生存確認
 虎伏(呪術廻戦)
 2018/11/12 02:10

虎杖の口の中が、ほんのり甘い。キスをする前に食べていた菓子の味だ。
目の前の虎杖から少し視線を横にずらし、奥にあるテーブルを見る。赤い箱と緑の箱の口が開き、それぞれ中身が数本だけ減っていた。

部屋に招かれて、テーブルの上に乗った原色の箱を見た時、あぁこいつこういうイベント好きそうだもんなと思った。同時に、それに付き合わされる事を思うと少し嫌だった。
ゲームとは言うが、勝敗の付け方がいまいちよく解らないし、そもそも勝敗云々の必要な行為だとも思わない。ただいちゃつきたい頭お花畑連中が、イベントにかこつけてゲームだ何だと言ってるだけだろう。
俺には縁の無いものだと思ってた。この菓子自体別にそう好きでもないし、やる機会なんて二度と無い。そんな認識だったのに。
今日、恋人の部屋にこの菓子がある。狙いは明らかだった。
食べる?って訊かれて、食べる事には抵抗がないから頷いて何本か食べた。どちらかと言えば甘いよりはしょっぱい方が好きなので、緑の方を積極的に。じゃあ俺こっち、と言って虎杖は赤い方をいく。ポリポリいい音を立てながら何本か食べているうち、虎杖がこっちをちらちら窺ってるのか解った。
来るか、と警戒した。伏黒、と、色の隠った声で名前を呼ばれる。
どう断ろうか考えたが無駄に終った。
虎杖は、2人の口から菓子が消えたタイミングで、キスをして来たから。


「…んん、」

俺の口の中はしょっぱいのだろうか。僅かなチョコの味を感じながら、そんな事を思う。
菓子の袋を手に持っていなくてよかった。持っていたら、今全部バキバキに折ってしまっていただろう。

「ふしぐろ…」
「いた、…どり」

ほんの少し唇が離れて、互いの名前を呼んで、また距離がゼロになる。段々薄れてきた甘味を何故か寂しく思って、追いかける様に舌を絡めた。
寄り掛かっていたベッドに上半身を押し付けられて、上からのし掛かられるみたいな体勢になった。流れてくる虎杖の唾液を飲み込む。流石に息が苦しい。虎杖のパーカーの背中側を、抗議の意味で引っ張る。虎杖は不満そうに眉間に皺を寄せたけど、ぺろりと俺の唇を一舐めして離れた。

「もっと」
「バカ、苦しいんだよ…」

自分だって呼吸が荒くなってる癖に、また触れようとしてくる虎杖の口許に手を当てて、キスを遮る。
それでも、その掌に何度も口付けられる。くすぐったいし、…それ以上の感覚も芽生えそうだし。やめて欲しくて不機嫌な顔を作って睨んだけど、寧ろ舌が出てきたから逆効果だったみたいだ。

「あれ、使うんじゃなかったのかよ」

どうにか意識を逸らそうと、テーブルの上の菓子を指す。固有名詞を出さないのは、“あれ”が何なのかを虎杖が確認に動くのを期待したから。
思惑通り、あれ?と言って振り向く。漸く解放された掌に力が入らないのが悔しい。

「あー、あれ。いや、うん、そのつもりだったんだけどさ」
「どう断ろうかと思ってたのに、機会失って焦った」

テーブルの上を確認した虎杖が、再び俺に視線を戻す。…唇が濡れてる。くそ、見てると変な気分になる。

「俺、別にポッキーゲームしたかった訳じゃないよなぁって、伏黒見てて思ったからさぁ」

俺の唇も、同じ様に濡れてるんだろう。虎杖の親指が唇をなぞる。
だめだ。ぞくぞくする。
もっと触って欲しくなる。

「伏黒とキスしたいだけなんだなぁって」

ド直球な言葉が刺さる。
馬鹿みたいにでかい音で心臓が鳴ってて、虎杖の顔を直視出来なくて。

「……俺だって、そうだ…」

つい俯いて、凄く小さな声しか出なかったけど、虎杖に伝わっただろうか。


虎杖の口の中は、もう甘くない。
いつもの虎杖の味だった。

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