アブストラクト


不時着(前) /京+クロ、現パロ

 

不時着

(前)

薄明るいアパートの一室に棲んでいるのは、頼りなげな色の白い男だった。青みがかったアイスグレーの長い髪がだらりと顔の前にかかっている。
鬼柳京介は近頃2年と8か月の服役を終えて刑務所を出たばかりで、今は定職もなく日がな部屋で過ごしている、らしい。過ごしているのだろう。誰も彼のことをよくは知らないのだから。

交錯するのは白い光ばかりで、いつも鬼柳の目は伏し目がちでどこを見ている風でもなく、

 

 

 


窓の外に向けられたり、スイッチの入っているだけのテレビ画面の方向を向いていたりする。

 

再び社会の中へ放り出された鬼柳を保護したのは古くからの友人の一人であったクロウ・ホーガンであった。人一倍面倒見のいい彼は時々この部屋を訪ねに来る。心配なのだろう。料理をこしらえてやったりと色々世話をしにくる。鬼柳も家事が出来ないわけではないので「大丈夫だって」といって苦笑するのだが。

 

 

「クロウ」
「よぉ、やってんな」
表通りから少し道を入った自動車整備工場では、クロウ・鬼柳の共通の友人である不動遊星が働いている。働き者の彼は今日も顔を古い油で真っ黒にして、軽自動車のエンジンルームをいじっている。


「配達は終わったのか?」
「午前の便はな。後は集荷して戻るとこ」
「クロウは仕事が早いな。バイクの調整、していくか」
「いいって。仕事あんだろ。続けろよ」
そうか、と言って遊星は作業を再開する。クロウは工場の作業員に声をかけられ軽く挨拶を交わす。すっかり顔なじみである。


「鬼柳は」
バルブ交換を終え、工具を片づけながら遊星は聞いた。クロウが時折ここへ寄るのは、鬼柳の現状を知っておいてもらいたいクロウの心情もあってのことだと、遊星は感じ取っている。
「最近の様子は…、元気なのか」

「ああ、相変わらずってやつ」
「そうか」
「早く仕事決めろって言ってんだがよぉ、ふわふわしやがって――」
「あまり心配しすぎても良くないぞ、クロウ」

「まぁ、な」

 


相変わらず

相変わらずではないのだが。


本当に、以前の鬼柳は大きい声を出して、常に前を見ている男であったのだが。
彼の見る希望や目標を、自分も見てみたいと思わせる男であった。
現実の中の夢に向かってその腕を伸ばし続ける。




変わりすぎたのだ。








→(後)



06/16 01:38
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