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「あの光は一体――」

丘のふもとで動けなくなっていたアスカに、マルー達がいる方向から光が飛び込んだ。

その光はただただまっさらで、何もかもを消してしまいそう――そう、アスカは感じていた。


「何かあったことは、間違いないですね――」

負傷した身体を起こしたアスカは、半歩ずつ、光の方へ歩き出した。


─━─━─━─━─


「何が、起こっているんだ……?」


マルーの目の前に現れた、白い輝きの壁は、不気味な色のホノオを、吸い込むように消していった。



「すごいねボール。いつの間に魔法をかけておいたのー」

「いや。俺は何もしてねえ」

「えー?」

リュウとボールが呆気に取られているうちに、不気味な色のホノオは、白い輝きの壁を前に消えた。この現象を前にして、マルーはすとんと腰を落としてしまった。


「マルー! 大丈夫か!」
「大丈夫ー?」

「……」

「おいマルー! しっかりしろ!」

「 !! ……今誰か、私に何かした?」

「私に何か、ってなあ」

「マルーがやったことだよー? 目の前に壁を張って、その壁が、あの人の魔法を吸い込んだんだ」

「そうなの?」

「そうなの? って――」

マルーの言動に、二人は目を合わせ、呆れ返ったその時。


「面白い。非常に面白い!」

不気味な色のホノオを放った張本人が、声を上げた。

「まさか勝利を覆されるとはね。諦めることなく果敢に向かってくるし――五大戦士に相応しいだけはある」

こう言いながら、ローブの人物は三人の方へ歩み寄ってくる。
マルー達は慌てて立ち上がり、臨戦態勢に入ったその時、ローブの人物がおもむろに、自身のローブを引き剥がした。



瞬間、一段と強い風が、ローブをどこかへ連れ去った。



三人の目に飛び込んだのは、マルーより頭一つ背が高い、華奢な体型の女性。焦げ茶の髪と、短めの裾のワンピースをなびかせながら、女性はマルーに近づき、手を差し出す。

「私はカゲル。君は?」

こう問われたマルーの前方に、ボールとリュウがすかさず割り入った。

「――そんなに怖い顔をする必要はない。敵である君達に、顔も名前も姿までも明かしているんだ。そんな私が今、君達に何かをすると思うかい?」

こう言ったカゲルの表情は、今までで一番穏やかだった。戦っている間は妖しく輝いていた瞳も、今は暗い茶の色をしている。


「……二人共。道を開けてくれる?」

「な、何言ってんだマルー!」
「そうだよ! 危ない人に近付くなんて――」

「大丈夫。多分、今のこの人なら、何もしない」

言って、マルーは小さく歩を進める。



ある程度距離を詰めると、マルーはカゲルの顔を見ながら片手を差し出した。


「私は、マルー、といいます」

「そうか。マルー、というんだね」



二人は握手を交わした。


「今回は、マルーという少女の勇気を称えて見逃そう。次は容赦はしない。それまでに、しかと強くなることだ。いいね?」

マルーはこく、とうなずく。

こうして、マルーとカゲルは手をほどいた。


「次に会える日を楽しみにしているよ。それまでは」


 さようならだ


「 っ!? 」
「まただ。また頭に直接声が――」

「あれー? あの人、いなくなっちゃったよー?」

「えっ!?」
「なんだと――」


リュウの言う通りだった。気付いた時には、カゲルは姿を消していたのだった。


「いなくなったってことは――」

「追い払った。ってことか?」

「さようならだ。って、言ってたもんねー……」


三人は顔を見合わせ、しばらく沈黙。

そうして、彼らはへたった。
情けなくしぼむ風船のようだった。


「強すぎだよお、あの人……」

「ああ。全く叶わなかった」

「マルーの不思議な力がなかったら、大変なことになってたねー……」

「……」

「どうしたんだマルー。難しい顔をして」

「二人が言っている不思議な力のことなんだけど、全然覚えてなくて。とにかく、何とかしなきゃ! って思って、二人に当たらないように前に出て……それからは、目の前が真っ白になって、何が起きたのかさっぱり――」

「とにかく! マルーのおかげで「あの人」を追い払うことができたのね! はぁ、良かった!」

「おっ、復活したか。足手まとい魔法使い」

「ちょっと! 何よその、足手まとい魔法使いって!」

「言い返す気力があるなら、大丈夫そうだな」

「――大丈夫よっ! さっきはちょっと、油断しただげなんだから!」

「良かったあ。リンゴったら、私達の声が届いてないくらい怖がってたから、心配したんだよ」

「……ごめんなさい、マルー。力になれなくて」

「ううん! 色々あったけど、カゲルを追い払えたし、樹も無事だし――! あっ!」

こう言いながらマルーが、樹がある丘の方へ振り返ると、負傷したまま呆れ顔で立つアスカが目に入った。
マルーはすかさず駆け寄り、アスカを受け止めた。


「ひどい怪我だよアスカ! 大丈夫?」

「……皆さんこそ。カゲルに何かされたり、怪しい魔法にかけられたり、していませんか」

「私達は何もされていないよ。それよりアスカの怪我を何とかしないと!」


「アスカお姉さーーーーーんっ!」

「ノルア様! お待ち下さい!」


そこに現れたのは、イロハ・シティのお姫様ノルアと、そのお世話係である着物の淑女だった。

「私、どんなケガでも治せる塗り薬を持ってきたの! 今からアスカお姉さまの背中に塗るね!」

「お待ち下さいノルア様……このケガの様子ですと塗り薬はまだ早いです。ノルア様、まずは――」










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