく言葉が出ないや。
もっと早く、ごめんなさいって言っておけばよかったな。
祐一が買ってくれた鈴、おかあさんの鈴にすごく似てた。
あったかかった、大好きな時間。思い出したの。
あたしが何者で、これからどうなるか。
ねえ、祐一。
帰ろうって言ってくれてありがとう。
あたしに帰る場所をくれてありがとう。
みんなで遊んだの、楽しかった。
写真、あたしも家族だって書いてくれて、嬉しかった。
名雪が初めてあたしの名前、呼んでくれた。
花火、すぐ消えちゃったけど。きれいだった。
家を出るとき、おかあさんも名雪も、泣いてくれたよね。
あたしがいなくなるのは嫌って、みんないろいろしてくれたよね。
あたしも、水瀬家の家族、だよね?
あとね、みしおさん。あたしの名前、ちゃんと言わせてくれた。ちゃんと喋れた。
祐一に聞いてもらえて、嬉しかったんだよ。
ありがとうって、言ってくれたら嬉しいな。
倒れちゃった時も、寝ちゃった時も、あんまり祐一の体温はわからなかったけど。
結婚式をしようって、あの丘まで背負ってくれた祐一の背中、あったかかった。
すごくすごく、あったかかった。
いつのまにかあたしの憎しみはどこかに行っちゃった。
きっと、祐一と、家族のみんなのおかげ。
こんなに幸せなんだもん。
もう『憎い』も『寂しい』も、『寒い』も、いらないの。
祐一。
あたし、あとすこしでいなくなっちゃうけど。
覚えててくれたら、いいな。
前みたいに忘れちゃったら、今度こそゆるさないからね。
……ああ、だけど。
あたしを覚えてて祐一が悲しいなら、忘れちゃってもいいや。

「真琴…?」

そんな悲しそうな顔、祐一には似合わないよ。
もっと、いっつもみたいに笑ってて。

「寝るな、真琴!」

ごめんね。
一緒に春は迎えられないけど、あたしは祐一のそばにいるよ。

すずのおと。ゆういちのこえ。
あったかい、ゆういちがだっこしてくれるから。
あったかいの、いっぱいくれてありがとう。
ありがとう、

だいすき、ゆういち。


(おねがい、きせきがもういちどおきるなら、ゆういちとみんなをしあわせにしてあげてね。)


==========

お題の最後は真琴モノローグ(多少祐一乱入)に締めてもらいました。
もし真琴ルートでものみの丘に着くまで、それからラストを迎えるまで、真琴がこんな事を考えてたら涙腺崩壊度MAXだよねという。
お題を見た時、真琴視点しか思い付かなかった私って……。
ゲームと東映Kanonの設定が混ざってるのは見逃して下さい。
お題7つKanon祭り、これにて完了です。
(好きなものだと短時間で7題書けちゃうのね、私…。)


Thanks!お題提供元
確かに恋だった

真冬の恋7題 6:寒いのは冬のせい(Kanon/祐一・名雪)


秋子さんに頼まれて、名雪と夕飯の材料の買い出しに出かけた。
名雪にそういう(つまりは恋愛感情のようなもの、)気持ちを持ってから、どうも二人きりというのがいたたまれない。
だから今までは意図的に避けてきたが、二人でお願いしますね、と言われてしまった以上仕方がない。
名雪には別段変わりはなく、楽しげに買い物をしている。
初恋は実らない、ってやつか。
気恥ずかしい話だが、俺は今までまともな恋愛感情というものを持った事がない。
仲良くなりかけては転校する日々。そんな中で好きな女の子なんてできるはずもなかった。
この街に来てまだ日は浅いが、名雪との生活は初めのうちは悪くなかった。
名雪が広めてしまったせいでクラスメイト皆俺と名雪が一緒に住んでいる事を知っていてからかってくるのも、怪我の功名とでも言おうかクラスに素早く溶け込む原因になった。
変わってしまったのは、俺。
従姉妹である名雪を、一人の女性として意識してしまった俺。
名雪本人はあんな性格だから、多分いや絶対に気付いていない。断言できる。
気付いていたら名雪の事だ、必ず何らかの反応を示してくるだろう。
俺と名雪の間の僅かな距離が寒い。
もっと近付けたら、もっと名雪に触れられたら。
そんな感情だけが、最近は頭の中をぐるぐる回る。
自分が臆病なだけなのは、認めたくないほど認識している。
いっそ告げてしまえばいいのだ、この気持ちを。
けれどそれで今の関係が崩れるのが怖い。
だから、言わずにいる。
例えばこの関係が崩れたとして、俺は平静を保っていられるだろうか。
正直、そんな自信はない。
大体、精一杯なのだ。
鼻歌でも歌いだしそうな様子でのほほんと鍋の材料をカゴに放り込んでいくこのマイペースな従姉妹をいっそ抱きしめてしまいたい欲求を抑えるのが。
名雪と俺の距離が、感情の違いがどことなく寒い。
温度差とでも言うのだろうか。
ねー祐一、と振り返って笑う姿に心臓が跳ねる。
やめてくれ名雪、俺の寿命が縮む。
無邪気だからこそ、できない。
いっそ計算高いか悪気の塊であってくれれば楽なのに。
次々と湧き出てくる感情を抑えて、俺は『従兄弟』を演じる。
この演技が限界に到達する前に、名雪が少しでも俺の気持ちに気付いてくれるのを願いながら。


(そうだ、寒いのは冬のせいにしておけばいい)


Thanks!
確かに恋だった

真冬の恋7題 5:冷たい手でもいいよ(Kanon/祐一・舞)


歩き慣れた道。最近は別段寒いとも思わなくなってきた。
慣れってのは恐ろしいもんだ、と思う。
毎晩通うせいで顔を覚えられてしまったコンビニで、牛丼をふたつ買う。
最近になって解った。
舞の嫌いじゃない、はつまり好きだって事だ。
佐祐理さんの弁当で舞はいつも『嫌いじゃない』ものに箸をのばす。
最初に牛丼を持って行った時なんかは、魔物そっちのけで俺に牛丼の死守を任せたくらいだ。
(結局その牛丼は守りきれず舞に視線で訴えかけられたわけだが。)
だから今日も牛丼だ。
きっと舞は、今日も夜の校舎で魔物と戦っているだろう。
確信めいたものがあるからこそ、俺は夜の校舎に足を向ける。
正直言って、魔物相手に俺は無力だ。
武器もない丸腰状態。どうやって戦っていいのかすら解らない。
そんな俺が舞にしてやれる事といえば、晩飯を差し入れする事ぐらいだ。
腹が減っては何とやら。表情にこそ出さないものの、あれだけ動けば舞も腹ぐらい減らすだろう。
それで怪我でもされたらやりきれない。
警備員がいない事を確認して、門を乗り越える。
後は舞を探すだけだ。警備員に見つからないように、そして牛丼が冷めないうちに。
コンビニ袋入りの二つの牛丼を抱えて走るというかなり情けない格好で、舞を探し回る。
二階の隅に、制服姿の舞を見つけた。
いつもの凛とした姿じゃない。うずくまって固まっている。
怪我でもしたのかと駆け寄ってみれば、別段そういう様子はなかった。
どうした、と声をかければ、舞はちらりと俺を見て、また足元の剣に視線を戻した。
腹でも減ったかっ問いかけても、無言。
反応ひとつ示さない。
よく見れば、舞は小さく震えていた。
しっかり見ないと解らないほど、小さく。
屈んで、舞と視線を合わせる。
暫く互いの無言が続いた。

「………い」

舞の口から小さく零れた言葉。
拾い逃して聞き返す。
今度は俺の目を見て、揺らぐ瞳で舞は言う。

「怖い」

まさか、舞の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。
今まで押し隠してきたものか、今日何かがあったのかは解らない。
多分聞いても答えてはくれないだろう。

「舞、」
「いつまで続くの?いつまで戦えばいいの?佐祐理や、……祐一を、もし傷つけたら」

そこで、言葉が途切れる。
やっと理解した。舞は恐れていると。
佐祐理さんや俺を巻き込む事を。そして、この戦いに終わりがないのではないかという疑問を。
普段の舞からは想像もつかない。
けれど、(憶測でしかないが)これが、魔物を討つ者の本心なのだ。
袋を片手に持ち替えて、舞に手を伸ばす。

「俺は、終わりまで一緒に戦うよ」

暗に、離れたりしないという意味を込めて。
舞には伝わっただろうか。
言葉足らずな自分が少し嫌になる。
舞は少し躊躇った後、無言で俺の手を取った。
それは、初めて受け取った舞からの信号。
助けて、なのかありがとう、なのか、今の俺には解らない。
だけど確かに受け取った。
これを無駄にしないように、俺はこれからを動いていく。

「……暖かい」
「牛丼、持ってたからな」

少しだけ普段の調子を取り戻した、冷え切った舞の手をもう一度強く握ってから、俺達はいつもの教室へ、夜食をとりに歩いていった。


(冷たい手だって構わない。暖かさなら、少しくらい俺が持ってるから)


Thanks!確かに恋だった

真冬の恋7題 4:きらめきに誘われて(Kanon/祐一・栞)


普通の女の子として接して下さい、というありそうでなかなか無い頼み事をされてから、3日。
登下校や学校の中でも、俺は名雪や香織に接するように栞に接してきた。
一緒に学食に行き、席争奪戦に加えたりしながら。
栞の体を気遣わない事はなかったし、大丈夫だろうかと心配もしたが、これが栞の望んだ『普通の女の子』なら、俺は少しだけでも彼女の力になれているような気がする。
とりあえず今のところ栞は体調を崩す様子もなく、楽しげに制服を着てはしゃぎ回っている。
これなら大丈夫かと、俺はこの日一大決心をした。
栞をデートに誘う。
デートと言っても、特に何をするわけでもない。
一緒に商店街や駅前を歩いて、休憩に喫茶店に立ち寄ったりして。
何の事はない、普通の高校生の遊び。
けれどそれは、栞にとって新鮮なものだろう。
やっぱり体調がどうこうを考えないでもなかったが、栞に『普通の高校生の放課後』を体験させてやりたかった。
渋られるかと思った返答は存外あっさりと肯定されて、放課後に俺は栞と遊びに行く事になった。
楽しみと不安がないまぜになった気分。どう表せばいいのか、自分でもよく解らない。
とにかく門限までの間に、体に負担をかけない程度に色んな事をしよう。
放課後のプランを考えていたら目をつけられていた教師に何度も当てられたが、名雪がさりげなくフォローをしてくれた。
帰りにケーキでも買って帰ろう。当然、秋子さんと真琴の分も。

放課後。
人混みの中を、なるべくさりげない動作で栞を庇いながら歩く。
名雪が太鼓判を押した店のパフェは、栞にも大好評だった。
UFOキャッチャーすら初めてという栞にはできるだけ可愛らしいぬいぐるみを取ってやるつもりだったが、間違えてなんだか奇妙なカバのぬいぐるみを取ってしまった。
それにすら喜ぶ栞が妙に可笑しくて俺は笑う。
つられて栞も笑い。
傍目には、俺達はどう写るんだろう。
そんな事を考えながら、ぶらぶらと駅前を歩く。
立ち並ぶきらびやかな店のひとつ、その前で栞が立ち止まった。
視線を追えば、ショーケースの中の指輪。
細いシルバーに栞の瞳と同じ色の石が控えめに飾られた、シンプルなものだ。
俺の視線に気づいたのか、にこりと笑いながら行きましょう、と栞は言う。
けれど、栞があんなふうに立ち止まったのは初めてだ。
財布の中身を頭の中で思い出して、改めて値段を見る。
ペアになっているらしいそれは、シンプルなせいかどうにか俺の所持金でも買える額だった。
(しばらく昼飯抜きになりそうだなという憂慮はこの際引っ込めておく。)
くるっと背を向けて歩き出そうとした栞の手を掴んで、店の中に入る。
栞は驚いた様子で目をぱちぱちさせた後、ありがとうございます、だけど大丈夫です、と遠慮がちに呟いた。
それを無視して、近くにいた店員に窓際に飾ってある指輪を、と声をかける。
栞の方はサイズが会わなかったから、一番小さいサイズを出してきてもらった。
驚いたままの栞を引っ張って店を出る。
駅前の明かりが妙に眩しくて、俺は少し目を細めた。
同じケースに入れてもらったふたつの指輪から、栞の分を取り出す。
恭しく(したつもりだったが些か強引だったかもしれない、)栞の左手を取って、その細い薬指に指輪を嵌める。
光を反射して、栞の瞳と同じ色がきら、と煌めいた。
次は俺の分。
ケースごと渡して、栞に促す。
照れ臭いんだろう、顔を赤らめながら、栞は俺の薬指に指輪を嵌めた。

「……どうして、」

その問いに、俺は答えない。
照れ臭くて言えたものじゃない。
光に左手を翳してみる。
栞の瞳と同じ色が、薬指できらりと煌めいた。


(指輪じゃなくて栞の瞳の煌めきに誘われたからだ、なんて死んでも言えない。)


Thanks!
確かに恋だった

真冬の恋7題 3:この熱は消えぬまま(Kanon/祐一・真琴)


背負って山道を歩いたときの、真琴の体温をまだ覚えている。
俺に覚えのない恨みを持って無謀な挑戦を吹っかけて倒れた時、ものみの丘で見つけた真琴を抱き抱えて帰った時。
真琴の体温を、まだ覚えている。

なあ真琴、お前は今どこかで生まれ変わって、幸せに暮らしているのか?

答えなど返ってくる筈のない問いを、空に投げた。
表情のひとつひとつ、何度も襲撃された夜の悪戯。
忘れない。忘れる筈がない。
姿形がなくなった今でも、真琴は俺の中にいる。
真琴が望んでいた、暖かい家族。
名雪と秋子さんに感謝しながら、俺は財布から一枚のプリントシールを取り出す。
『水瀬家一同』
そう書かれたシールの中心で、真琴は戸惑ったような、照れ臭いような顔で笑っている。

「いい、写真ですね」

後ろから突然かかった声に軽く肩が跳ねた。
振り向けば、天野美汐。
俺よりも先に、永遠の惜別を経験した少女。
覗き込むようにシールを見ている天野の表情は、穏やかな笑顔だった。

「あの子に、私はこんな事をしてあげられませんでしたから」

笑顔の中に、苦悩と後悔が見えた。
天野は惜別を恐れて、周りに心を閉ざした。
それでも、まともに言葉も話せなくなった真琴に、自分の名前を思い出させてくれたのは天野だった。
だから。

「天野はその時にできる最良の事をしたんだろ?……だったら、天野の所に奇跡で現れたそいつは、充分幸せだったと俺は思う」

ふ、と天野の笑顔が消えた。
代わりに見せたのは、涙。
きっと、今になってやっと。
時間を経て、同じ経験をした人間に会って。
天野とは違う道を選んだ人間の言葉で、やっと泣けたんだろう。
今まで閉ざしてきた心も。
凍り付いて流せなかった涙も。
今ここで、晒してしまえばいい。

なあ、真琴。
俺は俺にできる最良を真琴にしたつもりだったけど、真琴は幸せだったか?

また、問いかけてみる。
真琴が残していった熱は消えない。きっと、これから先もずっと。
それを、真琴と過ごした時間を悲しい思い出にしない為に、俺は前を向いて生きていく。
きっと、天野に残された熱も消えない。
だからどうか、いつかでいい。
天野が心から笑える日が来るように、俺は願う。


(忘れないまま、だけど俺は前に進む。それでいいんだよな?真琴。)


Thanks!
確かに恋だった
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