A migratory bird…6





イルカとツバメじゃ関係ないじゃないか……そう思われただろう。

以前の記事で、この棟でツバメが巣をかけるのは僕の家の玄関だけだと書いた。

その本当の理由を話そう。




春先になると、彼らは数十羽の群れでこの団地に飛来してくる。

十数棟居並ぶコンクリート建造物は、彼らにとって絶好の巣作りポイントになるらしい。

どのカップルも、土と枯れ草をせっせと運び、思い思いの壁面に巣を作り始める。

ところが、大半の巣は途中で壊されてしまう。

長い棒を持った住人に、壁から掻き落とされてしまうのだ。

鳥脅しを掛けてる家もあるが、人間に慣れきったツバメにはまるで効果がない。

作りかけてた巣を壊すしか、ツバメを撃退する方法がない。




実は、僕の家のツバメも最初はもっと階段寄りの位置、隣近所と共有する通路に巣をかけていた。

それが壊され……壊され……壊され……しているうちに、とうとう僕の家の玄関に到達してしまったのだ。



「ツバメが泥を運んでたわよ、今のうちに壊しておかないと…」



近所の主婦にそう言われた。

僕らは肩身の狭い思いをしながら、なんとかツバメの巣を壊されまいと、こまめに掃除したりというアピール活動も行った。




遠い海を渡ってきたツバメに意地悪いことをするなんて、なんて了見の狭い住人たちだと、そう思われるだろうか?

これも前の記事で、奇形のムクドリの悲惨な死、ツバメの巣周辺の非常に不衛生な状態、そして僕の鈍麻した様子を、かなり細かいことまで書いた。


シラミを潰しながら食事するなんて……気持ち悪い。


そう嫌悪されるだろうな……そう思いながらも、敢えて書いた。

いや、そう感じるのが普通です。

話したように、僕が鳥の雛を拾ったのはこれで7度目だ。

僕は鳥に馴れてしまったし、それなりの知識も得ている。

シラミは温度変化に非常に敏感な虫で、ホスト、つまりここではツバメの雛が弱り、体温が下がり始めるとホストを見捨て一斉に逃亡を企てる。

体からシラミが這い出してる鳥は、既に自力での体温調節機能を失い、真っ直ぐ死に向かっているということだ。

とりあえず急場は手のひらで温めるが、鳥の体温は人間よりも高い。

3年前に拾った雛(ツバキチ)のときは、電気毛布も使った。

ちなみにシラミだが、そうは見えないけどとてもデリケートな虫で、温度に過敏なだけでなく棲み分けもキッチリしてる。

鳥には鳥、人には人、豚には豚のシラミがいて、自分のホスト以外に寄生することはない。

つまり、鳥のシラミが人間を咬むことはないのだ。





それでも気色悪い。

いやいやいや、僕だって平気なわけじゃない。

通常よりかなり鈍いものの、ちゃんと不快感は備えてる。

ただ、慣れって怖いものだ。

シラミや鳥の糞は不快だが、それが僕にとっては食事を中断して騒ぐほどのことじゃなくなってしまったのだ。





僕は野鳥の保護活動に取り組んでるわけじゃない。

僕ら家族は揃って動物好きで、ペットの飼育が禁じられてるこの団地に、毎年来てくれるツバメを楽しみにしている。

ツバメが可愛くて、ツバメが大好きなだけだ。




ただし、自分のこの感覚や価値観を皆が持ってると勘違いしてはいない。

鳥が何より嫌いって人はいる。

野鳥は不衛生なだけじゃなく、数年前に騒がれた鳥インフルエンザのように、人にとって害を持つ存在にもなり得るのだ。


近所の人たちは、僕らの思いを理解してくれた……というか、まあ…あんなに可愛がってるんだから仕方ないと大目に見てくれてるようだ。


イルカの問題とはスケールが違うけど、誰かの理解を得たいなら、まずは相手を理解しないことには何も始まらないと、僕は思う。