昨日の年下男の話で脳内妄想が止まらず、プロローグ的な物を勢いで書いてみました(´・ω・`)


『恋人の条件』

 両親を空へと見送ったのは、ちらほらと雪が舞う曇りの日だった。
 空を覆い尽くす灰色の雲と同じ色をした煙が、火葬場の煙突から空へ向かって伸びて行く。

「この雪、お父さんとお母さんが降らせたのかな……」

 雲に溶け込んで行くように消えて行く煙を見ながら、六芦征司(りくろせいじ)は小さな声で呟いた。

 火葬場の待合室で火葬が終わるのをジッと待つことができず、征司は一人火葬場の外に出た。

 征司の両親は大手の輸入家具ショップでバイヤーをしていた。その為、両親のどちらかが仕事で海外へ行くことも珍しい事ではなかった。
 しかし二月のある日、新プロジェクトの関係で両親が揃って一週間イタリアへ行くことになった。

 近くに親戚も居らず、征司はその間隣の家に預けられた。隣の西(にし)家には征司と同い年で親友の岳人(がくと)が居たから淋しくはなかった。

 一週間が過ぎて迎えた、八日目の朝。両親から空港に着いたと電話で連絡を受け、いつもと同じく岳人と一緒に学校へ行った。

 今日は土曜日で、授業は午前中で終わり。家に帰れば、一週間振りに会う両親が笑顔で出迎えてくれる。
 ―――そう思っていた。

 二時間目が始まって直ぐに、教室に慌てた様子で男性教諭が入って来た。担任に何事かを告げると、担任は征司に今すぐ帰る準備をしなさいと言い、訳の分からぬまま鞄に教科書等をしまって帰宅の準備をした。
 連れて行かれた職員室で、痛ましそうな顔で征司を見つめる教頭の口から、信じられない言葉を聞かされた。

 ―――『ご両親が事故に遭われて亡くなった』と。


 高速道路を走行中差し掛かったカーブで、隣を走っていた大型トラックがハンドル操作を誤って突っ込んで来たらしい。
 車は大破し、両親は即死。車の後部座席とトランクから転げ落ちたイタリアの土産が道路の上に散乱していたと言う。
 両親には遺体の損傷が激しいからと会うことは叶わなかった。遺体の確認は西夫妻が、葬儀の手配も夫妻や近隣の人々が行ってくれた。

 そして迎えた火葬の日。
 征司は慌ただしく過ぎていった今日までの事を、余り覚えていない。
 今、火葬場の煙突から出ている煙も、葬儀の時に棺の中で眠る両親の姿も、現実の物だとは思えなかった。

「ねぇ君。そんな所で突っ立ってると、雪だるまになっちゃうわよ?」

 空へと続く煙を見つめて、どれくらい時間が経ったのだろうか。
 征司は聞こえて来た若い女性の声にハッと我に反り、声の聞こえて来た後方を振り返った。

「誰……?」

 振り返った先に立っていたのは、全く見覚えのない女性だった。
 うっすらと雪の積もったピンク色の傘を差した、二十代前半の女性。ワンピースタイプの喪服に上に、ファー付きの黒いロングコートを羽織っている。緩やかに巻かれたセミロングの茶色い髪。メイクは控え目だが、どこか華やかさを感じさせる容姿だった。