自分の部屋に帰ると
グリエフが小首をかしげ、おしとやかな格好で机に座っている


「おかえり」

顔に似合わない可愛らしい声で喋る

「ただいま…今日はつかれたよ」

「お疲れ様」

正装を脱ぎ捨てると、椅子に座ってグリエフと向き合う

「ずっと家にいればいいじゃない、なぜ外に出るの?」

「そうはいかないよ…人間にとって、外は不可欠なんだ」
そう言いながら、ブラシを手にとりグリエフの髪の毛を優しくとかす

「現社会を生き抜くには、社会性が必要だし、それに太陽の陽を浴びなきゃ身体が滅ぶよ…食を得るにも外に出ないと何も買えない。食を買うにはお金が必要だ、もちろん外で稼がなきゃね…内職とか携帯で貯めるのなんて簡単にいかないから」

「私には分からないわ」

「そうだろうね、だってにん…」
途中で何かに気付くように、言葉を止める

「そうね…私は人形だもの、外の世界なんて分からない。それに、行く必要もない。人間の側にずっといるのよ…好きな時にいじられて、飽きたら棄てられる……それが私の運命なの」
「……」

重い沈黙が漂う

「貴方は私をフリーマーケットで飼ってくれた。私は貴方に感謝しているわ、何時も」

「…でもあたしも人間だよ。それに、自分の趣味に合わせて……グリエフを改造した…」
グリエフの髪の毛を優しくブラッシングしている手が止まる

「ごめんね…」

「いいえ…私はね、人形なの。私を愛でる人がいないと、私は人形じゃなくなる…貴方は私を愛でてくれているから、人形でいられるの、貴方が謝る必要はないわ」

「…ありがとう」

「私は幸せよ。人形でいられることが…貴方に愛でられる事が」





人形は愛情を与えなければ
ただの塵
 
愛でられる事で
 
初めて人形になれる