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清浦刹那(山本華)の情報

きっと困っているのでしょうね」
ひょっとしたら、佐々刑事は、火星へついたはいいが、そこで一命をおとしたのではないかと、千二は、そこまで思ったけれど、それは言うのをひかえた。新田先生が、また心配をするといけないと思ったからであった。
「先生、地球はどうなったでしょうね。それから、大江山隊は、どうしたでしょうね」
「おお、そのことだよ。火星へいくことばかりに気をとられていて、地球のことは、わすれていた。大江山隊は、どうしたろうなあ」
そこへ、博士がはいって来た。
「なにを話しているのか」
「大江山隊のことを思い出して、心配していたところです」
「ああ、大江山突撃隊のことか。あれなら心配なしだ」
「はあ、心配なしですか。どうなったのか、博士は、ご存じですか」
「大江山隊は、とうとうがんばって、火星の宇宙艇群を撃退したよ。わしはちゃんと、それを見て知っている」
「博士はいつ、それをごらんになったのですか」
大江山突撃隊が、火星兵団を撃退したのを、博士が見たというので、新田先生がふしぎがった。
「わしは、そういう大切なものは、けっして見おとさないよ。君のように、いつもびくびくはらはらしていたのでは、すぐ目の前に起きていることさえ、気がつかんだろう」
博士は、先生にとって、いたいところをついた。だが博士と先生とを、一しょにして言うことは、先生がかわいそうである。博士はなにもかも知って知りぬいているし、新田先生は、知らないことばかりにぶつかるので、平気にとりすましてはいられないのである。千二となると、この少年は、なまじなんにも知らぬだけに、かえって先生よりも、ずっと楽な気持でいた。

麻田マモルに関する情報

日本時間で言えば、その日の真夜中のことであるが、ロンドンとベルリンとから、同時に、驚くべき放送がなされた。
ロンドンでは、時の王立天文学会長リーズ卿がマイクの前に立ち、また一方、ベルリンでは、国防省天文気象局長のフンク博士がマイクの前に立った。
この二人の天文学の権威ある学者は、一体何をしゃべったのであろうか。不思議なことに、二人の話の内容は、はんこで捺したように同じであった。違っていたのは、
「わが英国民諸君、および全世界の人類諸君よ!」
というリーズ卿の呼びかけの言葉と、
「わがドイツ民族諸子、および全世界の人類諸君よ!」
というフンク博士の呼びかけの言葉だけだった。
「ああ、諸君。本日ここに、諸君を驚かすニュースを発表しなければならない仕儀となったことを、予は深く悲しむものである。諸君よ、諸君が今足下に踏みつけている地球は、遠からずして、崩壊するであろう。従って、わが人類にとって一大危機が切迫していることを、まず何よりも、はっきり知っていただきたい」
と言って、ここで講演者は言いあわせたように、しばし言葉をとどめ、
「なぜ、われわれの地球が崩壊しなければならないか、それを語ろう。わが太陽系は、非常な速力を持ったモロー彗星の侵入をうけている。われわれは、本日念入な計算の結果、わが地球が、このモロー彗星との衝突を避け得ないという、真に悲しむべき結論に達した。われわれは、直ちに善後策の研究をはじめたが、如何なる有効な損害防止方法が発見されるか、それは神のみ知ることである。ちなみに、モロー彗星との衝突は、来る四月の初である」
講演者の声はふるえていた。
ロンドンとベルリンとからの驚くべきニュース放送は、まだつづいた。
「われわれは、近くこの対策について、国際会議を開くつもりで、もうすでにその仕事を始めた。八十億年のかがやかしい歴史の上に立つわれわれ地球人類は、今こそあらんかぎりの智力をかたむけて、やがて来らんとする大悲劇に備えなければならない!」
マイクの前の講演者は、ここで、一きわ声をはりあげた。
「われわれは、決して、悲しんでばかりいてはならないのだ。この非常時において、何かのすばらしい考えが飛出さないものでもない。そうして、大悲劇をいくぶんゆるめ、たとい地球が崩壊しても、幾人かの幸運者は、後の世界に生残るかもしれない。われわれのゆく手は、全く暗黒ではないと思うから、この放送を聞かれた方々は、大いに智慧をしぼり、いい考えが出たら、私のところへお知らせねがいたい。お知らせ下さった避難案は、われわれの会議にかけ、よく研究してみるであろう」

コーネリアンタウラスへの見解

「ほんとうの美はそんな固定した化石した模型のようなもんじゃないんです。対称の法則に叶うって云ったって実は対称の精神を有っているというぐらいのことが望ましいのです。」
「ほんとうにそうだと思いますわ。」樺の木のやさしい声が又しました。土神は今度はまるでべらべらした桃いろの火でからだ中燃されているようにおもいました。息がせかせかしてほんとうにたまらなくなりました。なにがそんなにおまえを切なくするのか、高が樺の木と狐との野原の中でのみじかい会話ではないか、そんなものに心を乱されてそれでもお前は神と云えるか、土神は自分で自分を責めました。狐が又云いました。
「ですから、どの美学の本にもこれくらいのことは論じてあるんです。」
「美学の方の本|沢山おもちですの。」樺の木はたずねました。
「ええ、よけいもありませんがまあ日本語と英語と独乙語のなら大抵ありますね。伊太利のは新らしいんですがまだ来ないんです。」
「あなたのお書斎、まあどんなに立派でしょうね。」
「いいえ、まるでちらばってますよ、それに研究室兼用ですからね、あっちの隅には顕微鏡こっちにはロンドンタイムス、大理石のシィザアがころがったりまるっきりごったごたです。」
「まあ、立派だわねえ、ほんとうに立派だわ。」
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