かやぶき古民家から始まる能登復興 「東日本」を教訓「町の将来を決めるのは被災者自身」

能登半島地震からの復興を考える集まり。かやぶきの古民家で車座になった=1月20日、石川県輪島市
能登半島地震からの復興を考える集まり。かやぶきの古民家で車座になった=1月20日、石川県輪島市

能登半島地震からの復興への歩みが、石川県輪島市の里山にあるかやぶきの古民家から始まった。人口減少と高齢化が進む過疎地域での地震災害。被災した人々は車座になって地域の将来を話し合い、支える人々は新たな復興像を描く。そこには平成23年の東日本大震災の教訓を生かしてほしいとの、震災経験者の思いも重なっていた。

東北から来た青年

1月20日、築170年以上のかやぶきの古民家で、30人ほどが車座になった。

輪島市の内陸部、三井地区。東日本大震災で被災した宮城県石巻市の阿部晃成さん(35)が支援に駆けつけ、「東北の経験を正直に伝えて、少しでも能登の復興のお役に立ちたい」と語り始めた。

東日本の復興では、国が主導する高台集団移転と巨大防潮堤の建設が行われた。阿部さんの故郷、雄勝(おがつ)地区でも数百億円の予算と7年の時を費やして高台に住宅地が造成された。その間、震災前に4千人いた地区の人口は1千人まで減った。

現在、宮城大の特任助教として復興政策を研究している阿部さんは「今、皆さんは2次避難や仮設住宅の段階だが、いずれどんな復興を目指すのかというタイミングが来る。そのとき、町の将来を決めるのは皆さん自身です」と話し、こう訴えた。

「復興まちづくりは本来、住民側からのボトムアップであるべきもの。国や県が決めた、『上』から降ってきた住民の望まない復興は、失敗する。皆さんには私たちの轍(てつ)を踏まないよう、よく考えてほしい」

聞いていた参加者から質問や意見が相次いだ。

「なぜ行政に声が届かなかったのか」「地域づくりのリーダーはどうやって出てくるのか」「何年かかるか分からないが、ここで再興していきたい」…。

若手の男性が言った。

「いつまでも『避難民』ではいられない。復興のために、年代の違う横のつながりを広げたいが、どうすればよいのか」

石川県は6月までに具体的な復興計画を策定する方針としている。

「住宅展示場」のような高台移転

今回の地震災害は、奥能登という過疎と高齢化が進む地域を襲った。被害が甚大な輪島、珠洲両市や能登、穴水両町は、2050年までに住民が半減すると推計されており、予測を上回る早さで人口減少が進む恐れがある。一方で、過疎地域の農林水産業や伝統産業は事業承継など難題を抱えている。

1月29日、東京・八重洲のイベント会場。珠洲市の日本海側にある真浦(まうら)地区で令和2年から、循環的で持続可能な生活を実践するグループ「現代集落」(林俊伍代表)の集まりが開かれた。過疎地域の限界集落を現代集落へ再生したいという、若い世代が中心となった活動だ。

「現代集落」の集まり。背後の写真は奥能登の農耕儀礼「あえのこと」の様子=1月29日、東京都中央区
「現代集落」の集まり。背後の写真は奥能登の農耕儀礼「あえのこと」の様子=1月29日、東京都中央区

集まりでは、活動の一員で、金沢市で建築設計事務所などを営む小津誠一さん(57)が、東日本大震災で宮城県気仙沼市の高台集団移転事業を支援した経験から「東北では広大な防潮堤に守られた『住宅展示場』のような宅地ができたが、集落の独自性や魅力への配慮は足りなかった」と指摘し、こう語った。

「災害復興で行政はスピードと量、そして平等性を重視しがちだが、今回の復興では、そうした『質』への配慮を怠ってはならないのではないか」

現代集落は、食べ物やエネルギーなど地域資源を循環させる「オフグリッド」な生活を目標としているという。オフグリッドは主に電力に使われる用語で、送電網(グリッド)につながっていない、いわば「自給自足」の状態を指す。

経済合理性だけでよいのか

社会課題の解決を目指すベンチャー企業への投資会社「ユニバーサルマテリアルズインキュベーター(UMI)」(東京)の木場祥介代表(43)は1月27日、羽田―能登便の再開第1便で輪島へ向かった。東日本大震災の際、岩手県大槌町でボランティア活動を経験した縁からだった。

木場祥介さん
木場祥介さん

輪島市東部の日本海側にある町野町地区を訪れたものの、「道路が寸断され、自衛隊が応急処置をしてくれて通れるようにはなってはいたが、車で20分の距離が迂回のため1時間半かかった。港湾は隆起し、漁船は出せても漁の帰りは喫水線が下がって入港できないとの話にショックを受けた。断水も深刻を極めていた」。

訪ねた避難所で、ドラム缶型の手洗いスタンドを目にした。断水時でもきれいな水を循環させられる装置で、小規模で自律分散型の水循環システムを手がけるスタートアップ(新興企業)「WOTA(ウォータ)」(東京)が開発した。いわば「水のオフグリッド」だ。

こうした社会課題解決への貢献が期待される最先端技術は「ディープテック」と呼ばれ、国も支援を始めている。

木場さんは「投資家の目からみれば、『過疎地の復興に多額の税金を投入すべきか』といった議論が語られるのも無理はないところもある。だが、社会課題の解決を経済合理性だけで判断して本当によいのか」と問いかけ、こう続けた。

「国が通常のインフラ復旧に投資できないなら、テクノロジーで解決できないか。たとえば町野町地区や現代集落の真浦地区が、水や自然エネルギーなどオフグリッド技術の実証拠点となれば、過疎地の復興モデルになり得る。それは人口減少が進むわが国で、能登だけの課題ではないはずだ」

地震発生1カ月の2月1日、石川県の馳浩知事は記者会見で「創造的復興に取り組む」と述べた。阪神大震災や東日本大震災でも掲げられたスローガンだが、本当の意味での創造的な復興とは、どんなものか。

輪島市では、かやぶき古民家での車座がきっかけの一つとなり、日本海側の深見町地区の住民約40人がさっそく2次避難先の同県小松市の公民館へ集まり、復興についての勉強会を開いた。住民たちは、仮設住宅を建てる用地不足について知恵を出し合った。

車座の集まりには、名前がついた。「能登を支える東北の会」という。

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