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首鼠のしつけ

撫でてやりたい、頑張ったよって撫でてやりたい。
首鼠の頭は、ぐらぐらとして俯いてただ下を向いて。泣いている。

ぐらぐら、ゆらゆら。
首鼠はただ、幸せに生きたいだけなんだよ。強欲で、ただ弱気なだけなんだ。

さて、また明日。
瞼を伏せて、大きな声に身をくすませる。

余罪

いつからだったか、俺はもう悪人と呼ばれるに足りる人間になっていて、世間では疎まれ蔑まれ死すら歓迎される男になっていた。
一番最初は、女をひとり
二番目は子供をひとり
三番目は悪人と呼ばれる男を一人。

ただ最後だけは失敗して、もの言わぬ愛しい骸の間で泣きじゃくった。恥も外聞も元からない。あるのはただの虚無と言うにも底知れぬぞっとする恐ろしさだった。


もう子供が、父と呼んでくれることはない。女が優しく「あなた」と語りかけることもない。愛にそれに答える口があれど、その愛を投げ掛けてくれる家はなし。
心中にもならぬ一家心中、大黒柱が折れなきゃ終わらないのだ。怖かった、先に逝かした二人を追うのが血が、叫びが恐ろしい。逃げ続けていた。妻と娘を失った可哀想な夫からすぐに、悪人になった。

「あなた、私どこにいても幸せよ。あなたと居れたよ、それだけのことですけど、涙が出てきてね、もうどうしようもない。弱っちきなあなたが、追って来てくれるとは思いません、だからどうかお幸せに、お幸せに……」

目も虚ろ、さようならより深い眠りの手前で濡れた唇が動いていた。饒舌に動いていた口は、次の瞬間ぱたりと動くのをやめ、溢れる涎が頬をねとりと濡らした。
 何度も反復する、あの妻の光景。それを思い出す度に、卑怯に悪人は足を動かす。幸せという難しい言葉がただリフレインして、体を揺らす。逃げ道はないとしても、辛いとしても"お幸せに"という約束を。卑怯な悪人を、くそったれな夫の背中に張り付いた二人の死体と、幸に泣きじゃくりながら、恐ろしい道を行く。

悪人の余罪

「幸せには、程遠い」

いいよー

 あんたの為に、頭下げてばっかりだと言われました時に、最早自身の人生の"これから"と"今まで"が決まったかのように思われました。それは、なにか地獄の始まりかのように熱く熱く、私の脳天から思考を注ぎ、溶かして、卑屈という人格の型をつけたような感じでございました。
 散々、探して見つからずにいた私の真のそれが明るみに、醜く突き出し、ぐじゅりと沢山のものを垂れ流し、私を最も惨めにしました。

「卑屈、か」

 十年以上の、集大成とでも言うかのような気持ちでした。また、これが醜態だということさえ、まるきりわかっておりましたので、迷い子のように泣いてしまいそうになりました。下を向いて、帰り方がわからぬと、しくしくぽとぽとと、泣いてしまいそうになりました。

 けれど、泣いていい身分ですらないのだろうと、また卑屈のそれが悪く働いて、緩く口から出た言葉は「ツライ」の一言でございました。その瞬間に、私は私を厳しく叱り、痛めつけました。

ナニが、ツライだッ!このド阿呆め、貴様のナニが、ツライというのだ!今まさに、生死の境目を渡る子あり、今まさに生命を生む女あり!けれど、貴様はここで見えない縄で首を吊るばかりではないか!貴様ッ、貴様ッ、貴様は

「たっはっはっ」

 私を叱る私は、正義のような顔をしております。それがとんでもなく可笑しく愉快で、痛くて痛くて痛くて痛くて痛くてっ!!!!!
ああっ、もうっ、一層死んでしまえたらぁぁっ!

 ごろりごろり、と軟弱な言葉が下唇を傷つけながら転がりました。情けない、その頂点であります。

「殺しておくれ」

 いいよ。自分で自分のそれに返事をしました、けれどね、私は気なんか触れていないし、素直に返事しただけでした。

 そのまま、泣きました。今度は迷わずに泣きました。ああ、ツライのだ、私は私でツラくクルシイのだ。迷いなく、迷っている。ずるりずるりと引きずる卑屈も、そのままに泣いている。
「これでいいのかな」

いいよ!


むにゃむにゃ、

今日の夜ほど、都会だったら違っていただろうと思わない夜はなかった。都会だったらきっと、夜でも歩く人びとの中で、お洒落に黄昏ることも上手に寂しさから逃げたような気持ちにさえなれたろう。真っ暗い、真っ暗い。田舎はなにもないんだ、恐ろしい、怖い。足元から下水の音、振り向いて、息を吐いて。情けなさを自分で可哀想だと、労りながら、景色に合わないコンクリートの上を歩く。情けない、情けない、怖い、靴ひもを解いて、下駄箱にいれた。
刺され、刺して、溺れて、押されて、そういう可哀想な理想的自殺のことを、思い出して意識的に瞼を下ろした。ねむろう、少しだけあしたが来るから

むにゃ。

「幸せそうな顔して寝てんナァ」

ゆめのなか

 恋は、偶然と必然性が必要なのだと誰かがいつか声、高らかに言いました。僕は、少しだけ不安になって北風に吹かれてしまいそうになる心の灯というやつを、静かにぎゅうっと握りました。
 僕らの恋に偶然も必然性もないのです、あるのは恋慕でも愛情でさえないのです。況してや体なども要らない。それでは君がきっと不安になるでしょう。けれど、僕には上手な伝え方やその手段がない。君は、なんていうだろう。きみは、なんて、いうだろう


君にとって、僕は、なぁに?
「逢いたいひと」

 熱が上がる、人肌が恋しい。ああ、僕も逢いたいよ。ただひととひととして逢いたいんだ

ゆめのなか

 上手な伝え方も手段もないって、言ったろう? あったのは願望とそれを叶える仮想の世界だけだよ。
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