僕は寒さに弱い。
今思い返すと、冬は家や漫画喫茶など屋根のあるところで過ごしてきた。
しかし、路上生活者はそうはいかない。
僕が警備員をしていた頃、推定55歳のAさんに出会った。
Aさんは路上生活と健康ランド生活を繰り返していた。
住所不定のまま日雇いを繰り返し、その日は道路工事をしていた。
お昼の休憩時間に仲良くなった。
『冬の仕事帰りは寒くてな、それで酒を買っちまうんだ。
ワンカップ飲んでもうワンカップ・・・歯止めが利かねぇんだ。
結局、日銭は酒とつまみに消えちまう。そのまま野宿だよ。
寒くて寝られない。健康ランドに行くために日雇いしたんだけどな。
仕事が無いとか、金が無いとか小さい問題なんだよ。
本当に辛いのは冬だ。冬は路上生活者にとって地獄なんだ』
3日間の道路工事が終わり、Aさんとは会うことは無かった。
当然と言えば当然だろう。
最後の3日目の昼休みにAさんはコーヒーを飲みながら言った。
『どうせ死ぬんだから好きに生きたほうがいい。
俺は辛い人生だが、それでも面白いことはあるよ』