でてくるひとたち
sit alone, talk to the moon...
お久しぶりです。ねえ、わたしのこと、覚えていますか?なんて。
いろいろあったのです。
でもできれば、何事もなかったようにまたつらつらと更新したい。できれば。
◇
駅前のロータリーでゆうの車を見つける。いつもいつも馬鹿みたいに嬉しい気分になってしまう。それを悟られないように、ゆっくりと空気を吸い込んで。
助手席のドアを開けると、いつものごきげんな口もとで、ゆうが鞄を受け取ってくれる。
「友だち、もう大丈夫なん?2次会、行かんくてええの?」
車を発進させながら、ゆうが聞く。
「大丈夫。また近いうちに会うから」
ゆうに早く会いたかったんだよ、なんて、言えないよね。
ゆうは、運転なんて呼吸するのと同じって言いながら、いつもどこへでも連れてってくれる。行き先が決まっていなくても、知らなくっても、不安になったことはない。
しばらくするとゆうが言い出す。
「キャビンに行くことにしょうと思ってな、今日は」
って。
「キャビン!作ったってゆうた小屋のこと?」
「そや」
ゆうがいたずらっ子みたいに笑う。小屋を自分で作る人なんて、これまでのわたしの人生の中で、誰ひとりもいなかったよ。面白いひと。
キャビンを作った話は前々から聞いていた。でもね、そこに連れてってくれるなんて思っていなかった。だって、今も本当の名前すら知らないんだよ、お互いに。なんだか不思議な感覚。恋人の親に会うみたいな気分。ちょっと緊張して、でも嬉しくって。
キャビンのすぐ横に車を停める。それは昔行ったコテージを思い出すような小屋だった。簡素な造りなのだろうけれど、温かみがある。時間は多分、日付が変わる頃。月がとても明るい夜だった。夕立があったからか、空気はひやりとして、懐かしい匂いがする。限りなく静かな場所で、虫のなく声と自分たちの足音だけが聞こえた。
「ゆう」
車を降りて、ゆうの腕に軽く触れる。馬鹿みたいに嬉しくなっているのを、悟られないように、つとめて落ち着いたように呼びかける。
「ん?」
「これ、好きかもしれん」
「ええやろ?感想は中入ってから言えて」
ゆうが楽しそうに答える。
ドアは小さな音を立てて開いた。一歩中に入ると、なんとも心地のいい広さで、かすかに木材の匂いと、埃の匂いがした。電気はつけていなかったのに、窓から射す月明かりでカウチとまきストーブが見える。
後から入ってきてドアを閉めたゆうが、わたしのすぐ後ろに立つ。それから肩に腕が回ってゆるく抱きしめられる。そっと鞄を足元におろした。
髪についているであろう煙草の匂いを気にしつつ、目を閉じる。口もとがゆるむ。幸い、ゆうは後ろにいるから見られずにすむね、なんて思いながら。ゆうの腕はあったかくて、幸せな眠気を誘う。
ゆう、
会いたかったよ。いつも重低音のように、その思いはわたしの生活の底に存在する。燃えるような激しさはなく、それでも途切れることなく。
目を閉じたまま、少し埃っぽいキャビンの空気を胸に吸い込む。
△ ・・TOP・・ ▽