2008年8月6日 15:54
六は23題《3.善法寺→食満》<仙,伊> (キサキ)

こちらのサイト様から素敵なお題をお借りしました。

登場キャラ:伊作+仙蔵。

お題その2の『食満→善法寺』と同時間軸です。
伊作がちょっと病み気味かもしれない。そして暗い。

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3.善法寺→食満



 あぁ、だから雨の日は嫌いなんだ。
 暗くって。じめじめして。雨音はあんなにも耳に響いて煩いというのに、でもどこか静かで。
 不安感を煽るだけ煽る。


「遅い…」

 この部屋が暗いのは、天気の所為だけではない。太陽などとっくの前に沈んでしまった。
 学園中の生徒が寝静まる、そんな時間。
 予定の時間はゆうに過ぎている。

「この雨だ。今日はもう帰ってこないだろう」

 自分一人だと思っていた医務室に、何時の間にかもう一人。

「仙蔵」
「お前も寝たらどうだ」

 朝までここでそうしている気か、と続けられる声に、自分のような不安の色はない。そっちだって同じ部屋の彼がまだ帰ってきていないというのに。

「眠れないよ」

 眠れるわけがない。
 だって、彼がいない。まだ帰ってきていない。日が暮れるまでには帰ってくると、そう言っていたくせに。
 今日の朝、いつもの学園長の「おつかい」で、文次郎と留三郎の二人は学園を出ていった。あの二人が組まされたということは、それなりに危険な「おつかい」なのだろう。あの二人は、六年生の中でも最もプロの忍者に近い場所にいるのだから。
 あぁ、また不安感が募る。募る。

「不安で不安で。帰ってくるまで心配で眠れないよ」

 そう言って、伊作が余りにも力なく微笑うものだから。仙蔵は馬鹿なことを、と笑い飛ばすことも出来なかった。
 こういうときの伊作ほど、面倒なものはない。

「何を心配する必要がある。他の誰でもない、あの二人が組んでいるんだぞ」

 他の奴らよりもずっとずっと安心出来る、と続けられる仙蔵の言葉に、しかし伊作の表情が晴れることはない。

「ねぇ、仙蔵。仙蔵は文次郎が心配じゃないの?」
「だから今言っただろう。そんな必要はない、と。」

 そう、と伊作が呟いたきり、会話が一旦途切れる。外は相変わらずの土砂降りだ。雨音がする。しかし、部屋は静かだった。
 どれくらいの時間が経っただろうか。体感時間は長く感じられたが、実際にはそれほど経っていないのかもしれない。伊作が漸く口を開く。

「仙蔵は、文次郎のことを信じているんだね」

 だから心配じゃないのかな、と。その言い方に、何故か少し苛ついた。
 だったら、お前は。

「お前は食満を信じていないのか」
「信じてる。信じてるよ。信じてるつもり」
「なら」
「でも、こんなにも不安なのは……信じてなかったってことなのかな」

 また、途切れた。
 静かなのに、雨音が耳に煩い。

「信頼と。心配しないということとは、同義ではないだろう」

 ザアザアと。
 ザアザアと。

「信じているから、心配する必要がないんじゃないの?」

 あぁ、全てはこの雨の所為だ。

「信頼の仕方など人それぞれだろう。お前のそれは、ただの性分だ」

 早く止めばいい。そうして、早く帰ってくればいい。
 そうすれば、こんな会話をしなくても済む。

「大方この大雨の所為で立ち往生しているだけだろう。こんな土砂降りの中動き回る方が危険というものだ」

 あの二人ならそれくらいの判断、見誤ることはないだろう。それともお前はこの雨の中、二人に無理して帰ってきてほしいのか。雨が止み、日が上り、辺りが明るくなるまでは、多分もう帰って来まい。だから、早く寝てしまえ。
 仙蔵がそうまくし立てて。伊作はどこか遠くを見た。まるで、その視線の先に留三郎がいるかのように。

「それも頭では分かっているんだけどね。でも心配なんだから仕方ない。これが僕の性分だもの」
「……そうきたか」

 どうやら伊作は、どうあっても朝までここで待つつもりらしい。今日はもう帰ってこないだろうと知りながら、敢えてここで。

「僕には、ただこうしてすぐに傷の手当てが出来るよう、準備して待つことしか出来ないんだよ」

 それが徒労に終わろうと構わない。寧ろ終わってくれ、とさえ思う。
 怪我などしないで。ただ、無事に。

「勝手にしろ」

 ついに愛想を尽かせたらしい仙蔵が、立ち上がり戸に手を掛ける。部屋を出る間際、彼は背を向けたまま、一言だけ残して行った。

「ひとつだけ言っておく。お前がいるから、私たちは安心して傷を負えるんだ」
「それは、僕を信頼してくれてるということ?」

 ならば、そんな信頼なんかいらない。
 いらないから、誰も傷など負ってくれるな。
 いらない。
 いらない。
 要るのは、ただ。


「早く帰ってきてよ、留」


 ザアザアと。
 ザアザアと。

 耳障りな音は止まない。
 
 雨は、まだ止まない。



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つまり仙蔵は文次郎のことも留三郎のこともちゃんと信じてるんだね!という話(違)
何だかんだ言ってちゃんと伊作の相手をしてやる仙蔵はいい人です。でもそんな仙蔵のどの言葉も聞き入れようとしない伊作は、とてつもなく頑固者だと思う。

とにかく依存度の高い二人が書きたかったんだぜ…。
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