パソコンつけるの面倒なのでメモで失礼します!(死)
珍しく定時で終わった授業。
友達と別れて一人、パンを片手にやってきた広大な庭の片隅。
たまに一人になりたい時は、たいてい大きな桜の下。今は葉が落ちて秋空を枝が切る。
でも今日は自分より少し高さがある深緑、独特の甘い芳香。
何となくそこいらにたまっている落ち葉を座れるように集める。
『…秋だなぁ』
芳香が降る。木漏れ日のような花が降る。
この木が花を付けると、気温の変化以上に秋を思い知る。
パンを出したら猫が飛んできた。すごい色。
物欲しそうに見てきたので、ちぎって投げる。飛び付く。
ごろごろ。
そんなことを繰り返しながらパンを二つ食べ終えて、温んだ紅茶を口にした。
『…』
猫を撫でながら思う。
実家にも咲いていたな。
よじ登るには細い木だった。周りを駆け回って怒られたりもしたけど。
ぼんやりと、遠い秋を思い出す。
寝転んだ。いよいよ香りと花は降り注いで。
目を閉じる。
かさり、かさりと足音がする。自分は校舎とは反対側。
『わあ…』
変わる前の高い声。といっても俺も変わらないか。
でもきっと年下だろう。自分の学年はほとんど野太い声になっている。わざわざ起き上がるのも面倒なので見れないが。
『すごい香りだなぁ』
そしておそらく向こうは俺に気付いていない。
かさかさと落ち葉を寄せる音がするので、止まったところを見計らって同じように音を立てた。知らずにいたら気まずい。
今日はここを譲ってくれないか。
『誰…?!』
もっとごそごそやろうと思った時。
んなぁ
『猫!』
『?!』
掃除の時間に甘い香り。
人が作ったわけではないのに強いその香りは、受け持った掃除場所のすぐ近くにあるきんもくせいだった。
『今日どーする昼。食堂もう座れないだろ』
『悪い、ちょっと用事あって』
『そうなん?じゃあ教室でいい?マラカ』
『おう』
仲間の誘いを断って。パンと紅茶を買ってやってきた。
自分より少し背が高くて、でも足元近くまで葉が繁ってる。
『わあ…』
近くまで来ると目につく小さな花。
『すごい香りだなぁ』
座るものなんて無いので、落ち葉を集める、毎日掃除してるのに、なぜこうも溜まるのか。
クッションのように丸く敷き詰めて、座ろうと手を離した時。
かさかさ。
『誰…?!』
自分のものではない音に顔を上げる。風はないし、何か…
んなぁ
『猫!』
現れたのは猫だった。なんだかすごく混ざった色をしているけれど、久しぶりに見る動物だ。
実家の犬は元気かな…
ごろごろと擦り寄ってくる。僕の手にあるパンが欲しいのだろう。
『ほら』
ちぎって目の前で動かすと飛びついてきた。
一口で平らげて、もっとくれと見上げてくる。
『まだ欲しいの?食いしん坊だなぁ』
出したらがつがつ食べている。
『お腹減ってたんだねぇ』
撫でながらパンをかじる。
はらりと落ちる、小さな花。
食べているパンの味がわからなくなるくらい甘い香り。
『…実家にもね、咲いてたんだ』
食べ終えた猫はごろごろ。
『上って怒られたなぁ…』
んなぁ。
『…帰りたいな』
ごろり。
夏休みは帰った。でも早くも冬休みが待ち遠しい。
そしたら実家のきんもくせいは見れないなぁ…
ごろごろ。
『あんまり触って、リンに吠えられないかな。リンっていう犬がいてね』
あごの下を掻くと気持ちよさそうにお腹を見せる。
『…勉強、頑張らなきゃな…』
そのためにここに来たんだから。目がにじむ。
ぶわっと風が吹いて。涙をぬぐう。
風に舞う落ち葉の音。
かさかさぱりぱり。
まるで人が歩いてる音みたいだ。
『はあっ!はあっ!』
強い風が吹いてよかった。あれくらいなら動いてもわからないだろう。
カップを捨てた。
『…ホームシックか』
窓から仲間が顔を出す。
『ルビー!そろそろ準備しよーぜー!』
『おう!』
階段を駆け上がる。
『ど?決まった従騎生』
『…まだ』
『早くしなきゃあ〜、つっつかれてんだろ?』
『そうだけどさぁ…』
『いい奴いないの?』
『いない』
『ズバッというなぁ』
あんな下心丸出しの連中なんて相手にするくらいなら研修…は、行きたい、です。
『…』
でもさっきのみたいな奴だったら、素直そうでいいかもなぁ。
二人が出会う少し前の話。
end