生存確認
虎伏(呪術廻戦)
2018/11/10
22:05
雨の音がする。
今朝は天気予報を見ていなかった。
「あー、降ってきちゃったなぁ」
俺の前を歩く虎杖は、俺が足を止めた事に気付いてない。俺と同じ様に窓の外を眺めながら、後ろを着いて来てる俺に話し掛けているつもりなんだろう。
寮から校舎まで然程距離がないとはいえ、傘が無くても濡れない程近くもない。もう後は帰るだけだ。そのうち止むかも知れないと期待するにしても、止むまで待つ理由がない。
「走って帰るしかないかなぁ。傘持ってないんだよなー」
オマエいつも部屋でテレビ付けっ放しの癖に、何で傘持ってないんだよ。朝の番組なんて大抵どこも天気予報コーナーがあるだろ。
LEDのどこか冷たい光が、薄暗い窓の外との境界をくっきりと描く。虎杖の影が廊下に落ちてる。少しずつ歩き去って行く後ろ姿は、止まる事も倒れる事もなく、足元に血溜まりを作る事もなく。ここは室内だ。俺も虎杖も雨に濡れてはいない。
意識して深く息を吐く。大丈夫。
「───……」
忘れたくても忘れられない光景。元々別に好きではない雨という天気を、苦手になるには充分な経験だ。
虎杖と胸の穴と雨と両面宿儺。俺が弱いから助けられなかった。結果的に虎杖は戻って来たけど、俺の力不足が招いた級友の死を、俺は一生悔いるのだろう。そして、その死を糧に強くなる決意を、俺は一生誇りとして背負っていく。
後悔と、誇り。オマエの死からそれを貰った。
雨が降る度感じる胸の痛みが、それを思い出させてくれる。
「虎杖」
虎杖が、俺の声に振り向く。すぐ近くを歩いていた筈の俺がかなり離れた所にいたからか、驚いた様な顔をして立ち止まった。
「天気予報見てなかったのかよ」
「伏黒だってそうだろ。鞄しか持ってないじゃん」
折り畳み傘を鞄から取り出して、虎杖に向かって放り投げる。
それを危なげなく受け取った虎杖は、何だか悔しそうだった。
「オマエが持てよ」
「うん」
小さな折り畳み傘に、成長期の高校生2人。収まる訳がない。
2人共、はみ出した方の肩は完全に濡れていた。
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