生存確認
 虎伏(呪術廻戦)
 2018/11/8 01:08

R18です閲覧注意

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「伏黒!初めて会った時から好きでした!俺と!付き合ってください!!」

罰ゲームみたいなノリの告白だった。
木にとまってた鳥が一斉に飛び立つくらいの馬鹿でかい声、90度に曲げた腰、真っ直ぐ伸びた右手。
何より、周囲に何人かの気配を感じる。多分五条先生と釘崎、…他にもいるな。2年の3人かな。
俺が単独で任務に出てる間に何かしら勝負して、負けた虎杖が俺に告白するとかそういう、馬鹿馬鹿しい遊びでもやってんのか。
人の気も知らないで。
拳を握り締めて、掌に爪が食い込むのが解った。
どうしてやろう。殴ってやるのがいいか、罵倒してやるのがいいか。いや、こういう趣味の悪い遊びには冷たく返してやるのが最もダメージがでかいか。
下らない遊びに俺を巻き込むな。
そう言ってやる事にする。心底どうでもよさそうに、何も感じていませんよと。

「虎杖」

極力平坦な声を心掛けて、虎杖の名前を呼ぶ。
途端、虎杖の体が大袈裟に跳ねた。例えるならあれだ、授業中寝てた奴がいきなり机揺らして音立てるみたいな、ああいう反応。
予想外の反応に俺の方が驚いてしまって、名前の次に言おうとしてた台詞が飛んだ。口を開いたまま、目の前の虎杖をただ見詰める。
そうして気付いた。俺に向かって伸ばされた虎杖の右手が、有り得ないくらい震えてる事に。地面と平行に上半身を倒してる所為で顔は見えないけど、辛うじて見える両耳が真っ赤になっている事に。

「……」

あれ。これは、まさか。罰ゲームじゃない、のだろうか。
周辺の気配も、慎重に探ってみると、面白がってるというよりは心配している、様な。見守ってるみたいな、そんな空気である様な気がしてくる。
まさか。もしかして。虎杖は。
本気で俺の事が、好き、なのだろうか。

「!」
「ぃ…っ!」

手汗が凄い右手に、自分の右手を合わせる。
途端すさまじい力で握られて、反射的に引こうとしたけど、虎杖は離さなかった。一瞬で顔を上げて、真ん丸に開いた目で俺を見る。

「ふ、ふしぐろ?」

あぁ、やっぱり真っ赤だった。って事は、本気なのか。
本当に本気で、俺の事を好きなのか。

「…俺も」
「へっ!?」
「俺も、オマエが好きだ」

言ってしまった。衆人環視の元で言う様な事じゃないのに。でもまぁ、良しとしよう。
直後弾けたクラッカーのリボンが頭に乗って、それを鬱陶しいと感じつつも、胸のあたりがあったかくて。むず痒いけど嬉しい思う。
釘崎に肩パンされ、パンダ先輩に頭をくしゃくしゃに掻き回される虎杖に、五条先生がバズーカ型の大型クラッカーで追い討ちをかける。
俺は禪院先輩に肩パンされて狗巻先輩に頭を撫でられた。普段ならやめてくださいって言う様な事も、今は受け入れた。

「伏黒!大好き!めっちゃ嬉しい!」

満面の笑みでそう言う虎杖を、好きだと思う。

勢いで押し切られた形に思えるが、それでいい。
これが俺達の始まりだった。

















虎杖の、周囲を巻き込んだ熱烈な告白から早数ヶ月。俺達は特に大きな衝突や障害も無く、穏やかに、2人の時間を重ねてきた。
ひとつ屋根の下で共同生活を送り、互いに高め合い、時には命の危険を感じた事もあったけど、2人で乗り越えて生きて来た。寄り添い、触れ合い、ずっと傍で。
幸せだった。今も勿論。
だが不満はある。

「……」
「?どったの、伏黒」
「……」

死を擬装していた間に修行として行っていた映画鑑賞は、そのまま虎杖の趣味のひとつになったらしい。休日だからと気軽に外へデートしに行く訳にもいかない俺達は、専ら虎杖の部屋でDVD鑑賞会をして時間を過ごす。
寮備え付けの簡素なソファに並んで座って、決して大きくはないテレビ画面を2時間見る。直ぐ近くに座る事になるし、何ならお互い寄り掛かって、肩に頭を乗せたり、膝枕をしてみたり。何とも穏やかな時間だ。
告白を受け入れてから数ヶ月。穏やかな時間を過ごしている。ずっと。ずっとだ。
俺達は若い。命の遣り取りをする機会もある。もて余すものがあるのだ。普段淡白な俺にだって。

「虎杖」
「ん?」

虎杖のかたい太股に乗せていた頭を起こす。互いの顔が近付いて、数秒の沈黙。俺の言いたい事が解ったのだろう、表情を緩ませた虎杖が俺の頬に掌を当てた。
ゆっくりと目を閉じて、顔を傾ける。直ぐに、唇にぬくもりを感じた。虎杖の唇。こっそり目を開けたら、虎杖は目を開けたままで、至近距離で目が合った。
ちゅ、ちゅっ、何ともかわいらしい音が響く。映画は流しっ放しだから、それの音量に勝てる訳がないのに、何故だろう。くっついては離れ、離れてはくっつき、軽く吸っては音が出る。遊んでるみたいなキス。
ほんの少し唇を開いて、虎杖の後頭部に手を回して、引き寄せてみる。んむ、って虎杖が声を出して、ちょっとだけキスが深く…と言うか大きくというか、兎に角ちょっとだけ質が変わった。
だが、直後虎杖に唇を離されてしまう。触る前には乾燥気味だった唇がしっとりと濡れているのが解る。

「伏黒はキス好きだなぁ」

濡れた唇を、虎杖が親指で拭いながら笑う。その感触にぞくぞくして、虎杖の肩に額を乗せた。

「…オマエは…」
「俺も好きだよ、伏黒とキスするの。凄く幸せな気分になる」
「……」

幸せな気分、は、俺も同じだけど。
それだけじゃ足りないのが、若い男ってもんじゃないのか。

虎杖は俺に、触れたいとは思わないのだろうか。


恋愛の好きを確認し合って数ヶ月。
俺の目下の悩みは、恋人が手を出して来ない事だった。


















そもそも俺達は男同士で、性行為が必要な訳でないのは解ってる。
それでも俺は、虎杖に触れたかったし、触れて欲しかった。
男同士である以上、そういう事をするならどっちがどっちなのかを決めなければならない。俺はそういう事をする気でいるが、虎杖がそういう態度を見せないので、そういう話をする機会が今まで無かった。
ポジションは決まっていない。だが俺は虎杖としたい。ならばと俺が一人で考えてしまうのは、ある種必然の展開だった。
虎杖に受け入れて貰うか、虎杖を受け入れるか。
俺は虎杖を抱きたいのか、虎杖に抱かれたいのか。
どちらがどちらを受け入れるのが、互いに負担の少ない形なのか。
始めは、どっちでもいいな、と思っていた。特に抱きたい訳でも抱かれたい訳でも無く、ただ虎杖に触れたかった。
どっちでもいいなら利害関係を重視して考えよう、と思った。そして、身長は俺の方が高いが体格は間違いなく負けている、ならば俺が受け入れる方が自然だろうと結論を出した。
虎杖のかたい体に触れて、雄を感じて、自分が雌になる。嫌悪感はまるで無かった。そりゃ、痛いだろうし恥ずかしいだろうし、実際事に及んだら男なのに情けないと思う事もあるんだろう。それでも、虎杖に触れられるのなら、そんなものは些細な事だった。
雌は自分だ。そう考えて受け入れたら、体が変わるのはすぐだった。

「んっ…、ぁ、あぁ…」

いずれ虎杖が触れてくれる時の為に、ちゃんと受け入れられる体にならなければならない。自分で自分の尻穴を開発するなんてそれこそ情けない事だったが、来る虎杖との一夜の為に俺は努力した。
最初は勿論指1本ですら痛くて堪らなくて、圧迫感と違和感とで吐きそうだったし、顔がぐちゃぐちゃになるくらい泣いた。呼吸のリズムがおかしくなって、心臓がバクバク煩くて、気温は低い筈なのに兎に角暑くて。挿し込んだ人差し指を抜くだけの行為に何分も掛けた。
本当にこんなの気持ち良くなれるもんなのか。不安で堪らなかった。それでもやめる訳にはいかない。俺が尻穴の開発をやめたら、虎杖にこの不快感を味わわせてしまう事になる。それは駄目だ。あいつにつらい思いはさせない。
虎杖が好きだから。あいつを雄として受け入れる為に、俺が雌になるんだ。そう念じて、俺は吐き気を我慢しながら自分の尻穴に指を突っ込みまくった。

「…っ…ふぅ…、あっ、」

不快感を紛らわす為に虎杖に触られる妄想をしながら続けていたら、数日で体は順応した。呪霊と戦っている時の荒い息遣いと獰猛な眼。あれが俺に向けられていると考えたら、それだけで腰が震える。力の抜けた穴に指を宛てるだけで、ぱくりと開いて指先をくわえる。入り込む指を飲み込む様に、熱く濡れた内壁が蠢く。
痛みはもうない。あるのは快感と、期待だけだ。虎杖が実際に俺に触れてくれる事への。

「…いたどり」

自分で開発を始めてからそろそろふた月。指は軽く3本入る様になったが、それだけではもう尻がせつなくて、足りない。もっと太いものが欲しい。かと言って太ければいいという訳では当然ない。
虎杖のものが欲しい。
だが、虎杖は俺に触れようとはして来ない。交際開始から数ヶ月だ。部屋に招かれ、至近距離で触れ合い、キスを頻繁にする関係である今。肩に頭を乗せたり?膝枕をしてみたり?健全だ。実に健全なスキンシップしかしていない。いい加減限界だ。

今日も駄目だった。仕掛けてみたのに、深いキスにすら発展しない。
もしかしたら虎杖は、俺に触れたいなんて全く思っていないのか?
好かれているのは確実だが、好きの度合いと方向性が違うのか?男と性行為がしたいなんて考えている変態は俺だけなのか?

俺のこの努力は、全て無駄か?

ぷちん。頭の中で何かが切れる音を聞いた。

「…はは、」

濡れた指をティッシュで拭き、ローションの蓋を閉めて、ポケットに突っ込む。乱れたベッドはそのままに部屋を出た。
行き先は隣室。

夕飯前までいた部屋のドアをノックすると、虎杖が鍵を開けてくれた。

「どしたの伏黒、何か忘れ物?」

満面の笑み。邪気のない顔。それに引き換え、今の俺はどんな顔をしているんだろう。
ついさっきまで虎杖を想って、触れてくれない寂しさを紛らわす為に尻を弄ってましたなんて。想像もしないだろう、オマエは。
実際は紛らわす事なんて出来なかったんだけど。


「虎杖、ベッドに寝ろ」
「へ?」





















俺の事が好きなら一切動くな。そう告げてベッドに寝転がらせた虎杖の胸の上に、下半身裸で跨がる。虎杖の目の前には、ほんの数分前まで指を挿れていた尻穴があって、そこは、勿論今もローションと腸液にまみれている。
虎杖は固まっている。俺の言葉に従うつもりなのか、只単に状況が飲み込めていないだけか。それとも、…引いている、のか。
最後の可能性に胸が痛む。可能性どころかこれが正解だろう。性行為をするつもりのない恋人が、いきなり開発済みの尻穴を向けて来たら。そんなのドン引きでは済まない。
もうどうにでもなればいい。変態だと罵られようが構うものか。
…だがせめて。引かれているとしても、その顔を見たくない。虎杖の脚の方へ体を向けて、尻をより顔に近付けた。

「なぁ、虎杖。オマエはどう思ってたのか知らないが、俺はずっと、オマエとこうしたかった」

指を脚の間から尻へと滑らせ、ぬるぬると光る穴に宛がう。見なくたって解る、穴が開く感触。虎杖の目の前で、俺の尻穴が俺の指を飲み込んでいく。
元々入ってたローションが粘着質な音を立てる。ぬぷぬぷ、ぬちゅぬちゅ。部屋で弄ってから達していない。前も完全に勃起した状態で、先端からだらだらと涎を垂らしている。あぁ、虎杖の服を汚してしまった。せめて脱がせてからやるべきだった。

「オマエに、指挿れられて、弄られて…っ、もっと太いもんで、ごりごり擦られる想像、…して」

見られてる。虎杖に。動くなって言ったのは俺なのに、本当に虎杖が全く動かない事が凄く怖い。その怖さを誤魔化す様に、突っ込んだ人差し指を滅茶苦茶に動かす。
気持ち良くなれれば、きっと気にならない。怖いとか、切ないとか、かなしいとか。

涙が出てしまう。
これで終りかも知れない。…知れない、じゃない。終りだ。

虎杖が好きになってくれた俺は、こんな俺じゃない。
同じ部屋で、狭いソファで、肩を並べて座ってDVDを観る、そんな穏やかな時間を一緒に過ごせる俺を、虎杖は好きになってくれたんだ。
こんな、いつかするだろうって勝手に期待して、暴走して、挙げ句こんな。…強姦みたいな真似をする俺なんて。

1回、無理矢理抱かせて。そして嫌われる。それで終りだ。

最後だから。おねがい。最後くらい、最後だけは、…抱いてください。おねがい。

「オマエに、抱かれたいって、ずっと…!」

駄目だ。泣くな。泣いたまま喋ったら、泣いてる事に気付かれる。気付かれたら、最後に一度抱いてくださいなんて、その願いさえ気持ち悪いと突き放される。
そうだ。気持ち良くて泣いているって事にすれば、大丈夫かも知れない。指を、中の一番イイ処に当てる。前から手を伸ばしたんじゃなかなか届かない所だけど、今指を抜いたらもう、それ以上は行動出来なくなりそうだから。
ぐっと奥まで指を突っ込んで、腹側の、ちょっと出っ張ってる処を擦る。途端、ビリって痺れるみたいな感覚があって、体が跳ねた。丁度、告白してくれた時の虎杖みたいに。

「あぁっ!」

声が抑えられない。きもちいい。尻穴から凄い音がしてる。
虎杖、見てるか?見てくれてる?こんな俺になってごめん。こんな俺だから、最後にするから。だから、今だけ。今だけは、どうか俺を拒絶しないで。

「いたどり…っ…」



「伏黒」



今まで聞いた事のない声だった。確かに虎杖の声なのに、そう思った。静かな声だけど、怒ってる様な、何だかとても堅い声。
いやだ。拒絶しないで。やめろって、出て行けって、言わないでくれ。
今拒絶されたら、俺は。

「ん、あっ…?」

人差し指1本だけが入り込んでた尻穴に、もう1本、誰かの指が触れる。誰かのって、俺のじゃない。この状況で俺のじゃなければ、それは虎杖のだ。
虎杖の指が、俺の尻穴に触れてる。

「え…、」
「伏黒のきもちいいとこ、ここなの?」
「え、いたど、り…っ、?」
「なぁ、ここ?今触ってるとこ?」
「ひぁ、っ」

ずぶ。俺のより太い指が、少し遠慮がちに穴を開いて入って来る。ゆっくり奥へ進むその指が、俺が触ってる出っ張りを押す。
瞬間、甘い痺れが腰を直撃した。座っていた体から一気に力が抜けて、上半身が倒れてしまう。

「…、!」

俺の顔のすぐ近くに、虎杖の股間がある。
そしてそこは、服の上から解るくらいに、大きく膨らんでいた。

「いたどり、…なんで…」
「何でって。そりゃ、…そうなるだろ」

男が股間を膨らます理由は、そんなに多くはない。
主だった理由は性的興奮を覚える事。そりゃそうなるだろ、って。まさか虎杖、この状況に、

「…興奮、してんのか…?」
「……」
「っ、あん…っ」

ばつの悪そうな数秒の沈黙の後、誤魔化すみたいに弱い処を押されて、間抜けな声が出た。
嘘だろ。虎杖は興奮してる。この状況に。…俺の、恥態に。

「いや、そりゃ…、目の前で伏黒がこんな事になってたら…勃つなってのが無理だろ」
「あ、あっ…、いた、いたどり、」
「俺に抱かれるの想像して自分でしてたとかさ、なにそれ、伏黒すげぇえっちじゃん」

虎杖の指が増やされる。1本だったものが2本になり、3本に増やそうとしたら俺の指が邪魔だったのか、手首を掴んで引き抜かれる。
抜かれた指にキスされたのが解った。うわ、何だこれ。何だこの展開。
虎杖の指が3本、俺の中に埋まる。ぬるぬるぬぷぬぷ、何とも恥ずかしい音を立てながら、抜き差しして引っ掻いて押し潰して。がくがく震える腰を虎杖のもう片方の手が捕まえて、あまりの快感から逃げようとするのを許してくれない。

「壊しちゃいそうだから我慢してたのに」

不穏な言葉を吐くから、顔を見ないって決めていたのに、つい振り返ってしまう。
そこにあったのは、いつも想像していたあの顔。


「悪いのは伏黒だよ」


獰猛な獣の眼が、俺を見ていた。





















「あっ、あっ、ぁん、はぁ…っ!」
「ほら、伏黒…、まだ俺イッてないよ?頑張れるだろ?」
「…っも、ぉ、…むり、む…りぃ」
「無理じゃないって。ほらきもちいい、な」
「あぁぁ…っ」

散々自分で弄ってはいても、指3本以上の質量をくわえ込んだのは初めてだ。だというのに、こんなにも気持ちいい。
3回、イかされた。虎杖は言葉通りまだ一度もイッてない。俺がイこうと、虎杖は、俺イッてないから抜かないよと言って、抜かないまま何度も体勢を変えては俺を責め立てる。
仰向けに寝転がされて、最初の1回。繋がったまま体を持ち上げられて、お互い座った状態で2回。虎杖だけが寝転がり、俺の上半身を支えて立たせたまま3回。
力が抜けてへたり込もうとする度に、ほら頑張って、って胸を弄られる。そうして仰け反った体を見て、まだ元気じゃん、って笑う。
ぶるぶる震える脚を叱責して体を持ち上げ、無理矢理抜いてしまおうとしたら、腰を両手で掴まれて下に押し付けられる。抜けかけていた虎杖のが一気に根本まで押し込まれてしまって、それで3回目を吐き出した。ほぼ透明な精液を。
もう本当に限界だ。透明な液さえ出る気がしない。

「いたどり、…もう、むりだ、むり…っ」
「……、伏黒、かわいい。やばい、もっといじめたい」

甘くとろけた瞳と声で、俺を捕まえて離してくれない。言葉は不穏だけど、虎杖は始終優しかった。いじめたいなんて言っても、気持ちよすぎてぐずぐずになった俺をもっと見たい、みたいな意味だ。とんでもなく恥ずかしい。
初めてのセックスで抜かずの3発なんて、誰が想像しただろうか。この暴挙に出る前の俺だって、まさかこんな展開になるとは考えもしなかった。暴挙に出た後は、とりあえず1発、虎杖が勃たなければそれさえ無理かと考えていたくらいなのに。
萎えるどころかバッキバキに勃起し、挙げ句いつまでも達しないなんて。俺と違ってそんなに気持ちよくないのかと思ったが、表情を見ればそれが間違いなのはすぐ解る。
ただ単に、虎杖は遅漏だった。と言うか、普段のバケモノフィジカルがこの分野でも発揮されている。呪力は兎も角肉体は一般人の俺が着いていける訳がなかった。
虎杖はそこを遠慮していた。壊しちゃいそうだからというのは、誇張でも何でもなく、事実だったからだ。

「んぅ、っ!」
「伏黒、あとちょっと頑張れる?俺、流石にそろそろ…やばそう」

虎杖が上半身を起こして、体の向きを変える。ベッドから脚を下ろすから、まさかと思ったらそのまさかだ。

「あぐ、あ、あ………っ…?」
「…っ…伏黒、軽いなぁ」

俺の腕を首に回させて、入ったまま立ち上がる。体重のほぼ全てが繋がった箇所にかかって、奥の奥まで虎杖で満たされる。
くるしい。あつい。きもちいい。何も解らなくなって、ただ目の前の虎杖にしがみ付いた。

「いっぱい気持ちよくなろ、伏黒」

今まで以上の衝撃と快感を覚悟して、真っ白な頭で、ただ頷く。
にっこり笑った虎杖を見て、あぁ幸せだなって、こんな状況なのに随分とかわいらしい事を思った。

直ぐにそんな事を思う余裕は消え去って、散々に喘がされる事になるんだけど。

最後だと思って襲った筈なのに、何でこんな事になってるんだろう。
意識を手放す直前、一瞬だけ冷静な頭が戻って来たけど、本当に一瞬だけだったから思考は継続しなくて、何の意味もなかった。






















「───……」

立ち上がれる気がしない。まともに喋れる気がしない。目が覚めて朝日を感じて、思ったのはまずそれだ。
結局抜かずの4発を初めてのセックスで経験させられて、完全に下半身の感覚が無い。俺の脚はちゃんとあるのか?馬鹿げた不安に口端がつり上がる。
ふと、隣から息遣いを感じて、顔を横に向ける。至近距離にあった虎杖の顔に一瞬思考が停止して、その後すぐ全身が熱くなった。

「………っっ!!」
「おはよ、伏黒」

あ、大丈夫だ、下半身ある。反射的に虎杖から離れようとして、下半身に激痛が走った事で理解した。
腰が割れる様に痛い。尻は実際に割れているのかも知れない。動かせはしない癖に痛みだけはしっかりあるなんて、やわな自分の体が情けない。
痛みで涙目になる俺を、虎杖は締まりのない表情で見てる。なに笑ってんだ、オマエの所為で俺はこうなってるんだぞ。

「伏黒、俺もう遠慮しないからな」

伏黒の気持ち受け取ったから。
にっこり笑った虎杖はかわいい。とてもかわいいが、その笑顔の奥の獣を昨夜散々実感させられた身としては、背筋に冷たいものを感じずにはいられない。

「…少しは…」
「遠慮しない。俺が何もしない事で伏黒をあんなに追い詰めてたんだから。もう、何でもするよ。伏黒に」


俺の恋人すごくこわい。

思わず引きつる口許に優しくキスをして、虎杖がベッドから出る。


「さ。風呂行こう、伏黒。俺が洗ってあげる」



ぞく。
嫌な予感がする。


この予感が間違いではなかった事を、直後俺は思い知る事になるが、

その顛末は、また別の機会に語るとしよう。

c o m m e n t (0)



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