でてくるひとたち


sit alone, talk to the moon...


お久しぶりです。ねえ、わたしのこと、覚えていますか?なんて。

いろいろあったのです。

でもできれば、何事もなかったようにまたつらつらと更新したい。できれば。





駅前のロータリーでゆうの車を見つける。いつもいつも馬鹿みたいに嬉しい気分になってしまう。それを悟られないように、ゆっくりと空気を吸い込んで。


助手席のドアを開けると、いつものごきげんな口もとで、ゆうが鞄を受け取ってくれる。

「友だち、もう大丈夫なん?2次会、行かんくてええの?」

車を発進させながら、ゆうが聞く。

「大丈夫。また近いうちに会うから」

ゆうに早く会いたかったんだよ、なんて、言えないよね。


ゆうは、運転なんて呼吸するのと同じって言いながら、いつもどこへでも連れてってくれる。行き先が決まっていなくても、知らなくっても、不安になったことはない。

しばらくするとゆうが言い出す。

「キャビンに行くことにしょうと思ってな、今日は」

って。

「キャビン!作ったってゆうた小屋のこと?」

「そや」

ゆうがいたずらっ子みたいに笑う。小屋を自分で作る人なんて、これまでのわたしの人生の中で、誰ひとりもいなかったよ。面白いひと。

キャビンを作った話は前々から聞いていた。でもね、そこに連れてってくれるなんて思っていなかった。だって、今も本当の名前すら知らないんだよ、お互いに。なんだか不思議な感覚。恋人の親に会うみたいな気分。ちょっと緊張して、でも嬉しくって。


キャビンのすぐ横に車を停める。それは昔行ったコテージを思い出すような小屋だった。簡素な造りなのだろうけれど、温かみがある。時間は多分、日付が変わる頃。月がとても明るい夜だった。夕立があったからか、空気はひやりとして、懐かしい匂いがする。限りなく静かな場所で、虫のなく声と自分たちの足音だけが聞こえた。

「ゆう」

車を降りて、ゆうの腕に軽く触れる。馬鹿みたいに嬉しくなっているのを、悟られないように、つとめて落ち着いたように呼びかける。

「ん?」

「これ、好きかもしれん」

「ええやろ?感想は中入ってから言えて」

ゆうが楽しそうに答える。


ドアは小さな音を立てて開いた。一歩中に入ると、なんとも心地のいい広さで、かすかに木材の匂いと、埃の匂いがした。電気はつけていなかったのに、窓から射す月明かりでカウチとまきストーブが見える。


後から入ってきてドアを閉めたゆうが、わたしのすぐ後ろに立つ。それから肩に腕が回ってゆるく抱きしめられる。そっと鞄を足元におろした。

髪についているであろう煙草の匂いを気にしつつ、目を閉じる。口もとがゆるむ。幸い、ゆうは後ろにいるから見られずにすむね、なんて思いながら。ゆうの腕はあったかくて、幸せな眠気を誘う。


ゆう、会いたかったよ。いつも重低音のように、その思いはわたしの生活の底に存在する。燃えるような激しさはなく、それでも途切れることなく。


目を閉じたまま、少し埃っぽいキャビンの空気を胸に吸い込む。


08/18 02:31
ぶっくまーく






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