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リビドー†リカハス

 



死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。ハスタは言う、何度も言う、下唇を噛みながら子供みたいに涙をボロボロと流して、脱臼した肩とえぐれた脚を槍を握り過ぎて同じ形で固まった指先で撫でながら。
嗚咽混じりに言うそれを見て、俺は沈黙を続けた。赤く染まったハスタの髪が、赤く染まったハスタの額から頬との境界線を曖昧にくしゃくしゃになっている。

「いやだ、ゃだ…死にたくない……死にたくない…」

「お前が、今までして来た事だろう」

果たして沈黙を破る程の価値があったのだろうか。瞳孔の開ききったハスタの目がこちらを見遣った。涙が溢れ続けるそれは、今日も長い睫毛に縁取られている。

「ごめんな、さい」

眉根をきゅっと寄せ、まさしく子供のそれでハスタはしゃくり上げて泣いた。再び掠れ声で子供がするように謝罪した後、少ししてハスタはまるきり静かになる。
暫く眺め、俺はその場所に座り込んだ。ハスタは、絶命したようである。いまだにじわりと広がり続ける血を、じいと眺めた。

「………」

血の溢れているハスタの唇に触れる。まだ暖かいそこにほんの少しの間触れ続け、離した。今にもあの軽快な不愉快か軽口を叩きそうだ、この薄い唇で。
血の付いた指先を眺め、立ち上がり溜息を吐いた。

ハスタは、死んだ。



それを数回頭で反芻させる。
休憩を終えたルカ達が、死体の前で突っ立つ俺を不思議そうに迎えに来た。今行くと伝え、一度ハスタを振り返る。目を伏せ再び溜息を吐き下し、血の付いた指先を自らの唇へ触れさせた。



*



ハスタは死ぬのが何より怖くて嫌で、その瞬間だけ人間らしくなったらいいなぁという妄想



 

つうしん†完直





大学のパンフレットを握り締めて、欠伸を噛み殺しながら完二は頭を掻く。その頭髪は現在彼の特徴的な淡い金の脱色したそれではなく、受験を控える高校三年生に相応しい黒い髪色をしていた。少し痛んで毛先が捻くれてしまっているいるのは昨晩に急遽染め直したからだろう。

母に手渡されたカイロをモノトーンの上着のポケットの中で握り締めて、首に巻いた同じくモノトーン調のシックなマフラーに鼻先を埋めた。
見遣る大学のパンフレットの中身は華やかである。縫製。その文字が至る所に書かれたその冊子は、彼が今から受験しに行く大学のものだ。読み直しを何度も繰り返した為にしわくちゃになってしまった表紙を意味もなく指先で直す。

明朝の八十稲葉、駅前は人通りが少ない。
吐く息は白く、寒い鼻先をカイロであったまった指先で撫でた。ピアスのない鼻先に違和感を覚えながら、手持ち無沙汰に前髪を指で梳く。
受験、面接、試験。その為に完二は髪を黒に染め、挑発的なオールバックを止め、ピアスを全て外した。
自分らしくある、認めてもらう。先輩に言った、約束した言葉だ。笑われようがなんだろうが自分は自分であり続ける。

縫い物が好きだ。そして唯一の存在である母が好きだ。八十稲葉が好きだ。あの商店街が好きだ。巽の店が、好きだ。
そうした事を考えると、完二の目指す道は一つだった。縫製を一から基礎から全て学び、技能を取得する。そして自身をみんなに認めてもらい、店を継ぎ母を支える。
その為の受験に自身の個性を削ぎ落とす事なんて微塵も気にはならなかった。
制服の衿はきちんと前を閉め、コートはシックに靴も学生ならではの革靴に。鞄は普段からキーホルダーも付けていなかったので、唯一いつも通りかも知れなかった。

カイロを取り出し、掌に包みながら冷える鼻頭に付ける。予定よりかなり早く駅に着いてしまったので随分と暇だ。

というのも、完二は待ち合わせをしているのである。それも異性とで、更に完二が気を寄せている相手だ。いや簡単に言おう、片思いをしている相手だ。
白鐘直斗、彼女も大学の受験に行くのだという。ゆくゆくは探偵業を担うのだが、それには当然沢山の知識が必要だ。その為に彼女の母と父とが通っていた大学のオープンキャンパスに赴き、そうして受験届けを出したらしい。
完二もりせから聞いて、そして直斗からはそうなんですよという台詞を聞いただけなのでそこまでしか知らない。
が、どうにも直斗が受験する大学の方向と試験の時間とが完二の受験する大学と似たり寄ったりなのだという。その事から、直斗に「では途中まで一緒に行きましょう」と誘われた完二は断る理由がなかった。
あるとすれば「試験前に必要以上に緊張してしまうので」という事だろうか。なんにしても直斗の小さな笑顔で誘われれば完二の返事など裏返った声でのYES一択であった。

そうして今ようやく、待ち合わせ時間の10分前になったようである。駅前に設置された時計台を見上げて、完二は眉根を寄せた。30分前から来たと知ったら直斗はどう思うだろうか。とまで考えて、首を横に振る。こういうのが、よくない。何を気にしているのか、何故そんなに早く来たんですかと聞かれたらお前が好きだからだと返せるくらいに堂々となりたいものだ(あの無敵超人の先輩なら言ってしまいそうで、しかも様になってしまいそうで少し恐ろしい)。

「あっ、巽…君?」

びくん。完二の肩が激しく揺れた。首も跳ね上がったかもしれない。あともしかしたら、ひっと声が上がったかもしれない。不安に顔を引き攣らせながら完二は振り返る。駅から見て左手側の道路から来た思い人見遣った。
疑問詞であったのは髪を染めて普段と少し違う系統の上着を着ているからだろう。しかしこんなにも先日校内で会った時より雰囲気が違うのに気付いて貰えたのか。朝とは言え人通りが少ないとは言え、駅前には同様に受験を受けに行くらしい学生が何名か見える。
しかし完二は突如来た思い人にテンパってそれどころではなかった。

「お、おはよう」

よし普通に挨拶出来たぜ。密かにガッツポーズを取る完二だったが、視線をきちんと直斗に移した瞬間に硬直してしまった。

「おはよう、ございます…」

癖のある藍色の短い髪は普段の被っている深青の色をした帽子に隠れずに見える。耳に少し掛かった髪を直すように指先でいじる姿は、傍目に見れば先程までの所在無さげに黒い前髪をいじる完二に少し似ていた。
真っ赤な顔で握り締めた茶色の学生鞄は規則正しい長さのスカートと膝とは隠していて、その下からは細い足と紺色の靴下とが伺える。高校指定の制服の大きな黄色リボンが可愛らしく、背の小さい直斗の胸元でコートの隙間から垣間見えて揺れていた。
普段の少年ルックの直斗を予想していた完二は、良い意味で予想に酷く裏切られた事に目を丸くする。上から下まで不躾に観察するが直斗は何も言わずに待っていた。

「…かわいい」

そして完二の開いた口から出た一言はそれだった。

「へ?」

「あ、ああ!?いやなんでもねぇ!よ?おう!」

顔を真っ赤にした直斗はじいと同じく真っ赤になった完二の顔を見遣っている。それからすぐ後に更に真っ赤になった顔を少しだけ俯かせて、きゅうと鞄の持ち手を握り締めた。

「僕は、その…我を貫く事と社会のマナーを崩すのは、同じではないと…思ってそれで、受験にあたって女子の制服を着て…来たのですが…へ、変ですかね…変ですよね…」

「変じゃねぇよ!に、似合ってる……つか変っつーのは俺みてぇな付け焼き刃な格好してる奴の事を言うんだ、直斗は、その…おう…か、か…」

かわいいし、と、音になるかならないかの声で言い、完二はちらと直斗を見遣る。直斗に聞こえているかは定かではないが、二人共顔を真っ赤にして俯くその光景はなかなかに可愛らしいと通行人は思っただろう。

「…巽君の格好は変なんかじゃないですよ」

「……え?」

「…に、似合ってますよ。とても…」

きゅうと鞄の持ち手を、爪が食い込みそうな勢いで握り締めて、直斗は完二を見上げた。可愛らしいしかも片思いをしている女の子の上目遣いを直にくらい、完二は目が合った瞬間に死にそうなくらいに心臓をばくんと弾ませてしまう。そして弾みで膝から落ちた。片膝を地面に付かせ、かろうじてダウンを避けた完二は必死に何か言おうと口を開く。

「ありがとな」

「…いえそんな、こちらこそ。ありがとうございます」

互いに顔を真っ赤にして顔を合わせずに二人は笑い合った。直視したら鼻血を噴き出してしまいそうなので、なんとか直視を避けようとしながら完二は立ち上がる。

そうして寒いやら頑張ろうやらの会話をしながら、少しぎくしゃくしたまま二人は少し早いが駅に入った。

可愛いらしい紺色のコートから伸びた細い指が券売機に触れるところで、完二はようやく直斗を横から眺めてみる。
鼻血は出なかったが、胸がじわりと暖かくなり心臓が跳ね上がった。背伸びせずこういうのも自分だと表す直斗の姿は、とても男前に見える。

「……どうしました?」

「あ、いや、お…悪ィ、ガン見しちまって…」

「………いえ」

顔を真っ赤にして半歩下がる完二を、直斗は微笑んで見た。その顔は完二と同じくらいに真っ赤だったが、完二は気付かなかった。






あまり穿き慣れないスカートは酷くスースーする。直斗は下にスパッツを着用したスカートを撫で付けて、完二を見上げた。
座席の埋まった電車内で、一つ開いていた席を完二は直斗に譲って今は吊り革に捕まりながら広告を見上げている。
頭髪は黒く、オールバックにはせずに垂らしていた。長さはちょうどよく、少し髪の短い模範生のような髪型である。昨晩黒に染め直したので毛先は痛んでいたが、近くで見なければ気付く話ではない。
律儀に衿を閉じた制服に、黒のコート。試験かはたまた違う事の緊張からか、眉間にシワを寄せて真面目な顔だ。またピアスのない姿は新鮮である。

それを見上げて直斗はぼーっと考える。ただぼーっと、まだ少し熱い頬を撫でた。

(……カッコイイ…な)

巽完二の今の姿は直斗の憧れる姿そのものだった。ピアスは脱色した髪などの不良っぽい要素を無くした完二の姿は、子供っぽさと安い雰囲気が削ぎ落とされて頼り甲斐のある雰囲気と逞しさがひどく顕著になっている。それがとても、かっこうよく見えた。目線を下ろして、再び所在無さげにスカートを撫で付ける。
もともと、直斗は完二に惹かれていた。尊敬していた先輩が都会に帰ってから一年間、先輩達が卒業してしまってから一年間、あの時のメンバーは分け隔てなく仲良くつるんでいた。
その中で直斗は完二の姿を見ていて気付いたのだ、自分のありたい男性とはこうだったのではないのかと。まだ高校生ではある為に弱い部分のある完二だったが、それでも芯の強い人だった。
あみぐるみの好きな人だが、女々しいという訳ではなく貫き通す人だった。そうして側にいて、暫くして、あれこの感情はなんだろうかと考えていた。それだけだった。

だが先程それは変わった。ああ恋をしていたのか、と、頬を撫でる。
自分は巽君が好きなんだ。口の中で呟くそれはとても神秘的に思えて、直斗は胸があったかくなった。

(…受験が終わったら、伝えてしまおうかな…)

何故こんなにも心地がいいんだろうか。少し気分がよくて、直斗は小さく微笑んだ。
全く同じタイミングで同じような理由で完二も微笑んでいたが、互いには気付かなかった。



*



カンナオウマー(^q^)

本当に†リカハス

 

ハスタは戦場で屠った死体を堆く重ねる趣味がある。死体の上に死体を重ねていき、石垣ならぬ人垣を作るのだ。悪趣味だとは毎回思う。
あのよく手入れされた槍で急所を的確に刺されて屠られた死体は、その後ハスタに弄ばれて鳥の啄んだ後のようにぐちゃぐちゃになっていた。それが戦場の真ん中で積まれているのを見ると、なんとも気分が悪い。

今回も俺は運悪くその人垣に出くわしてしまった。ハスタと同じ日に戦場に配属されると、この広い広い戦場の中で何故か出くわしてしまう。気色の悪い運命だ。

「あっ。リカルド氏じゃないですかご機嫌いかがかしらん。ボクチンは絶好調ですはい」

「……まあそれはひしひしと伝わってくるな」

「そうでしょうそうでしょう。えーと、ん?んあ?23人かな?仕留めちまったぜいえい」

「……」

確かに23体の死体がピラミッド状につまれている。その中にどう見ても自軍の兵士の服を着た死体があるのはまあ、置いておくとしよう。
なぜこの変態はその死体達のてっぺんに座っているのだろうか。俺が敵国の兵士ならあの派手な頭の恰好過ぎる的を、とっくに何処か見晴らしの良い場所から撃ち抜いているのだが。

「ああ〜楽しい。楽しいなぁ…最ッ高の気分、っははは!あー…ふふっ」

どうにもハイになっているな。ハスタを見上げて、俺は肩に抱えていた銃を抱え直す。
ハスタはいつも戦場でひどく楽しそうだ。人を殺して楽しみ、死にかけて楽しんでいる。
可哀相な奴だと思う。狂っている、気持ちが悪い、それはとうに一周してしまっていた。
ハスタは酷く可哀相な奴である。人間として踏み入れてはいけない、変人の領域をふらふらとしていた。
何故ならあいつは小鳥やら花やらは大切にするからだ。同じ命なのに、あいつにとって何が違うのだろうか。

俺はたまにそれを考えると少し、ほんの少しだけだが、悲しくなってきてしまう。
ハスタはなぜ普通の感性を持てなかったのか。
何より悲しいのはハスタに対してそんな感情を抱くようなってしまったことだった。俺は少しずつだが、ハスタを好きになっているようである。あまり認めたくなかったが。

人垣の上で体育座りをするハスタを見上げた。あいつは、子供が迷子になって親を待っているような顔をたまにする。
ハスタはいつも、一体何を待っているのだろうか。






あけましておめでとうございます。そして久しぶりでごめんなさい。
リカハス好きさんでまだ見て下さってる方とかいらっしゃるのでしょうかね。暇がありましたらまた更新したいです。


 

クレバー†リカハス

 

眠るハスタは死体その物だとリカルドは静かに眠るその肢体を見下ろした。リカルドは軍内の部屋別けが原因で同室であるハスタの睡眠体制をよく見掛けるのだが、これがまた奇妙なのである。普段ああも五月蝿く元気に死体を量産するハスタは、寝台に入ってしまうとあまりにも静かになり、そして最終的に気持ち悪い程に静かに寝入るのだ。
胸は呼吸に合わせて、しかし凝視しなくては分からない程にゆっくりと動く。息もしているのか分からず、長い睫毛に縁取られた瞼も普段は五月蝿く動く唇もぴくりともしない。

これは死体だ。

そう言って安置所に引き渡せば受け取ってくれるだろう。リカルドは考えながら自分の銃を寝台に立て掛け、そこへ座った。
普段からこう静かならばまだ仲良くなれそうだとリカルドは考えるが、寡黙でありながら且その腕は立つ殺し屋ともなればそれはリカルドそのものとよく似ている存在である。
そうなればリカルドはハスタに今ある愛情をまだ持ち越せる事はないのだろう。ハスタはハスタであるからこそ愛らしいのだと、心の底でリカルドは理解していた。


 

言わない†リカハス

 

いつまで一緒に居られるのか

尋ねようとして開いた唇を暫く停止。静かに唇を閉じた。
聞きたい事は大体彼を困らせるので言わない。
例えば、この先の事や自分をどう思っているのかや自分をどうするのか、とか。言いたくなくはない。聞きたい。彼の口から彼の答を。だが彼が困るように言葉を選んで返答するのは目に見えてる。だから聞けない。聞きたくない。

手袋を着けていない指先は無防備にシーツの上に投げ出されていたから、だから人差し指に触れた。だって触れて欲しそうだったから。これは独りよがり。
確かめるように指先が動き、今度はこちらに自分から触れてくる。それから握られた。
指と指を絡める、所謂恋人繋ぎというやつ。甘んじて自分もやんわりと力を込めて握り返す。

「リカルド氏は」

「ん?」

「……手冷たいね」

「そうか?」

「うん」

ぎゅーっと力を込めて握れば、痛いぞ、と声が返る。
リカルド氏はオレの指先の体温が自分より高いのをどう思う?
答を聞くのが怖かった。だってわざわざ彼に聞かなくとも、この関係の結末を知っていたから。だから彼の事を多く知るのは酷に思えた。
でも、短い間でしか彼と居られないのに彼の事を少ししか知れないのも、酷く辛い。

黙ったオレに、どうした、とリカルド氏は笑う。ううんなんでもない、と言ってからふざけた語尾を付けた口調でくだらない話を始めた。
実にならない会話をしたかった。何にもならない会話を、出来るだけリカルド氏としたいから。女々しいな、なんて考えるのも飽きた。

暫くくだらない事ばかり話していたら、握ったままだった掌が引かれる。無理矢理リカルド氏の仰向けの体の上に跨された。
反射的に笑んで、唇を寄せる。楽しそうにくすくすと笑われ、つられて自分もまた笑みが零れた。
軽い口づけは、文字通り軽すぎて嫌いだ。どうせするなら互いの思考が目茶苦茶になるくらい深いのが良い。けどリカルド氏は所謂、雰囲気、とやらを重んじているから、一回目ではなかなかしてくれない。
何回か軽いのをして、それからオレがリカルド氏を煽って漸くリカルド氏が乗り気になる。それまで待つのは長いけど、好きだった。

ん、と声が漏れる。ようやっと気分の乗ったらしいリカルド氏に片手で後頭部を抑えられながら深い口付けをされた。
オレも両手をリカルド氏の後頭部に添えて、瞼を閉じて応える。ああ何も考えてないな、とか矛盾ながらも考えて、泣きそうになるのを堪えた。
いつ、こう出来なくなるのかな、なんて。窓の外で呑気に鳴く鳥の声を聞きながら、この先を求めて片手をリカルド氏の服に添える。
出来る時しないと、出来なくなった時に後悔するから。でもそうリカルド氏に言って誘ったってしてくれないだろうから、だからオレは毎度毎度、淫乱地味た性格なのだと開き直ってリカルド氏を誘う。
彼は気付いているかもしれない。けれど彼も、オレの誘いに乗った理性が本能に負けた男を演じた方が、今は辛くないと知っているのだろう。だから毎度乗ってくれる。

瞼を開けば、生理的に涙目になった視界で綺麗な色をした瞳と目が合った。なんとなくそれが可笑しくて、笑めば、一度唇が離される。額に唇を落とされ、触れるだけだかまた唇に口付けが行われた。

愛してるって言って欲しいな、なんて思いながらリカルド氏の服を脱がす。おい、と呆れたように咎められ、じゃあとばかりに自分の服を脱ぎ始めれば咎める声はなくなった。満足なのかな、とリカルド氏ひ見れば、考えたようにしながらオレの服を脱がしに掛かる。
珍しいな、と思いつつ、オレは脱がしてくれるリカルド氏に脱衣を任せながらなんとなくだが、「こういうカンジが好きなんだ」と呟く。
こういうカンジってどういうカンジだ、と返された。両手を上げるよう促され、両手を上げて顔から服を脱がされながら考える。

「こういう…ぐだぐだにセックスに雪崩込むカンジ?」

「…風情も何もありはしない言い回しだな」

「んー…」

曖昧にそうかな、と笑えば、額に触れるだけの口付けをされる。少し擽ったくて、くすりと笑えば、リカルド氏も笑った。

「俺はお前の笑顔が好きだ」

ぽつり、と言われて下げていた自分の目線が勢いよく上がる。珍しい物言いだったから。
発言した本人も、驚いたように口元を横にした拳で抑えていた。

「………」

「………そっかー…」

茶化すべきかな、とニッコニッコ笑って見せる。リカルド氏は一旦は笑って見せたが、すぐに真面目な表情になってしまった。ああほら眉間にシワ出来てるよ、なんて考えてから、目線に入った自分の脱いだ服を掴んでベッドの下へ落とす。

「……あと」

「ん?」

「お前の背中が好きだ。白くて細い」

「え」

あれ。何言ってるんだこの人。じ、とリカルド氏を見れば、また「あと」と話を始める。
リカルド氏、と情けなく止めに入るが、リカルド氏は止めずに「その目も好きだ」と言う。
極めて真面目な表情だったから、オレは泣きそうになった。

そういう事は後で辛くなるから言わない。が暗黙の了解だった筈だ、と一人混乱する。
髪も好きだと言われた頃にはもう泣いていた。


「伝えられないのは辛いんだ」

悪い。独りよがりだ、と笑って、リカルド氏は泣き崩れたオレを抱きしめる。
ずるい。ずるい。ずるい。なんだっていきなりそんな。オレだってリカルド氏の指も髪も声も目も全部好きだ、愛してる。けど言っちゃいけないって雰囲気だったから。畜生、ずるい。

すぐ近くに別れがあるのにどうしてそんな苦しくなる事言うんだ、馬鹿。嗚咽を堪えてリカルド氏を見上げれば、また額に口付けられる。

「オレは」

「ん?」

「……その軽い口付けも、全部」

ひぐ、と堪えていた嗚咽が漏れる。愛してるから、と必死に繋げて言えば、またぎゅーっと抱きしめられた。





色々考えてるハスタと我慢の出来ないリカルド氏。
別れが辛い二人は二人共セフレ気分でいたかったのに、二人共恋人になりたくなっちゃった。みたいな。

記憶喪失シリーズ前のリカハスはこんな感じです。むしろこれかな。
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