杭を打たれて下手したら首も切られたのだろうか。そしてあのトラックに無造作に積まれて神社の境内に物みたいに放り投げ出されて。それとも山入の火事の最中に火の中に置き去りにされた?
そんな最期なの?徹ちゃんの人生はそんなに簡単におしまいにしてしまっていいものだったの?
どうしたらあの時徹ちゃんを助けられるか考える。どうしたら徹ちゃんを幸せにしてあげられるか考える。
原作では夏野は起き上がらなかった。幸せな死を迎えた。だからあの結末なのは仕方ない。誰も徹ちゃんを助けてはくれない。
じゃあ漫画は?漫画はどうなるの? 夏野は人狼になった。徹ちゃんは原作のように殺されてしまうの?夏野によって?それとも原作通り?その時夏野はどうするの?
そもそも夏野は自分の最期をどうするつもりなの?自殺?それとも敏夫に殺させるつもりなの?杭を打ってもらって?
もし、夏野も徹ちゃんも本当に死ななきゃならないなら、あんな風に徹ちゃんを死なせないで。惨め過ぎる。
あんな、眠ってる間に知らない人に杭を打たれて無造作に棄てられて。
そんな最期にしないで。叶うなら、夏野が徹ちゃんに杭を打って墓所に入れ、敏夫に自分を殺させ徹ちゃんと同じ穴に埋めてくれと言ってほしい。
そうじゃないと悲しすぎる。
本当は逃げてほしい。夏野が徹ちゃんをさらって逃げてほしい。
でも駄目なの。どんなに頑張って夢想しても二人には悲劇しか待ってない。
何故なら夏野は子供だから。そして徹ちゃんも原作と違ってまた子供だから。
人狼は屍鬼を庇護出来る。でもお互い子供ならそこには悲劇しかない。
静信と沙子は理想的な人狼と屍鬼のパートナーだ。辰巳と沙子がそうであったように。
昼間も動けて血の食事を必要とせず、呼吸もでき脈拍もある。そんな人狼が屍鬼を庇護するなら大人でなくては駄目だ。
匿えない。
子供は非力だ。
夏野は徹ちゃんを庇護することは出来ない。
まず住む処だ。そして生活には金がいる。働かなくてはならない。そして、長いことひととこにはいられない。移動手段も限られてる。
徹ちゃんが原作のように大人だったらまだ可能性はある。だって大人だから。車が運転でき免許証もある。
それでも相当無理をするだろう。関係が破綻するのは目に見えてる。
徹ちゃんが人狼だったら。二人とも人狼だったなら。悲劇は生まれない。
普通の人間の振りをして社会に入ることが出来る。
でも、そうじゃない。実際はそうじゃない。ならば結果は見えている。
逃げたところで二人には終わりしかない。
どうしたらいいのだろう。
敏夫は助けてはくれない。 静信を見ない振りは出来ても手を貸すことはしない。正志郎のような人が現れない限り二人の未来は見えている。
それでも、二人の幸せを願わずにはいられない。だからこその、綺麗な終わり方を望む。
夏野が徹ちゃんを殺し、自分を敏夫を殺させ、同じ穴に眠る。それ以外の方法があるのだろうか?
そして、矢野親子。
寺での惨劇よりあの親子の末路が辛い。あの親子に夏野と徹の未来を重ねてしまうからだ。だから、逃げてもきっと同じようになる。
夏野は徹に食事させることが出来るだろうか?最初は自分の血を与えるだろうが足りない。
人を殺せないから他人は1〜2回しか襲えない。だから土地を転々とするか、拠点より足を延ばして食事をするかだ。
どちらも車がいる。そしてお金。
二人はどちらも子供で、片方は屍鬼。お決まりの末路しか見えない。
どうしてこうなったのか。どうしたら惨劇は食い止められたのか。
ただ、当たり前の日常が続くと信じてて、隣にある温もりがこの先もずっとあるのだと疑いもしなかったのに。全部奪われて、無慈悲に殺されるしかないなんて。
律子と徹が死に殉じたことなんて誰も知らない。
橋口やすよは敏夫に伝えるだろうか?別れ際に言うかも知れない。でもそれは、敏夫にも胸にしこりを残すだけで何の意味も持たない。
何故なら二人は屍鬼だからだ。
駆逐されて当然なのだ。人を襲おうと襲うまいと、屍鬼である自分を消そうと、罪悪感を持とうと関係ないのだ。
彼等が屍鬼である。それだけが全てだ。何の言い訳にもならない。
せめて…いや、人狼であったなら。出来そこないの屍鬼ではなく、人狼になれたのなら。人を補食せずとも、偽りの顔をして社会に紛れることが出来たのに。
夏野はどうするのだろう。全てが終わったらどうするのだろう。
夏野は自分も死ぬと言った。でも、全てが終わったら変わる気がする。夏野は生き続けることを選ぶような気がする。
敏夫も全てが終わった後なら承諾する気がする。
それならば、徹の亡きがらを抱いて生きてほしい。徹を綺麗に死なせてほしい。
もし生きるなら、夏野は敏夫と共に行くだろうか。それとも独りで生きるだろうか。
山火事は全てを焼き尽くした。それでも、夏野にはそこにいてほしい。一人で山に住み、生き続けてほしい。
そして、徹がしたみたいに徹の墓に毎日花を手向けてほしい。
願望だ。ただの願望だ。
一緒に死ぬのでなければそうでもしないと報われない。二人が可哀相で辛い。救われてほしい。
心臓を杭で打ち、首を切り落とすことが救いだなんて受け入れたくない。私はただ、徹ちゃんがそんな風に無遠慮に殺されてゴミみたいに死体を扱われるのが辛くて悲しいだけなんだ。
そんな殺され方されるなら、赤の他人ではなく親しい人の手で。そうあってほしいと願う私はロマンティストなのかも知れない。
それでも、二人の未来を夢想してしまうのだ。こんなことが起こらなければどんな未来を二人は迎えたのだろうかと。
きっと敏夫は医者を続ける。
大学に戻るか、どこかの町医者になるか。そんなのは分からない。でも彼は他に何も出来ない。医者しか出来ない人だ。だから医者で在り続けようとするだろう。
橋口やすよはどうだろう?看護婦を続けるだろうか?続けるとしたら敏夫について行くだろうか?分からない。でも、それはしないだろうと思う。
あの時あそこにいた人達はきっと、外に出たらもう二度と連絡を取り合わないだろうから。
自殺と病院に入った者は屍鬼殲滅に携わった人達だろう。悪夢に苛まれるはずだ。相手は屍鬼とはいえ人殺しだ。友人知人を残虐に葬ったのだから。そして、屍鬼達の断末魔を思い出し眠れないだろう。
痛い人だと思われるだろうけど、今自分がこうして仕事したりご飯を食べたり、日常を過ごしてる間に屍鬼狩りは進行していて、徹ちゃんは殺されてしまうんだと、自分は何も出来なくて、徹ちゃんが死んでしまうことを知っているのに、助けることも出来ないでいることに焦燥感を抱いてしまうのだ。
何も出来なくて当たり前なのに、何も出来ない自分に落ち込む。考えても仕方ないことなのに考えてしまう。
どうしたら徹ちゃんを助けられるのか、どうしたら徹ちゃんを死なさずに済むのか。
誰だって死ぬのは怖い。でも自分は死ななくてはいけない生き物なのだと納得させて、殺されると分かっていてもう二度と目覚めることのない眠りにつく恐怖はどれ程のものだろう。
それを考えると涙が溢れて止まらない。どうして殺されなければならなかったのだろう。どうしてあんな惨い死に方をしなければならなかったのだろう。
「徹ちゃんに酷いことしないで」
叫びたくて堪らない。
胸の張り裂けそうなこの痛みをどうしたらいいのだろう。
徹ちゃんのことを考えると辛い。何が最善だったのかなんて分からない。それでも悲しい。