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夕陽色に染まる 暫定番外編2続き



最初は終始黙り込んでいたのが、一週間も経てばいろいろな話をするようになって。
イオンの話も、死霊使いの話も聞いた。
シンクにしては珍しく好意的だった人間が変わったという話は正直信じられなかったが、太陽を前にすればそれもそうかと思った。


本当に、太陽のようだったから。


髪の色ではなくて、傍にいるとなんだか暖かいのだ。
彼はシンクを「シンク」と知って会話してくれる。
イオンと間違えたシンクではなくて、一人のシンクと。



「つーかさ、お前もそんな不健康そうなもん食ってんのな」


「お前も?」



シンクの昼食はいつもコンビニのパンだ。
一方ルークはいつも手作りの弁当。
毎日自分で作っているらしい。
そして毎日二つ持ってくる。



「死霊使いもサケにぎりばっか食ってるから」


「げふっ」



思わず咳き込んだ。



「ちょ、おま、大丈夫かよ!?」



げほげほと咳き込むシンクをルークは心配そうに覗き込む。
背を撫でようと伸ばされた手は触れるか触れないかのところで彷徨っている。



シンクの言葉を気にしているのを、頭の冷静な部分が見つめていた。

ひとしきり咳をして、やっと落ち着いたシンクは、心配げなルークの腕を思い切り掴んだ。



「アンタ死霊使いと昼食べてんの!?」


「そうだけど」



その名を口にしておきながら平然としていられるルークの正気を疑う。


シンクは同じ生徒会役員として何度も顔を合わせているから、平気とまではいかなくても普通に接することができるけれど、一般生徒はそうはいかない。


彼はこの学園で最凶最悪と謳われる、できれば関わりたくない人物だからだ。


何故高校生が最凶最悪と謳われているのか。
疑問に思ってはいけない。
口に出そうものなら死霊使いに消されると言われている。



シンクにとっては、恐ろしくも少し気を許せる人物。



「怖いとか思わないわけ? アレの噂、聞いてないはずないんでしょ?」



シンクは必死に詰め寄るが、当のルークはきょとんとした表情を浮かべている。
なんで? と言いたげだ。



「それ、いっつも思ってんだけど。アイツのどこが怖いんだ?」


「……は?」



ルークの言うことが、理解できなかった。



「何か怖がられるようなことでもしたのか?」



夕陽色に染まる 暫定番外編2続き




「イオンに聞いた。双子の兄貴がいるって。僕にそっくりなんですよ、とか言ってたけど、あんま似てねぇよな」



ずごん。


また爆弾。
いや核兵器。
むしろ最終兵器。


10トンハンマーで脳を直接殴られたような感覚を覚えながら、シンクは頭を抱える。



「ボクがイオンに似てない?」



似ていると言われることは多かった。
イオンだと勘違いされ話しかけられることも多かった。
イオンとシンクの両方を知っている人でさえ、二人を混同した。


間違われることは耐え難い屈辱ではあったが、薄暗い快感でもあった。


二人の見分けもつかないバカな連中だと見下していなければ、シンクはシンクでいられなかったのだから。



それなのに、ルークはイオンに会ったことがあるとはいえ、イオンとシンクをきっぱりと見分けたのだ。



「うん。あんまっつーより、全然似てねぇかも。喋り方とかフインキとか、」



そこで言葉を切ると、ルークはシンクの髪に手を伸ばした。



「柔らけー。イオンより薄い色。目の色も薄いし」



細い指が大切そうに髪を梳く。
シンクの知らないぬくもりが降り積もる。


怖い、と思った。



「さ、触らないでよね!」



パシッと小気味良い音を立てて、手が弾かれる。



危険だ。
彼に関わるのは。



積み上げてきた何かが壊れる気がする。



「何だよいきなりっ!」


一瞬驚いたような顔をしたルークは憮然と怒鳴りつけた。



「人に触られるのは好きじゃない」



なのにその表情が寂しそうに見えたせいで、シンクは気がつけばそう口走っていた。
何かを取り繕うような早口だった。



「そ…か。じゃやめる」



ぽつんと言って、ルークは弁当を食べ始めた。
どことなく落ち着かない気分になったが、立ち去る気にはなれなくて。
シンクも持っていたパンを取り出して食べ始めた。


気まずい空気には慣れているはずなのに、今日はいつもと違う。
そんな気がした。






+++++






ルークと二人で昼食を食べるようになってから、もう一週間が過ぎた。




夕陽色に染まる 暫定番外編2


注意

○同名記事の暫定的番外編です。
○本編があまりに私の頭の中でまとまらないので、書きたいところだけ抜き出してみました(オイ
○本編が進んだら組み込むハズです、多分。
○単品で読める……と思います。
○完璧なる自己満です。


それでもいいって方はどうぞです。






太陽は嫌いだ。


暖かなその光は、決して自分にはそそがれないものだから。


陽だまりはいつも別の場所にあって、自分のものにはならない。
身代わりのこの身に与えられるのは、冷たく中身のないもの。
数秒後に生まれたはずの弟にはすべてが与えられたのに。
暖かい陽だまりを、持っているのに。


太陽は嫌いだった。


でも少しだけ、好きになってやってもいいかな、とそう思えたのはきっとーー彼らのおかげだ。







+++++






「イオン……じゃねーや。シンク、だっけ?」



太陽の色を宿した少年は、大事そうに包みを抱えてさらりと爆弾を落とした。
いや、爆弾どころの話ではなかった。
核兵器でも生温い。


それほど、その一言はシンクにとって衝撃だったのだ。



「……シンクだよな?」



混乱が頭を占めて言葉を返すことができない。
だから、太陽色の少年が手を掴んでも振り払えなかったのは、仕方のないことだ。
仕方ない、はずだ。



「ちょーどよかった。昼一緒に食おうぜ。死霊使いいなくて困ってたんだ」



裏庭の一画に座り、一つの包みを大事そうに置き、もう一つの包みを開く太陽。
シンクも隣に座らされ、美味しそうな弁当が開かれるのをぼんやりと見ていた。



「……ってそうじゃない。アンタ一体…」


「オレ、ルーク。ルーク・フォン・ファブレ」



ファブレの名に、シンクは無意識に眉を寄せる。
ルークと同じ太陽の色合いを持つ生徒会長はシンクの大嫌いな人物の一人だ。



「お前はシンクだろ。シンク・ダアト」


「なんで知ってるの。ボク、アンタに会った覚えないんだけど」



アッシュと同じ色。
大嫌いな太陽の色。


会っているのなら、嫌でも覚えている。



しゃっくりくりくり繰り返す



「……ぅくっ」



突然、ルークが奇妙な声をあげた。



「ルーク? どうしたの?」



アニスが心配そうに尋ねるが、声をあげた本人も自分が奇妙な声を出したことがわかっていないらしい。
首を傾げては、また声をあげた。



「ルーク、もしかしてしゃっくりとか?」


「しゃっ……っく、り、っ?」



アニスがふらふらと近づいて来て、ルークに抱きつく。
わけがわからない、といった表情のルークに、アニスは玩具を手に入れた子供のような笑顔を浮かべた。



「そーそー、しゃっくり。知ってる? しゃっくりって、100回言ったら死んじゃうんだよ〜」


「マ、ジ、っで?」



しゃっくり混じりにルークは聞き返す。
ここでティアかガイあたりに聞いておけばよかったのだが、幸か不幸かティアもガイもおらずジェイドに疑問をぶつけてしまって。
瞬時に胡散臭そうな笑みから面白そうな笑みに笑顔をすげ替えた大人は、子供の疑問に優しく答えてやる。
あくまで、表面上だけは。



「そうですねぇ、そういった事例もあるそうですよ?」



無知な子供は知識を得ることに貪欲で、どんなに嘘臭い話でも信じてしまう。
それを承知でからかう軍人と守護役は質が悪い。
救いは、同じく庶民の常識を知らない王女様がいないあたりか。
彼女は今ガイとティアとともに買い出し中である。



「ど…っく、やった、らっ……止まん、だよっ?」


「そういう時は、驚けばいいんだよっ。ほらっ!」



いきなりトクナガを大きくして襲いかかってきたアニスに、ルークは大声をあげてひっくり返った。
ルークをトクナガで押し潰して、アニスは楽しげに訊く。



「ねーねー、驚いた?」


「そりゃ驚くに決まって……っぅく」


「ありゃりゃ……」



驚いたはいいものの、しゃっくりが止まるまでとはいかなかったらしい。
しゃっくりの回数もだんだんと多くなってきて、100回言えば死ぬ、という嘘を頭から信じているルークはトクナガから抜け出して顔を真っ青にさせる。



「……オレ、このまま死ぬ、ひくっ、とかないよな?」



からかっておいて何だが、なんだか可哀想な気がしてきた。
アニスはほんの少しだけ反省する。


が、そんなアニスの反省をフルスイングで場外ホームランにしてしまう男がいた。
最後の頼み、とばかりに縋るような目で見上げたルークを、胡散臭い笑顔が売りの軍人は心底楽しそうな笑顔で見下ろしていた。



「ジェイド……」


「では次の手段ですね。息を止めてみましょうか」


「息っを、?」



イイ笑顔で頷いた軍人は、アニスが止めるのも構わず(むしろ譜術で返り討ちにして)ルークの顎を掬った。



「こんな風に」



唇に何か当たっているな、とルークが思うのと、ジェイドの綺麗な顔が離れていくのは同時だった。


その間、数十秒。


何が起こったのかわからずまばたきを繰り返すルークに、ジェイドは満足げに唇を歪める。
トクナガを巨大化させたままのアニスが、灰のように真っ白になっているのを横目に、ルークの肩を優しく叩く。



「しゃっくりは止まりましたか?」


「え? あ、うん。止まってる……」


「そうですか。それはよかった」



滅多に浮かべることのない優しい笑顔にルークが頬を朱に染めるのと同時に、我に返ったアニスがジェイドにトクナガを差し向けた。







+++++

しゃっくり続くと喉が痛いですよね。

長髪ルークは猫、短髪ルークは犬。



アニスの疑問は、突然かつ突拍子もなく。



「でもさ〜、ガイってばルークの育ての親みたいなもんなんでしょ? なんであんなワガママ坊ちゃんに育てちゃったわけ?」


「わかってないな、アニスは」


「……何を?」



胡乱げな表情で聞き返すアニス。
ガイは何かのスイッチが入ったかのように、イキイキと話し始めた。



「ルークは素材はいいんだ。綺麗な顔してるだろ? 普段は女王様のように気高い態度で、時々俺にだけ(ここ重要)無邪気な笑顔を見せてくれる……ロマンだ」



うっとりと表情を蕩けさせる変態に、アニスはドン引きである。
うっかり話を聞いてしまった他のメンバーも、トゲトゲしい視線を向けている。



「ごめんなさい、ルーク」


「は? 何だよいきなり」


「私、あなたのこと散々傲慢だとかワガママだとか言っていたから……」


「ちょ、なんでティアが謝るんだよ。オレがワガママで何にも知らないガキだったのは、事実だろ」


「ええ、でも……」



ティアは未だ髪が長かった頃のルークの話をするガイに、心底冷たい目を向けた。



「元凶はアレ(変態と書いてガイと読む)だわ」


「へ?」



きょとんと目を瞬かせるルーク。



「ちょっとお馬鹿な子に照れ隠しで怒鳴られたいだろう!!」



ガイが秘奥義の嵐をくらったのは言うまでもなく。









+++++


ガイラルディア様はMっ子です(ぇ
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