7月21日投開票の第25回参院選で、与党の自民、公明両党は改選過半数を上回る71議席を獲得した。ただ、非改選と合わせ、憲法改正に前向きな「改憲勢力」は国会発議に必要な3分の2には届かなかった。安倍晋三首相は9月に内閣改造・党役員人事を実施し、改憲などを見据えた陣を敷く構え。10月には消費税増税も控える中、企業経営者ら経済人は今回の結果についてどう受け止め、どんな政策を期待しているのか。

参院選の結果をどのように受け止めていますか。

キヤノンの御手洗冨士夫会長CEO(以下、御手洗):与党が過半数を獲得して安定政権が続くことは大変よかったと思う。大多数の国民が安倍政権の経済政策や外交政策などについての実績を評価した結果だと解釈している。

安倍政権のどの実績を特に評価していますか。

御手洗:まず経済政策だ。アベノミクスによって失業率は大幅に下がり、国民の所得も増えた。株価も上昇した。

<span class="fontBold">御手洗冨士夫(みたらい・ふじお)氏</span><br />1935年生まれ。61年中央大学法学部卒、キヤノンカメラ(現キヤノン)入社。95年社長。2006年の日本経済団体連合会(経団連)会長就任を機にキヤノン会長に。12年キヤノン会長兼社長。16年から現職。(写真:都築 雅人)
御手洗冨士夫(みたらい・ふじお)氏
1935年生まれ。61年中央大学法学部卒、キヤノンカメラ(現キヤノン)入社。95年社長。2006年の日本経済団体連合会(経団連)会長就任を機にキヤノン会長に。12年キヤノン会長兼社長。16年から現職。(写真:都築 雅人)

外交での日本の立ち位置は戦後最高

 それから外交も評価する。安倍首相は世界の首脳の中でも主導的な立場にあり、世界における日本の存在感は戦後の歴史の中で最高の状況にある。

参院選の結果を受けて政権に期待していることは何でしょうか。

御手洗:第1に、貿易の拡大だ。

 1989年のベルリンの壁の崩壊以来進んできたグローバリゼーションの副作用として、アンチグローバリゼーションが顕著になっている。ヒト・モノ・カネが自由に動く自由貿易が広がった影響で世界は豊かになった。

 その一方で先進国に安い労働力が流れ込んで労働問題が起こり、ブレグジット(英国の欧州連合離脱)やフランスの騒動につながった。米トランプ大統領が唱える「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」もその1つだ。

 日本は長期安定政権で、安倍首相に対する世界からの信頼も厚い。アンチグローバリゼーションによる経済の分断を修復するリーダーとしての役割を果たしていただきたい。具体的には、TPP11(米国を除く11カ国による環太平洋経済連携協定)を土台として、中国などを含めたRCEP(東アジア地域包括的経済連携)へと歩を進めていく努力を期待している。今のアジアの状況を考えると簡単ではないが、ぜひその方向に進んでほしい。

企業経営に関わる政策についてはいかがでしょう。

御手洗:裁量労働制の対象拡大も期待したい。一連の「働き方改革」の取り組みでワークライフバランスの問題については一応の決着がついたのではないか。非常によかった。しかし、産業の競争力強化を考えると、働き方改革だけでは不十分だ。

 米国や中国などには、まなじりを決して先端技術の開発に血道を上げている若者がたくさんいる。そうした企業と競争していく上では、結果重視である裁量労働制の拡大が欠かせない。そうでなければ日本の産業は世界に後れをとるだろう。労働時間については、月ごとの残業時間などを厳格に管理するのではなく、心身の健康に留意しながら年間などの長期間でバランスを取るべきだろう。

学術研究への国家投資には「選択と集中」を

産業競争力の強化のために他に期待していることはありますか。

御手洗:学術研究に対する国家投資の拡大だ。今のように均一に予算を配分するのではなく、学術研究のための選択と集中という考え方を取り入れた上で投資を増やしてほしい。

 第1次の大学改革をやったが、さらに踏み込むべきだ。日本の底流には平等主義があるが、すべての大学に平等に予算を配分しても突出した成果は生まれない。大学を再編したり、分野ごとに何校かに絞って重点的に予算を与えたりするといった選択と集中で、日本の科学技術のけん引役を作っていくべきだ。優秀な人材も集めやすくなる。

御手洗さんはかねて道州制の導入を推奨しています。

御手洗:道州制はやるべきだと思っている。東京の一極集中は防災上のリスクが大きいし、狭い国土を狭く使っている問題もある。その解消の手段として道州制が有効だ。

 日本を10個ぐらいの地方に分けて予算規模を大きくし、地方の責任で地方を開拓していくというのが道州制の考え方だ。外交や司法など国家が受け持つべきことは国家が担うが、行政のほとんどは地方に任せる。交付金制度をやめて地方に徴税権を持たせるなど独立性を認めることで、地方創生をより効率的に実現できるはずだ。

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