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反作用のきみ※「無色少年」ネタバレ注意

「雪、きらいなんだ。」

ぽつりとそう呟くと、彼女はとても悲しそうな顔で、

「どうして?」

そう尋ねてきたから、
(あ。やばい、声に出てたんだ。)
ということに気付いて、あわててかぶりを振った。

「いやっ・・・ごめん、なんでもないよ。ちょっとしたグチだから。」

けれど彼女は信じてくれなくて。

「グチには聞こえなかったよ、ミズハ。」

ミズハ、って。呼び捨てにするいつものお姉さん目線で。ぼくの言い訳なんて簡単に払い除ける。
だから正直になるしかなくて、

「なんかさ、雪を見てると自分まで凍るみたいで。
ほら、水って雪を吸い込んでやがては凍っちゃうだろ?ぼくも下手くそながら青の魔法使いだからね。」

 正直に。と言いながら、また少しだけ嘘をついた。
ぼくの心が凍るのは雪のせいなんかじゃない。
本当は・・・

「大丈夫だよ。だって、」

すると彼女が明るく言う。

「もしもミズハが凍ってしまったって、私の火で解かすもの。」

それからにこりと微笑んで、ぼくの肩に積もった雪をやさしく払った。
その挙動の、ぼくにふれた部分が一気にあたたかくなって。たしかにきみはぼくを解かすのかもしれない。

 いや・・・

「それどころか沸騰してるよ。」
「・・・?」

今度は確信的に口に出した言葉。受け取った本人には意味がわからないだろうけど、今はそれでいい。
いつかもっとぼくがつよくなれたら。そしたら伝えるよ。

「きみが好きだ、って。」



 だけど。
それが叶うことはなかった。
ぼくが勇気を得る前に、勇気を得ようとした矢先に、
きみは・・・


「でもね、ルティウス。ぼくはもう雪がきらいなんて言わないよ。」

ここに居なくたって、ふれることが叶わなくたって。
きみの笑顔はまだぼくの心の中で生きていて、凍ってしまいそうな弱さを熔かしてくれるから。

「だから大丈夫。何があってもぼくは、きみに救われたこの命をせいいっぱい生きていくからね。」


 雨だろうと風だろうと。

 雪が降っても。










 ミズハとルティウスのお話。

ミズハは悪魔の血を引いていて死ぬことができないので、もしもそのことをルティウスに話していれば彼女は死なずにすんだのかもしれない。
けれど、それをルウガはこう否定した。
「おまえが不死だろうと姉貴はあの時おまえを助けてただろうよ。死ねなくたって崖から落ちたら痛ぇもんな。
いいか、姉貴が死んだのはあいつが強くてやさしい人間だったからだ。そこに不幸な出来事が重なっただけで、おまえのせいなんかじゃない。
おまえが自分を責め続けてたら悲しむのは姉貴なんだぜ?」

ルウガの言う通り、ルティウスはとてもやさしくて強い人で、だからこそ最後に真実の映像を残したのです。
ミズハを守るために。

もしかしたらルティウスもミズハのことが好きだったのかもしれないですね。

追憶の雨

 

 その夜はひどい雨で。
落ちる、というより叩きつけるような音がひどく心を蝕んでいた。
それで、目をつぶっても睡魔なんかやってこない時間を持て余した僕は、包まっていた毛布を上半身はぎ取って身体を起こした。
 今夜の宿は木造の簡素な、けれど居心地はそう悪くない部屋だ。いつも特別に自分の部屋を取りたがらないあの人が寝るに、ちょうどよい按配(あんばい)のソファもある。
けど、起き上がった視界に映るその場所に、何故だかその姿はなかった。
(どこ行ったんだ・・・?)
普通なら手洗いか何か、気にすることはないけれど。この寝苦しい雨、その湿り気が、無性に不安めいたものをかき立てていた。
「レスカ・・・?」
 呼んでみる。
バカみたいだ。子供じゃあるまいし。
 でも。

「・・・・・。」

雨が耳に痛い。その、気に障るビートに心音が呼応して、苛立ちみたいな感情が胸を荒立てる。
 どこ行ったんだよ!
「・・・ったく。」
仕方ないから立ち上がり、こんなことしてどうする?と思いながらも、水滴ですりガラスのように煙った窓を開けてみた。
 すると、

「・・・!!
レスカ・・・?」

ベランダのように張り出した窓の淵、滝のような雨を余すことなく浴びながら、レスカはこうべをあげて立ち尽くしていた。僕の声には気付いていないようだ。
「・・・・・。」
 どうしてかわからないけど、もう一度声をかけることがためらわれる。そんな僕など知らない彼女はただただ雨に打たれていて。

(なんなんだよ・・・)

 これじゃまるで泣いてるみたいじゃないか。漆黒の剣士さまに涙なんか似合わないのに。
「・・・っ」
勘弁してくれよ。僕は知らないんだ。知るはずがないんだ。
(泣いてる人にどう接したらいいかなんて・・・)

「・・・・・。」

 手持ち無沙汰みたいな気分のまま無言で見つめていると、その視線にやっと気を留めたらしい、レスカがこちらを向く。
「ユヒト・・・すまない、起こしてしまったか。」
「・・・・・。」
静かに言葉を落としたその顔に、涙らしきものは存在していなかった。でも、こう雨が激しくてはその推測も真実味がない。だからといってストレートに尋ねる気にもなれず、僕は黙ったまま部屋の中に入った。 
「ユヒト?」
追いかけるように窓枠から身を乗り出すレスカ。の頭に、乱暴にタオルを放り投げてやる。
聞きたいことが山ほどあるような気がしたけど、それを具現化するには至らなかった。やっぱりよくわからないんだ、うまい接し方ってやつ。
 だから、
「風邪なんか引かれたら困るんだよ。シャワーでも浴びてきたら?」
「・・・・・。ああ。」
不器用なやりとりなら彼女だってそう。いつもそうだから、このわけのわからない時間もこれで終わりだ。そう思ったのに。

「ユヒト・・・。」

ふいに名前を呼ばれて、それから。
「ありがとう。きみに出会えて本当によかった。」
「・・・っ!?」
 唐突な言葉。意味がわからない。
「な、なんだよそれっ?」
思わず慌てたような返答になる。けど相手の方は微笑んで、
「雨を見てると思い出すんだ。いいことも悪いことも。きみに出会ったのも雨、故郷を出た日も雨。私の人生の転機には雨が付きまとう。」
「・・・・・。」
 そういえば、僕はレスカがジュノーを出たきっかけを知らない。何があって、どんなことを経て僕の元へたどり着いたのだろうか。
悪いこと、とは何なのだろうか。
「少なくともきみとの出会いはいい方向に運んでくれた。」
「・・・!」
心の中の疑問に答えるような返答。驚く暇もなく、

「ありがとう。」
「・・・・・。」

 やっぱりわからない。
レスカの胸の内も、それに対する答えも。
でも、最後もういちど微笑んでから歩き出す後ろ姿を見ていたら、何もかもどうでもよくなった。
あのひとは泣いてなんかいなかったし、意味の解せないことを言うのはいつものことだ。それに、

(雨が嫌いじゃないんだった、レスカは。)

雨降りに涙を思うなんて、考え方としては常識的すぎる。彼女も、僕も、変人なのにさ。

「・・・・・。寝よ。」

 目をつぶるとすぐに睡魔が襲ってきた。
 そうだ。



 僕も雨が嫌いじゃなかった。












*END.

 
 
 突発短編(´∀`)vV
雨とレスカの因縁は本編にも後々出てくるのですが、これはそれを暗示するような感じで。前に書いた「雨の日の魔法」の続きとして読んでいただければ幸いです。

ユヒトの一人称って書きたかったのでたのしかったぁ☆

「愛の夢」※無色少年第4章より

 

「お礼、言ってなかったね。」
「え・・・?」

 不意をつかれたので反応しきれなかった。
いや、それ以上にその台詞が彼らしくなかったから。

「お礼?」

感謝とか謝罪とか、この子には似付かわしくない。そういう感情が芽生えたとしてそれを認めるとも思えない。
それに、そもそも私には礼など言われる覚えがなかった。

「なんのお礼だ?私は何も・・・」
「これ。」

 尋ねようとすると不躾に何かを差し出される。流れるように受け取った手のひらには、小さな、

「懐中時計・・・?」

それはアンティークらしい古びた時計だった。質素な飾り彫りが美しくて目を引く。
 だが、

「これは一体・・・」

何かの依頼に関係のある品なのだろうか?
疑問符を投げかけると少年は視線をそらしながら、

「あげるよ。僕の代わりに闘技大会に出てくれたお礼。」
「・・・!」

 瞠目する。なんて、めったにあることではない。だが私は文字通り目を見開いていた。
ユヒトがお礼を、しかも贈り物付きでくれるだなんて。

「・・・・・。
・・・ありがとう。ご褒美代わりにもらっておく。」
「べ、別にわざわざ用意したわけじゃないからなっ。大会中いろんな店が出てて、たまたまめずらしいもの見つけたからさ。それオルゴールになってるんだって。」

説明する口調がものすごく早口だった。
その照れ隠しはとても彼らしくて、驚きよりも微笑ましく思ってしまう。

「ありがとう。」
「・・・・・。」

 もう一度お礼を言って時計の蓋を開く。
そこから流れた曲を聞き、私は再び瞠目した。


(・・・・・これは。)



  『愛の夢』



 ユヒトがこれを知ったら恥ずかしさで倒れてしまうかもしれない。それはそれで微笑ましいが。

「・・・・・。何わらってんだよ?」
「うれしくて。
本当にありがとうユヒト。大切にする。」
「・・・お礼にお礼、言いすぎ。」



 愛の夢。ではないが、たったひとつだけ願いたい夢がある。

 この命のある限りユヒトのそばに。


オルゴールの穏やかな音色と共に大切にしまっておこう。










 久々短編。番外編を書くのはとてもたのしいです。
『愛の夢』ってタイトルだけで曲を知らなかったり…(´∀`;;ご愛嬌ご愛嬌!
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