冗談なのか本当なのか毎度の事ながらなかなか本心が掴めない彼の言葉を夜もろくに眠れずまったく仕事が手もつかないほどに気にしているだなんてとても馬鹿らしい事だとは自分でも思うのだがずっと頭から離れない。
「あんな言葉を、簡単に口にするものじゃないです」
自分は彼の言葉ひとつひとつに一喜一憂し、こうして病んでしまうのではないかと思うくらいに悩んでいるけれど好きだとか愛しているだとかを他人に軽々しく口にしているのを目にしていればいくら文化や性格の違いと分かっていても、真剣な顔つきで言われたとしても、その言葉で自分が救われると分かっていても、やはり信頼は出来ないのだ。
昨日彼が一寸の迷いもなく口にした言葉を、また明日会った時に言ってみようか。そしたら彼はどんな顔をするのだろうか?普段自分は気持ちを口にする事はあまりないのを彼も十二分に分かっているだろうから慌てるのだろうか。それともありえないと笑われてしまうのだろうか。どれにせよ、きっと自分は曖昧に笑う事しか出来ないのだろう。
恋は盲目、とはよく言ったものだと思う。どうやら日本のところではあばたもえくぼと言うらしい。意味はどちらも相手の欠点さえ見えなくなるほど誰かを愛してしまう事で、認めたくはないのだが今の自分を的確に表している言葉だ。
また今日もきっといきなりやってきて何度も自分の名を呼び抱きついてきてキスをねだるのだろう。そして自分はそれを少々うっとうしいと思いながらもねだられればねだられるだけキスを送るのだ、嬉しそうに微笑む姿を愛しいと思いながら。