(6からの続き)
奥芝商店のスープカリーは、本当に美味しかった。
具の揚げた野菜も美味しかったし、ライスをスープカリーに浸して食べるのも良かった。
あまりの震災ショックで味なんぞわかるだろうか、と不安だったが、思っているよりは冷静だったのかもしれない。ただ、
『せっかく帰れないなら札幌での時間を思いっきり楽しんでしまえ!てへぺろ♪』
と、現実から逃避しようとしている自分がそこにはいたのかもしれない。
店を出て、宿に向かう前に遠回りして皆でススキノ方面に向かった。
すると路面電車が走行しているのが見えたので、乗って街の中心地に行ってみる事に決めた。
もう足がパンパンで歩きたくないというのもあったのだが。
ススキノで電車は終点を迎えた。
電光掲示板では震災のニュースが慌ただしく流れている。
でも、やはりススキノはススキノ。テレビで見た、あのススキノのイメージどおり。
宿へ歩いて帰る途中、きらびやかな街の灯で自分を見失いそうな感覚に包まれた。仲間達は『飲み直す』と言い遺し、街の闇に吸い込まれて消えた。
どうして俺はついていかなかったんだろう。
酔いが醒め始める頃、ある真実に辿り着いた。
『お金が乏しい、ただそれだけの事じゃないか』
長い時間をかけて宿に着き、倒れるようにベッドにダイブした。
もう少ししたら風呂に入ろう…テレビはどうしよう…見れば見るほど暗い闇に堕ちていくばかりのような気がしてならなかった。
東京には兄家族がいる。東京も地震に襲われて一部建物被害が出ているらしい。交通機関は麻痺してしまって帰宅困難者がたくさん発生してるみたいだ…
通信が不通なのが一番切なかった。
いろんな不安を抱えながら、疲れに襲われ不意に眠りに堕ちた。こうして俺の長い長い3.11は終わった。
この頃、福島第一原発の1号機がついに炉心熔融に至ってしまっていたのも知らずに。
そこに見えない凶悪な悪魔が確実に育っていた。
札幌旅行の2日目以降も、市内散策したり、キリンビール園で蟹と羊の酒池肉林をしたり、仲間の【札幌在住の釣り友達】の送迎で江別市の喫茶店で水出しコーヒーをゴチになったりとイロイロあったのだが、詳細は省く。
ススキノには魔物が住んでいたとかいないとか。
グッバイ、河島英五。
(終)
話題:東日本大震災
12.3.13 23:56 Tue
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