生存確認
 虎伏(呪術廻戦)
 2018/11/16 04:01

ちょっといやらしいのでR-18

──────────







潤んだ目と、
赤らんだ頬と、

荒い息遣いと、
そこに混ざる小さな声。

粘着質な音と一緒に耳に入るそれは、他人が、しかも同性が発していると思うと嫌悪してもいいものなのに。

何故だろう。俺は。










「………」

爽やかな朝の訪れには似つかわしくない、何とも後味の悪い目覚めだ。
後味の悪いとは言っても、気持ち悪いとかそういう意味ではなくて。何だろう、とても申し訳無い気分というか、そういう感じ。
視線を横にずらし、壁一枚向こう側で寝ているだろうクラスメイトを思う。
ごめん伏黒。何でか解んないけど、俺オマエがマスかいてるとこ夢に見ちゃった。

普段の表情はどちらかと言うと冷たい寄りで、呪霊や俺達の下らない発言を相手に怒ったりする事はあるけど、基本的には喜怒哀楽を激しく表現するタイプじゃない。そんな伏黒の、色事っぽい表情。
勿論見た事なんかない。隣の部屋で生活してるけど、それらしい物音が聞こえた事もない。伏黒とエロい事を繋げて想像した事は只の一度もなかったのに、何でいきなりこんな夢を見たんだ。

夢の中の伏黒は、ベッドに背中を預けて床に座り込んで、右手の指で先端を弄って、左手で竿を扱いてた。
にゅるにゅるくちくち、ちょっとずつ派手になる音に合わせる様に、少しずつ息だけじゃなく声が出始める。ん、ん、って抑えた声を鼻から出して、時折口を開けてちょっとだけ母音が洩れる。呪霊から攻撃されて怪我した時に上げる声と似てるけど、それよりずっと高いっていうか、甘いっていうか。兎に角、エロい事してる時の声だなって思う声。
顔が赤くて、汗をかいてて、気持ちいいって所でびくって体が跳ねる。でも、それを我慢してるのか、びくってした後ふるふるって震える。誰もいないとこでひとりでしてるんだから、別に我慢しなくていいのに。何故か俺今見てるけど。まぁ夢だからこれ。
手の動きと声と体の震えの間隔が短くなって、あ、イく、って思ったら。仰け反った伏黒がベッドに乗せた後頭部を擦り付けながら、小さく小さく悲鳴上げて。右手で、まさに今飛び出してるだろう精液を受け止めてる。
ぎゅうって丸めた爪先から力が抜けて、大きく開いた口が努めてゆっくり呼吸をしてる。伏黒の口の中、まじまじと見たのは初めてだ。こんな色してたんだな。
緩慢な動きでティッシュを取って、べとべとになった両手を拭いて。丸めたティッシュをコンビニ袋に入れて口を縛った伏黒は、潤んだ目から涙を一滴溢して、それをゴミ箱に投げ捨てた。
俺が見たのは、ここまで。

「…何であんな夢…」

エッチな夢を見る事は、まぁ年頃の男子だし今までだって何度かあったけど、登場するのは勿論女の子だ。柔らかそうなおっぱいやお尻を惜し気もなく提供してくれて、それらを触ったりもっと凄い事をさせて貰える夢は、見た経験がある。
今回のはそれと同列に考えられる代物じゃない。
俺が誰かにエッチな事をする内容じゃないし、そもそも夢に出て来た相手が大問題だ。伏黒だ。同じ男で、クラスメイトで、凄く頼りになる呪術師としての先輩。そんな伏黒がひとりでしてる夢?何で?…いや、別に俺が伏黒に何かする夢が見たかった訳じゃないけどさ。
謎だ。謎過ぎる。

夢を見た理由なんて考えて解るもんじゃない。解らない事を考えるのは時間の無駄だ。切り換えよう。丁度時間もいい頃合いだ。
幸いと言っていいかは解らないが、起きてから頭をフルに使っていたので覚醒はしっかりしている。手間取る事なく手早く身支度をして、朝食を摂る為に食堂へ行こう。
部屋のドアを開けて、閉めて。何となく、隣のドアを見る。…伏黒の部屋から特に物音はしなかったけど、起きてはいるだろう。元々生活音の大きい奴じゃない。もしこの瞬間このドアが開いたらと思うと、何か凄く気まずい気がして、足音を立てない様に気を付けながら足早に通り過ぎた。

今日の朝食は洋食だった。8枚切り食パンのトーストが2枚と、黄身が半熟のベーコンエッグ、レタスとミニトマトとコーンのサラダ、細かく切ったキャベツと人参が入ったコンソメスープ。トーストとスープはおかわり自由。
おかわり分を最初から乗せて貰って持ちづらくなったトレーをテーブルに置いたら、食堂の入口から伏黒が現れた。がちゃっ、て音が立って、スープがちょっと溢れた。もっと早く伏黒を見付けてたら、トレー丸ごと落としてたかも知れない。あぶねぇ。

「お、おはよー、伏黒!」
「ああ…、おはよう」

極力いつも通りに、と思って出した声は明らかに上擦ってた。でも、伏黒は特に引っ掛かったりはしなかったみたいで、普通に挨拶を返して来る。良かった。
俺のトレーを見て、洋食か、って言ってカウンターに向かう。俺とは違って大食漢ではない伏黒は、おかわり分は貰わず一人前のトレーを持って、…俺の正面に座る。まぁそうだよな。いつも食堂で会えばこうやって食ってるもんな。
顔が見られないなんて。そんなのは、俺だけだ。

「相変わらず食うな、オマエ」
「へっ!?そ、そうかな!?普通だろ!?」
「昼や夜なら兎も角朝からその量はな…。俺には無理だ」

トースト1枚に個包装されていたマーガリンを乗せて、それが溶けるのを待ちながらサラダをつつく。そうして伏黒がごはんに視線を落として初めて、漸く伏黒の姿を正面から見られた。
伏黒はいつもと変わらない。筈だ。いつもと違って見えるのは、俺が何か申し訳無い気分になっちゃってるからだ。

いつも逆ハの字につり上がってる眉が、ハの字になってたな、とか。
はっきり前を見る水みたいな色の目が、虚ろになって潤んでたな、とか。
男にしちゃ白い乾いた頬が、真っ赤になって汗びっしょりだったな、とか。
薄い唇から、あんな声出るんだな、とか。
トーストを掴んでる両手が、脚の間でああいう風に動くんだな、とか。
…………。

…なに考えてんの俺?

「虎杖」
「はいっ!!?」

ぼーっと目の前の伏黒を観察して、夢で見た伏黒と重ねていた。嘘だろ。ほんとなに考えてんの俺。
伏黒に呼ばれて、誤魔化し様のない程大きな声で返事をしてしまった。流石に驚いたのか、伏黒はびくっと肩を跳ねさせた後、フォークに刺したミニトマトをサラダボウルの中に落とした。

「…オマエ…」
「あっ、早く食べないとな!遅刻しちまうよな!」

どう考えても挙動不審な俺を、窺う様な目で見る伏黒。その鋭い目がああいう時はとろりとするんだなぁなんて、こんな状況なのに考える。馬鹿か俺。ちょっとは落ち着け。
あれは俺の夢の中だけの事であって、実際伏黒がああいう事する時ああいう風になるのかなんて解らないじゃないか。するんだなぁ、じゃねぇよ。何で確定みたいな感じになってんだよ。
あれは俺の思う伏黒なんだから、本当の伏黒はああはならないんだよ。

…“俺の思う伏黒”って何だよ!?

「オマエ何かあったのか?」
「ない!ないよ!!なんにもない!!!」
「……そうか…?」

誰が見てもどう見ても、何かありましたという態度だろう俺なのに、伏黒はそこにツッコまない。これは無関心じゃなくて優しさだ。無関心なら最初から何かあったかなんて訊かない。
伏黒は優しい。その優しさに救われる。ツッコんで訊かれた所で絶対に答えられないから。
納得いってなさそうな顔で俺を見るけど、それ以上何も言わず、伏黒は食事を再開する。残ったトーストにベーコンエッグを乗せて、大きく口を開けてかぶりついた。半熟とろとろの黄身が弾けて垂れていくのを、唇から覗いた舌が舐め取る。

あぁ、伏黒の舌、その色だった。
俺の伏黒、再現度超高いな。


……。

……………“俺の伏黒”って何だよ。




すっかり冷め切った朝食は、お世辞にも美味しいとは言えない味で。
と言うか、味なんて微塵も感じられなかった。
食堂のおばちゃんごめんなさい。






伏黒も、ごめん。

この日の夜、俺はまた伏黒の夢を見た。
今度は、俺が伏黒に何かする夢だった。

正直に言います。興奮しました。
本当に、ごめんなさい。

c o m m e n t (0)



[ 前n ]  [ 次n ]
[ 購読 ]/[ TOPへ ]




-エムブロ-