「生きている…?」
目を開けると、真っ青な青空が飛び込んできた
空をせわしなく飛び回るあれは鴎だろうか。だとしたら海が近いのだろう
生暖かい風と共に、かすかな塩の香りがした。
「何故――――…」
何故俺は生きている?
言葉にしたはずのそれは酷くかすれていて、不快感に眉を寄せた。
起き上がろうと腕に力を入れてみるが、しかし体はまるで鉛のように重く、思うように動かない体は持ち上げようにもわずかに身じろいだだけだった。
何度か力を入れてみるが、やがて諦めたようにひとつ息を吐くと、何とはなしに空を見上げた。
どこまでもどこまでも澄んだ、晴天の空だった。
(長い、長い夢を、見ていた気がする)
思えばこの七年、まるで怒涛のように過ぎて行った。
尊敬していた師に突然裏切られ、家と家族と名前をも奪われ
そうしていつしか血を浴びることを覚え、付いた名は鮮血。昔、炎みたいで美しいと幼馴染の彼女が微笑んでくれたその髪色と同じ二つ名。
やがて月日は流れ、家族や幼馴染と再会し憎むべきレプリカ野朗と出会った。
かつては師と仰いだ彼を止めるために手を組み、共に戦い、そして...
「俺は、死んだ…。」
自由の利かない利き腕をなんとか持ち上げ、その掌を見つめる。
ふと、その掌に何処か違和感を感じ、眉を寄せる。
「…?何だ…?」
気のせいだろうか…?何故だか疲れているようだし、きっとそうなのだろう。
そう自分に言い聞かすも、視界の端で捕らえたそれに、アッシュは体の疲れも忘れ、思わず叫んでいた。
「…ッ!!!!どういうことだ!!?」
自分より、わずかに色素の薄いその髪。
毛先がかすかに金色がかったそれに、アッシュの目は驚愕に見開かれた。
「何故だ!!!奪われるのは…消えるのは…」
俺じゃなかったのか…!!
アッシュは強く地面に拳を叩きつけた。
赤い血がじわりと滲み出たが、痛みは感じない。何度も何度も打ちつける。
――アッシュ…――
突如として脳内に響いた声に、アッシュはハッと我にかえる。
目を閉じ、全身のフォンスロットに意識を集中させると、おぼろげだったその声は、しだいにはっきりとしてきた。
旅の途中、幾度となく感じた感覚。
あいつと自分を繋いでいた、完全同位体の繋がり。
けれどもそれは、アッシュの望んでいた声とは全く違うものだった。
――さすがに音譜帯からでは声が届きにくいようだ…。アッシュ、久しぶりだな。――
「ローレライ…か?」
確かめるように問うと、ローレライは「いかにも」と短く肯定の言葉を返す。
――少々動きづらいだろうが、血中の音素が安定してないだけだ。じきに慣れるであろう――
自由に動かない身体に内心毒づくアッシュの心中を察してか、ローレライが落ち着いた口調で語りかける。
しかし今のアッシュにとってはどうでもいいことでしかなく。アッシュは胸をよぎる嫌な予感に駆られるがままにローレライに向かって叫んだ。
「そんなことはどうでもいい!!!それよりあいつは…ルークは何処だッ!!!」
ルーク
自分が考えた以上にさらりと出たその名前に、アッシュは内心驚いていた。
旅の途中、一度たりとてまともに口にすることのできなかった…自分にとっては口にするのも忌々しい名であったのに。
――ルークは…――
ローレライは躊躇うように言いよどむ。
それを見たアッシュの胸中にもやもやとしたものがよぎった。
まただ。また…。
(俺は、やつを憎んでいるはずなのに…)
自分でもわけのわからない感情に、アッシュは戸惑う。
けれどぐるぐると渦巻く自分の思考から目を背けるかのように、アッシュはローレライに先を促した。
ローレライは暗い口調で、真実を告げる。
――ルークは…もういない。――
あぁ、嫌な予感とはこのことだったのか、と頭の隅で呆然と思う。
――アッシュ、お前は勘違いをしている。
大爆発によって消えるのは、被験者ではない。…レプリカである、ルークだ。――
どうしようもない喪失感が体を駆け巡る。
『戻らない時に悲しみは募るばかり』
ーーーーーーーー
結局ボツったもの。サイトにあげる気はないけどもったいないのでこっちに。